60 / 104
第二章
第四十四話 奴の正体は――
しおりを挟む
幾度と無く転移を繰り返し、何とか逃げ切った俺は、脱力したように路地裏で座り込んでいた。
「マジで終わったかと思った……マジで、良かっ――ごふっ……!?」
緊張から解放された直後、急激に押し寄せて来た胸部と背中の激痛。
そして、気付けば口から血塊を吐き出していた。
「ああ、やってた、かっ……」
そう言えば、あの時強く背中を打ち付けていたな。
戦闘高揚のお陰で持ちこたえていたようだが、それが終わった事で緊張が解れ、一気に来たってとこか。
そんな状況でありながらも、なんだかんだ冷静に物事を考えられている俺は、腰のホルダーからポーションを1瓶取り出すと、口の中へ流し込んだ。
すると、あっという間に傷が癒え、激痛から解放されていく。
「ごほっごほっ……ふぅ。流石はマスターポーション。癒え難い内部の傷も、あっという間に治癒してくれる」
残った血を吐き出すと、そう言って、俺は背中を擦りながら立ち上がる。
「いやーあそこまで明確に死の気配を感じたのは初めてだ」
うん。本当に今回は死の可能性を感じたよ。
俺の戦闘スタイルの関係上、逃走方法は割と考えてあるのだが……あんな規格外な魔法師相手だと、結構綱渡りになって来る。
今後の事も考えて、転移の魔法石もいくつか用意しておくべきだなぁ……
「……さてと。にしても、あいつ何者なんだ? あの部隊を一瞬で壊滅出来るような化け物魔法師が、今まで世に出ていなかったとは、正直なとこ考えづらいのだが……」
今の所分かっているのは、銀髪で氷炎魔眼の若い男性……って感じかな。
「んーこんな特徴的なら出てきそうだが……あーでも、見た目偽っている可能性も考えられるしな……」
幻術幻影系の魔法があるこの世界において、容姿は日本ほどアテにはならない。
魔力とか魔法の適性とか祝福とか。そっちの方が、案外アテになったりする。
「分かっているのは、闇と空間かな。……うん。分からん」
元貴族として、有名どころはあらかた頭の中に入っているのだが、そこまで興味無かった以上、マイナーどこや、遠方の国々の人間に関しては、からっきしなんだよね。
「ま、イグニス経由でレイン殿下に色々と伝わっているだろうし……報酬貰う時に、さりげなく聞いておこうかな」
そう言って、俺は歩き出した。
向かう先は、冒険者ギルド。そこで休憩を挟みつつ、こっちで宿を取るって感じで。
王都で宿を取っていた都合上、勿体ないが……まあ、こんな事があった以上、直ぐにあの宿に戻るのは、流石に気が引ける。
「……ん?」
『きゅきゅきゅー!』
歩き出した途端、唐突にスライムから連絡が来た。
これは……レイン殿下だな。
「あの件について、何か知ってないか聞きに来たってところか」
突入の様子を見るとは言ってなかったが、「シンならやるだろう」てな感じの予想を立てることぐらい、レイン殿下なら容易だろう。
それにしても、随分と行動早いな。報告来てから、ほとんど時間経ってないだろ。
「ま、そういう行動の速さが、レイン殿下の強みなのかもな」
そう言ってふっと笑った後、俺はレイン殿下の所に居るスライムとの”繋がり”を強化した。
すると、そこには危機感を抱いているというのが一目で分かる表情をしたファルス伯爵子息と、危機感を押し殺したような顔をしたレイン殿下の姿があった。
「レイン殿下。どうされましたか?」
俺はその場で立ち止まると、レイン殿下にそう問いかけた。
すると、レイン殿下は即座に口を開く。
「シン。いきなり本題に入るが、”祝福無き理想郷”のアジトに送った突入部隊が壊滅した。メルティ伯爵以下、数多の犠牲を出してしまった。そして、状況を見ていたのなら、どうか知っている事を全て話して欲しい」
レイン殿下らしからぬ、一度に大量の情報投入。相当マズい事が起きたとよく分かっているが故のものだ。
俺は、その問いに淀みなく答えだす。
「はい。森の方から、大方様子は見ていました。ですが、スライムをアジト内部に突入させる前に突入部隊の残党が逃げ出したのを見ましたので、如何様にして突入部隊が壊滅したのかは、ほとんど知りません。分かっているのは、強力な闇属性の魔法の気配が地下から漏れ出ていた事だけですね」
その言葉に、レイン殿下は残念そうに目尻を下げた。
だが、俺は「ですが」と言葉を続ける。
「あの後、スライムを中に送り込みました。そして、アジト内部を探索した結果、その魔法師の顔を見ました」
「なに、本当か!?」
俺の言葉に、レイン殿下はあらんばかりに目を見開いていた。
おや? イグニス経由で顔は伝わっていなかったのか?
んーもしかしたら、その時は顔を隠してたのかもな。フード付きの外套だったし。
「はい。銀髪で氷炎魔眼の、若い男性でした。ただ、その後しくじりまして……そいつの下へ強制転移させられました」
「な……よく、無事だったな」
こちらも怒涛の情報連投。
レイン殿下もファルスも揃ってあらんばかりに目を見開き、驚いていた。
「はい。そこで、奴の手札を見たのですが、高速高圧縮の暗黒破潰と空間断絶結界。後は、相当な腕前の剣術って感じです。その後は上手い事隙を突いて、転移で逃げ出しました……報告はこんな感じですかね」
「そうか……ありがとう。シンが命がけで得てくれたその情報は、非常に価値のある物だ。お陰で――その魔法師の正体が、ほぼ断定できた」
おお、流石はレイン殿下。この情報で、もう特定できたのか。
んーにしても、レイン殿下の顔が渋いな。
何だか、「信じたくないけど、状況からしてこれしか無いんだ!」って感じの、悲痛な叫びを感じられる。
ややあって、レイン殿下が口を開いた。
「正体は恐らく、堕ちた――いや、堕とされた英雄。漆黒の魔術師ノワールだ」
「マジで終わったかと思った……マジで、良かっ――ごふっ……!?」
緊張から解放された直後、急激に押し寄せて来た胸部と背中の激痛。
そして、気付けば口から血塊を吐き出していた。
「ああ、やってた、かっ……」
そう言えば、あの時強く背中を打ち付けていたな。
戦闘高揚のお陰で持ちこたえていたようだが、それが終わった事で緊張が解れ、一気に来たってとこか。
そんな状況でありながらも、なんだかんだ冷静に物事を考えられている俺は、腰のホルダーからポーションを1瓶取り出すと、口の中へ流し込んだ。
すると、あっという間に傷が癒え、激痛から解放されていく。
「ごほっごほっ……ふぅ。流石はマスターポーション。癒え難い内部の傷も、あっという間に治癒してくれる」
残った血を吐き出すと、そう言って、俺は背中を擦りながら立ち上がる。
「いやーあそこまで明確に死の気配を感じたのは初めてだ」
うん。本当に今回は死の可能性を感じたよ。
俺の戦闘スタイルの関係上、逃走方法は割と考えてあるのだが……あんな規格外な魔法師相手だと、結構綱渡りになって来る。
今後の事も考えて、転移の魔法石もいくつか用意しておくべきだなぁ……
「……さてと。にしても、あいつ何者なんだ? あの部隊を一瞬で壊滅出来るような化け物魔法師が、今まで世に出ていなかったとは、正直なとこ考えづらいのだが……」
今の所分かっているのは、銀髪で氷炎魔眼の若い男性……って感じかな。
「んーこんな特徴的なら出てきそうだが……あーでも、見た目偽っている可能性も考えられるしな……」
幻術幻影系の魔法があるこの世界において、容姿は日本ほどアテにはならない。
魔力とか魔法の適性とか祝福とか。そっちの方が、案外アテになったりする。
「分かっているのは、闇と空間かな。……うん。分からん」
元貴族として、有名どころはあらかた頭の中に入っているのだが、そこまで興味無かった以上、マイナーどこや、遠方の国々の人間に関しては、からっきしなんだよね。
「ま、イグニス経由でレイン殿下に色々と伝わっているだろうし……報酬貰う時に、さりげなく聞いておこうかな」
そう言って、俺は歩き出した。
向かう先は、冒険者ギルド。そこで休憩を挟みつつ、こっちで宿を取るって感じで。
王都で宿を取っていた都合上、勿体ないが……まあ、こんな事があった以上、直ぐにあの宿に戻るのは、流石に気が引ける。
「……ん?」
『きゅきゅきゅー!』
歩き出した途端、唐突にスライムから連絡が来た。
これは……レイン殿下だな。
「あの件について、何か知ってないか聞きに来たってところか」
突入の様子を見るとは言ってなかったが、「シンならやるだろう」てな感じの予想を立てることぐらい、レイン殿下なら容易だろう。
それにしても、随分と行動早いな。報告来てから、ほとんど時間経ってないだろ。
「ま、そういう行動の速さが、レイン殿下の強みなのかもな」
そう言ってふっと笑った後、俺はレイン殿下の所に居るスライムとの”繋がり”を強化した。
すると、そこには危機感を抱いているというのが一目で分かる表情をしたファルス伯爵子息と、危機感を押し殺したような顔をしたレイン殿下の姿があった。
「レイン殿下。どうされましたか?」
俺はその場で立ち止まると、レイン殿下にそう問いかけた。
すると、レイン殿下は即座に口を開く。
「シン。いきなり本題に入るが、”祝福無き理想郷”のアジトに送った突入部隊が壊滅した。メルティ伯爵以下、数多の犠牲を出してしまった。そして、状況を見ていたのなら、どうか知っている事を全て話して欲しい」
レイン殿下らしからぬ、一度に大量の情報投入。相当マズい事が起きたとよく分かっているが故のものだ。
俺は、その問いに淀みなく答えだす。
「はい。森の方から、大方様子は見ていました。ですが、スライムをアジト内部に突入させる前に突入部隊の残党が逃げ出したのを見ましたので、如何様にして突入部隊が壊滅したのかは、ほとんど知りません。分かっているのは、強力な闇属性の魔法の気配が地下から漏れ出ていた事だけですね」
その言葉に、レイン殿下は残念そうに目尻を下げた。
だが、俺は「ですが」と言葉を続ける。
「あの後、スライムを中に送り込みました。そして、アジト内部を探索した結果、その魔法師の顔を見ました」
「なに、本当か!?」
俺の言葉に、レイン殿下はあらんばかりに目を見開いていた。
おや? イグニス経由で顔は伝わっていなかったのか?
んーもしかしたら、その時は顔を隠してたのかもな。フード付きの外套だったし。
「はい。銀髪で氷炎魔眼の、若い男性でした。ただ、その後しくじりまして……そいつの下へ強制転移させられました」
「な……よく、無事だったな」
こちらも怒涛の情報連投。
レイン殿下もファルスも揃ってあらんばかりに目を見開き、驚いていた。
「はい。そこで、奴の手札を見たのですが、高速高圧縮の暗黒破潰と空間断絶結界。後は、相当な腕前の剣術って感じです。その後は上手い事隙を突いて、転移で逃げ出しました……報告はこんな感じですかね」
「そうか……ありがとう。シンが命がけで得てくれたその情報は、非常に価値のある物だ。お陰で――その魔法師の正体が、ほぼ断定できた」
おお、流石はレイン殿下。この情報で、もう特定できたのか。
んーにしても、レイン殿下の顔が渋いな。
何だか、「信じたくないけど、状況からしてこれしか無いんだ!」って感じの、悲痛な叫びを感じられる。
ややあって、レイン殿下が口を開いた。
「正体は恐らく、堕ちた――いや、堕とされた英雄。漆黒の魔術師ノワールだ」
546
お気に入りに追加
1,281
あなたにおすすめの小説
作業厨から始まる異世界転生 レベル上げ? それなら三百年程やりました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
第十五回ファンタジー小説大賞で奨励賞に選ばれました!
4月19日、一巻が刊行されました!
俺の名前は中山佑輔(なかやまゆうすけ)。作業ゲーが大好きなアラフォーのおっさんだ。みんなからは世界一の作業厨なんて呼ばれてたりもする。
そんな俺はある日、ゲーム中に心不全を起こして、そのまま死んでしまったんだ。
だけど、女神さまのお陰で、剣と魔法のファンタジーな世界に転生することが出来た。しかも!若くててかっこいい身体と寿命で死なないおまけつき!
俺はそこで、ひたすらレベル上げを頑張った。やっぱり、異世界に来たのなら、俺TUEEEEEとかやってみたいからな。
まあ、三百年程で、世界最強と言えるだけの強さを手に入れたんだ。だが、俺はその強さには満足出来なかった。
そう、俺はレベル上げやスキル取得だけをやっていた結果、戦闘技術を上げることをしなくなっていたんだ。
レベル差の暴力で勝っても、嬉しくない。そう思った俺は、戦闘技術も磨いたんだ。他にも、モノづくりなどの戦闘以外のものにも手を出し始めた。
そしたらもう……とんでもない年月が経過していた。だが、ここまでくると、俺の知識だけでは、出来ないことも増えてきた。
「久しぶりに、人間に会ってみようかな?」
そう思い始めた頃、我が家に客がやってきた。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした
せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
捨てられ従魔とゆる暮らし
KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設!
冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。
けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。
そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。
クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。
一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。
─魔物を飼うなら最後まで責任持て!
─正しい知識と計画性!
─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい!
今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。