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第二章

第四十八話 何をする気なんだろ……

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「グーラか。何用だ?」

「はっ どうやらシュレインの地下にあった仮拠点の、受け入れ準備が整ったようです。既に幾人かの構成員を、密かに送り込んでおります。よって、そろそろ”祭壇”の移設を開始した方がよろしいかと……」

 男の問いに、平服しながら丁寧な物腰で答えるグーラ。
 あ、ていうかここでは隠語使わないんだ。
 まあ、どうせここまでは来れないだろうし、隠語は使うだけ無駄って意味なんだろうけど……
 もしくは、単純にこの男が隠語を全て把握していないか……かな。

「そうか。ご苦労であった。こちらも準備は完了だ……。やれやれ。流石に天上の女神の目を欺くのは、本当に骨が折れる」

「忌まわしき神の目を欺く……流石は我が”主”」

 肩を竦めてそう言う”主”に、尊敬の念を前面に押し出しながら言うグーラ。
 にしても、天上の女神を欺く……か。
 つまるところ、これは天上の女神――女神エリアスにすら、知られたらマズい……という事になる。
 神が些事で動くとも思えないし……やはり彼らは、世界規模で何か企んでいるようだ。

「んー……”祭壇”っつーよりかは、あの魔法陣のどれか1つでも、解析出来たりしねぇかな……?」

 何を企んでいるのか把握しておきたいと思った俺は、目視で無数にある魔法陣を視て、解析を始める。

「えー……あー……呪い、かな。随分と強力な」

 複雑奇怪過ぎたのと、直接見れていないせいで全然分からなかったが、呪い系の魔法って事だけは分かった。
 それも、相当強力な――それこそ、世界規模の呪いと言っても過言では無い。

「うわー……こっから破壊出来ねぇかなぁ……」

 スライム越しに魔法使えるし、危険を覚悟でやってみようかなぁ……と思ったが、止めておいた。
 あれだけ強力無比な呪いの魔法陣を、外部から力づくで破壊するのはほぼ不可能だと、直感で感じ取ったからだ。しかも俺、そんなに威力のある魔法使えないし……

「さてと。では、移設させるとしよう――起動鍵スペルキー

 直後、目の前にあった”祭壇”が、煙に巻かれるように消えてしまった。
 なるほど。元々移設させる為の魔法を待機状態にさせていたのか……
 見事な手際だ。

「……よし。これで移設は終わったな。俺はここの片付けを済ませてから向かう。グーラは、自分の事に戻ってくれ」

「はっ 了解しました。我が”主”」

 そう言って、再び地面に頭が付きそうなぐらい――というか、実際完全に付いちゃっている礼をすると、立ち上がり、そのまま去って行った。

「よしよし」

 立ち去るグーラから離脱した俺は、物陰に隠れながらようやく”主”の調査に入る事になった。と言っても、そんなに大胆な事は出来ないけどね。

「……ふぅ。それにしても、流石に500年以上住んだここから離れるのは、流石に物寂しさを覚えるな……」

 哀愁漂う雰囲気の中、閑散としてしまった広いこの空間内で、そんな事を呟く”主”。
 はい。この時点で、こいつが500年以上生きている事が、確定してしまいましたー!
 はえーよ。流石に。

「短く見積もってあと半年。何としても、成功させないとな……」

 コツコツと靴音を響かせながら、部屋にある道具を片付けていく”主”。
 あの時、俺を殺そうとした冷徹な表情からは想像も出来ない程、感傷的になっているのが見受けられる。

「……ふぅ。終わったか。さて――」

 やがて、部屋の片付けが終わった”主”は、を見上げると、口を開いた。

「女神エリアス……分かるぞ。今、? 神眼プロビデンスの気配が駄々洩れだ」

「……ん?」

 女神が見てる?
 いやまあ、神なんだから、天上から地上を見下ろしているのだろうが……
 分からん。女神が見てるって感覚が、ちょっと俺には理解できない。

「これが世界秩序崩壊クラスで無い以上、神託も十全に使えていないはずだ。だがまあ、知っての通り、もうじき使えるようになってしまうがな」

 そう言って、薄ら寒い笑みを浮かべる男。
 得体の知れない感じで、ちょっと怖えな……

「……てか、もうじき使えるようになるって事は、普通に世界秩序を崩壊させようとしてるって意味じゃね?」

 世界秩序の崩壊とか言われても全然想像出来ないが……多分きっと恐らく、ヤバいんだろうなぁ……

「俺はやる事をやるだけ――お前はせいぜい、来るべき時が来るまで、じっとしているがいい」

 最後にそう吐き捨てて、”主”は――いや、ノワールは、ふっと消えてしまった。

「……やれやれ。なんかヤバい事になってるなぁ」

 頭を掻きながら、俺は深くため息をつく。
 いや、マジでヤバいって。
 あいつ、人間じゃ無くて神と戦う気だよ。
 人間からの妨害なんて、眼中にすら無いって感じだ。

「ただ、見て思ったんだが、あいつ悪人には見えねぇんだよなぁ……」

 実家の事もあってか、悪意にはそれなりに敏感な俺が保証するよ。
 あいつは、世界を混乱に陥らせてやる的な、生粋の悪人思考では無く――むしろ世界の為に、人間の為に悪人へと堕ちたような感じがする。
 それが、本当に世界や人間の為になるかどうかまでは、一切分からないが……

「……まあ、取りあえずこの事は、レイン殿下に報告しないとな」

 難しい事は、天才に任せるべきだと思いながら、俺は引き続き”祝福ギフト無き理想郷”のアジトを探索するのであった。
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