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第二章

第三十八話 報告書を踏まえて――

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 レイン殿下から連絡が来た事を感知した俺は、即座にレイン殿下の下に居るスライムとの”繋がり”を強化する。すると、眼前に現れたのは――

「やあ、シン。2週間ぶりだね」

「よぉ……ごほん。シン。元気そうでなによりだ」

 死んだ魚のような――必殺仕事人ワーカホリックのような――そんな顔をしつつも、必死に笑みを貼り付ける、レイン殿下とファルス伯爵子息の姿だった。

「はい。そうですね……ところで、どうかされましたか? 随分と顔色が悪いようですが……体調が悪いようでしたら、また後日でも問題ありませんよ」

 そんな2人に対し、俺は取りあえず形式ぶった労りをしておく。無論、心配は本心から来るものだが……

「くっ お前のせい――がふっ!」

「ファルス。ちょっと静かにして欲しい。大事な話をしているんだ」

 俺の言葉に、やや憎らしげな顔で口を開いたファルス――だが、即座にレイン殿下の右フックが彼の脇腹を襲い、ファルスはそのまま地に沈んだ。
 一方、変わらず笑みを貼り付けるレイン殿下は、何も無かったかのように言葉を続ける。

「いやあ、少々シンから貰った報告書の整理に、時間が掛かってね。最近、かなり寝不足なんだ……ああ、無論シンが責任を感じる必要は無いから、安心して欲しい。むしろ、あれだけ多く丁寧に調べてくれた事は、褒章ものだ」

「そういう事でしたか……それは……ご愁傷様です」

 やけに遠い目をしながら言うレイン殿下の言葉に、俺はそんな言葉しか返せなかった。
 いや~……若干予想してた事だけど、やっぱあの量は多かったかー!
 だけど、ここで「次回からは少なくします」――つまり、手を抜きますだなんて、流石に言えないからな。残念だけど、今後も付き合いをしていくならば、あの量が来る可能性は十分念頭に入れて欲しいと思う。

「ふぅ。さて、少し話が脱線してしまったが、続けよう。まず、シンから貰った報告書だが、全て確認させて貰い、そこから裏も取った。これで、いつでも彼らを処罰する事が出来るだろう――無論、中立派が消えるのは困るから、一度に処罰する事は無いけど……」

「賢明ですね」

 中立派が消えたら、貴族派と国王派の争いが激化する可能性が高くなる。それは、両者としても面倒だろう。
 だったら、中立派にはそれなりの権勢を持ってて貰い、両者の間に立って貰った方が、色々とラク――と言う訳だ。
 まあ、政治についてはそこまで詳しいって訳では無いから、細かい事は全然分からないけど。

「それで、あらかた片付きそうなのだが……1つ大きな問題がある。それが、”祝福ギフト無き理想郷”に関する事だ」

「ああ、あれですか……」

 中立派貴族とは、比べものにならない程抜け目が無く、俺の力を以てしても今だ全貌が掴めない集団――”祝福ギフト無き理想郷”。あそこのアジトらしき場所に踏み込む方法は、現状の俺では無いと言って良いだろう。

「王都近くの森の地下120メートルにアジトらしき場所があるという報告……これを受けて、我々は数日後、突入する事にした。”祝福ギフト無き理想郷”は、表面上はよくある思想集団のようだが――深奥を見ようとすれば分かる、得体の知れなさは、それなりに知られているからね。人員は容易く動かせた――無論、情報の出所は上手く暈かしてあるから、安心して欲しい」

「なるほど……」

 おお、あそこに突入するのか。
 そんじゃそこいらの人員を送り込んだ所で返り討ちになる未来しか見えないが――レイン殿下が主導となって組まれた人員なら、流石に何とかなるだろう。
 ただ、地の利は流石に向こうにある――少しでも下手を打てば、例えこちら側の方が戦力が上だとしても――負けかねない。油断は禁物だ。

「それで、私が知る中で今最も”祝福ギフト無き理想郷”について詳しいであろうシンに、聞きたい事がある」

「聞きたい事……ですか?」

 神妙な顔つきでそう言うレイン殿下の言葉に、俺は思わず聞き返すように言ってしまった。すると、レイン殿下は一拍置いた後、言葉を続けた。

「シンから見て、”祝福ギフト無き理想郷”はどうだった?」

「どうだった……か……」

 これはまた随分と、抽象的な質問だ。
 だが、言わんとしている事は何と無く分かる。確かにそれは、言葉では完全に言い表せない。
 レイン殿下の意図を読み取った俺は、まさしく”祝福ギフト無き理想郷”について思う事を――レイン殿下が求めている事を、言った。

「あまり、近づきたくない相手ですね。アジトには一瞬だけ入りましたが、なんかこう、言い表せない不穏な雰囲気を感じました。故に、突入するのであれば――決して慢心はしないでください。警戒は、し過ぎるくらいが丁度いい。既に、かなりの手練れが居るのは確認済みですので」

 俺は、ネイアとギルオという構成員の雰囲気を脳裏に浮かべながら、そう忠告した。
 それに対し、レイン殿下は暫し黙った後――「そうか」と、呟く。

「……うん。分かった。では、これで此度の仕事――中立派貴族の調査は終わりだ。この件が済み次第、また連絡して報酬の話をするからそのつもりで居て欲しい。……済まないね。ずっとここに、君を縫い付けて」

「そうですね……まあ、その分報酬は期待してますよ。便利で強い魔法石とか、その他諸々。戦闘補助で使える魔道具系をくれると、俺凄く喜ぶな~」

 ちょっと暗い顔をしてしまったレイン殿下に、俺はおどけるような感じでそう言った。
 善意的な部分もあるが、少しでも良い物をくれないかな~なんていう打算的な意味も十二分に含まれているけどね。

「……うん。そうだね。是非期待していて欲しい。いざとなったら、宝物庫でも開けるとしよう――陛下に直談判して」

「国の宝物庫クラスのやつなんて、人前でそう使えませんよ……まあ、ではこれぐらいにして。また数日後」

「ああ。また数日後、連絡しよう」

 そうして話を終えた俺は、スライムとの”繋がり”を切るのであった。
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