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第二章

第四十五話 漆黒の魔法師ノワール

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 暫しの静寂。
 そして――

「「……ん?」」

 レイン殿下の発言に、謎にハモる俺とファルス。
 ……いやーちょい待ち。
 俺、普通に聞いた事あるぞ。漆黒の魔法師ノワール。
 ただ、それは――

「もしかしなくとも、あの”六英雄”によって断罪されたノワールって事で、間違い無いか?」

「ああ、その通りだ」

 俺が言おうとしていた事を代弁するように言うファルスの言葉に、レイン殿下はあっさりと頷いた。
 いや、マジかよ。
 流石にそれは、普通に考えたらまずありえないぞ。
 だって、奴は――

「もうとっくに死んでる筈だ。だってノワールは、600年以上前の人間だぞ?」

 そう。漆黒の魔法師ノワールと言えば、今から600年程前、今よりも遥かに強大な魔物が跳梁跋扈していた時代に、世界を救わんとしていた6人の英雄――”六英雄”を裏切り、世界により混乱と破壊を巻き起こした人物として伝わっている。
 歴史は興味なくて、そんなに学んでいない俺だが、”六英雄”に関してはあまりにも有名であるが故に、割と知っているんだよね。

「きゅきゅ?」

「うん。これだね」

 リュックサックの中から唐突にネムが出て来た事を感じ取った俺は、片目だけ戻すと、ネムの身体を優しく撫でる。すると、前に従魔の証として与えた六芒星の黄色いバッジが揺れ動いた。
 そうそう。この六芒星のバッチの由来は、その”六英雄”から来ているんだよね。
 平和の証で縁起がいいって事も、これを従魔の証に選んだ理由の1つなんだよな~。
 とまあ、脱線してしまったが、ようはそんな”六英雄”と同じ時代に生きたノワールが、今も生きているなんて、流石に冗談キツいぜって訳なんだ。
 長命種が居ないこの世界で、100年生きれば超長寿とされているこの世界で――いくら魔法があるとは言っても、それだけの年月を生き長らえるのは……
 いや待て。

「本当に不可能……なのか?」

 垣間見えた実力だけでは不可能だと思うが、もしあれが実力の一端に過ぎないのだとしたら、もしかしたらあるのかもしれない。そう、多少なりとも思うぐらいには、あいつはえげつなかった。

「急にこんな発言をし、混乱させてしまったな。だが、何もかも揃っているんだ。実力も、使う魔法も、動機も。全て、ノワールなら説明がつく」

 突然の爆弾発言によって思考の波を彷徨っていた俺に、レイン殿下はそう前置きをしてから、説明を始めてくれた。

「まず前提条件として、ノワールは6人の英雄を――”六英雄”を裏切った訳では無い。むしろ、彼らと肩を並べて、魔物を殲滅した英雄なんだ。細かい話は紛失してしまったが、本来であれば”七英雄”と称されてもおかしくはない。それほどの活躍はしたというのが本当の話なんだ」

 へーそうだったんだ。
 確かに歴史書って、後世の権力者によって都合よく書き換えられている事がちょくちょくあるって言うよね。
 もしかして、ノワールもその類いなのだろうか……

「詳しい事は、時の権力者の手によってかなり失伝してしまったせいで分からないが、7人の内、彼だけ祝福ギフトが低位のものであったとされていて、それを基点に当時は今以上に忌み嫌われていた闇属性の魔法を好んで使っていた事も相まって、守ろうとしていた民衆に石を投げられたと考えられる。そして、最後は彼が戦うきっかけとなった妹を、グラシア王国の前身となったアヴァン王国の国王によって人質に取られ、救出しに向かった所、集結した”六英雄”によって殺された。私見もそれなりに交じってしまったが、大方こんな所だろう」

「なるほど……確かに動機は十分ですね」

 なんか思ったよりも闇深くて、うわぁ……ってなってしまったが、それと同時に納得も出来てしまった。
 殺されたってのも、本当はギリ逃げられたって考えれば、大体腑に落ちる。

「急にスケールの大きい話をされて、普通に混乱してるのだが……実際、ここまで生き長らえるのか? 実力的に、偽物とか人格の複製って感じではなさそうだろ?」

 何がどうなってんだって感じの顔をするファルスが、レイン殿下に重要な問いを投げかける。

「ああ。それに関してだが、”当時最大級の敵の情報”という形で、ノワールの魔法適正が残されているんだ。それによると、闇属性が580パーセント。空間属性が280パーセント。無属性が190パーセント……らしい。魔力量と魔力容量は不明だが、最低でも”六英雄”の1人、翠緑の賢者ヴェールよりは高い数値らしい。昔の事である為、この情報が真だと確定している訳では無いが……正しいのであれば、闇属性の魔法で魂に干渉し、寿命を延ばす……なんて事も出来るのかもしれない」

「「……えぇ……」」

 再びハモる俺&ファルス。
 いや、ちょーっと待て。
 流石にそれはチート過ぎないか?
 光属性と闇属性40パーセントで、空間属性は90パーセントの俺とは比較にならない程の数値。俺、一応適正に関しては、それなりに高めの数値だしているんだけどなぁ……
 そして、魔力量と魔力容量も当時で1、2を争うレベルってとこか。
 ……まぁーじで化け物じゃねーか。

「……偽物かどうか一旦はっきりさせる為に、ちょっと奴を尾行してみます。その為、それなりに高位の気配隠蔽セクルージョンの魔法石を、褒美に加えてくれませんか?」

「いや、全部は無理だが、ある程度は経費として出そう。そして得た情報を伝えてくれれば、逆に褒美も与える」

 私事で調べる事に、金を出させるのはあれかな~と思った俺は、レイン殿下にそんな頼み事をしてみたが、それに対し、レイン殿下はいい感じの返事をしてくれた。
 当然俺は頷くと、口を開く。

「それでは、そろそろ切りますね。もう少し身の安全を確保しつつ、向こうの動向を少しでも把握しておきたいので」

「ああ、分かった。だが、くれぐれも引き際を、見誤らないでくれ」

「分かりました。流石に、二度目はしません」

 レイン殿下の忠告に、俺はそう答えると、スライムとの”繋がり”を切るのであった。
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