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第二章

第四十三話 突入作戦を終え……

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「……逃がしたか」

 空間断絶結界ラプチャー・フィールドを破られ、更にその一瞬の隙を突くかのような、絶妙なタイミングで発動した魔法石による空間転移ワープ
 地味ながらも見事な手際に、男は内心喝采しつつ、空間の揺れを元にシンがどこへ行ったのかを探る。
 だが――

「……まあ、見るからに抜け目ない少年の事だしな。流石に二度目は無い……か」

 複雑に転移されてまったせいで、行方を追う事は出来なかった。
 男は、これ以上はどうしようも出来ないと割り切ると、くるりと背を向ける。

「主。今のは、一体……?」

 時間にしてみれば、1分も無かった出来事に、筆頭幹部グーラはそう問いかけた。
 対する男は、そんなグーラを見て微笑すると、口を開く。

「なに、好奇心旺盛な子供が見ていただけだ。問題は無い。あの様子じゃ、こっちから追うのは、時間を無駄に消費するだけだろうし」

「そうですか……分かりました。こちらはつい先ほど、ネイアと連絡が付きました。至急、今後に向けた会議を開きますので……よろしければ、参加していただけないでしょうか?」

「ああ、分かった。確かにこの状況、俺も聞いておいた方が足並みも合わせられるだろう」

 頷き、そう問いかけるグーラに、男はそう言って同意を示すと、アジトの奥へと歩き出した。

「……どの道、あと少しで完成するんだ。これで、この世界は――変わる」

 そんな言葉が、闇の中で零れ落ちた。

 ◇ ◇ ◇

 レイン・フォン・フェリシール・グラシア視点

「レイン殿下! 近衛騎士団副団長イグニス名誉伯爵より、至急報告があるそうです!」

 執務室で仕事をしていた私は、扉越しに聞こえて来たその報告に、嫌な予感を覚えた。

「なんだか、嫌な予感がしますね。レイン殿下」

 傍で護衛として控える仕事モードのファルスが、私の内心を代弁するかのように言った。
 ファルスもそう感じた以上、私の気のせい……という訳ではなさそうだ。

「分かった。至急、ここへ連れて来てくれ」

「はっ」

 私はそう言って、早急に話を聞く事にした。
 それから、ものの5分足らずで再び扉からノックの音が聞こえてきた。

「イグニス・フォン・レーザルト。只今、参りました」

「入りなさい」

 そう言って、私はイグニスを執務室の中へと入れる。
 そうして入ってきたのは、普段通りの騎士鎧姿のイグニス。だが、その鎧は急いで汚れを取ったような感じが否めなかった。

「イグニス近衛騎士団副団長。何があったのか、最初から説明してください」

 労いの言葉などは、今は無用。
 私は即座に、イグニスが今最も私に伝えたいであろう事を訊ねる。
 それに対し、イグニスは礼をした後、口を開いた。

「最初は、計画通りでした。計画通りに転移を防ぎ、地下深くにあるアジトの天井を破って突入しました。突入した際の、敵の反応からこの突入が想定されていなかった事は明白。その後も、順調にアジトを制圧し、幹部らしき相手まで倒し、捕える寸前にまで至りました」

 ですが――と、イグニスはそこから目尻を下げ、若干の恐れが混じった声音で話を続ける。

「魔法で作られた漆黒の大剣を操る、相当な手練れによって阻まれたかと思えば、その後ろから現れた、正体不明の魔法師によって――蹂躙されました」

 蹂躙という言葉に、私は僅かながらも目を見開かずにはいられなかった。
 ある程度予想出来ていたとは言え……やはり、イグニスが蹂躙という言葉を使うのは、かなり重い。

「これにより、指揮官のメルティ伯爵を始め、上級騎士19名、特別魔導隊7名他、多くの死者を出しました」

「……そうか」

 一部始終を聞き終えた私は、目を伏せると重苦しい言葉を絞り出す。
 イグニスが報告に来る時点で察せられた事だが、まさかメルティ伯爵が死ぬとは……

「……その敵については、どこまで分かっている?」

 だが、ここで私が折れる訳にはいかない。
 私は顔を上げると、毅然とした態度で問いを投げかけた。

「1秒程で紡げるような魔法で、部隊を半壊させました。強力な、闇属性の魔法かと思われます。あと、声音から相手は若い男性だと推測できました。ですが、纏う雰囲気と齟齬があり、偽装している可能性は捨てきれません……申し訳ありません。無学な私では、ここまでしか分かりませんでした……」

「いや、そんな事は無い。正体の解明は、また別の人の役割だ。イグニスには、イグニスにしか出来ない事がある……一先ず、早急に調べ上げよう。では、イグニス。ご苦労であった」

「は……はっ 失礼しました」

 そう言って、イグニスは退出していった。

「……レイン殿下。これ、ヤバくね?」

 公務中であるにも関わらず、素に戻ってしまうファルス。本来であれば……まあ、やんわりと注意するが、今回ばかりは何も言わずに同意する。

「ああ。これは……本当に想定外だ。あの組み合わせで蹂躙されるとなると、いよいよ派閥を考える余裕も無い。父上……陛下の下、国を上げて動く事も視野に入れておいた方が良いだろう」

 この失敗は、貴族派に付け入る隙を与えかねないものだが……そこは、私が上手く対処するとしよう。

「さて、正体の解明はでは難しそうだが、きっと状況を見ていたであろうなら、何か掴んでいるかもしれない」

 そう言って、私はファルスと共に至急の用事だと執務室を出ると、彼――シンと連絡を取るべく、自室へと向かった。
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