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第二章

第二十四話 第三十階層からは……キツいね

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 第二十四階層の休息地点セーフティーゾーンで一夜を明かした俺は、本日中にはこの探索の目的地である第三十階層に着いて、第二十九階層の休息地点セーフティーゾーンへ戻るという予定を立てていた。

「割とここらの階層は手こずるし、昨日みたいに足止めくらったりするから、気合い入れないとな」

 と、そんな言葉を零しながら、俺は先へと進む。
 道中、魔物に幾度となく襲われたが、無詠唱の空間転移ワープ拡張斬撃エクスペンド・ソードをスライムと併用しながら戦うことで容易く撃破していった。
 そして……何の問題も無く第二十九階層を抜け、目的地であった第三十階層に降り立つ事が出来た。

「何か拍子抜けだな」

 第三十階層に降り立った俺は、頭を掻きながらそうぼやく。
 いやー第二十階層以降は、今の俺じゃあそれなりに苦戦するだろうなぁ~と踏んで来たのだが、慣れれば結構あっさりだ。
 じゃあ、このまま第三十階層以降も潜る~?……だなんて発想が浮かびそうになるが、それは無い。
 第三十一階層以降は、危険という理由で魔石灯を取り付けられていない故に真っ暗だが――それは別に障害とは思ってい無い。
 だって、俺はテイマーだぞ?
 暗い所でも視野を保てるスライムと視覚共有をすればいいだけの話だ。
 何ら問題じゃない。
 なら、何が問題なのかと言うと……単純に魔物の強さだ。
 それは、それよりも1つ下のここ第三十階層から言える話なのだが、ここからはBランクの魔物が雑魚キャラみたいな要領で出てくるし、偶にやあ!って感じでAランク下位の魔物が出てきたりもする。
 そんな場所を1人で探索するのは、流石に遠慮したい。

「だから、今から即刻上に戻ろうと思ったのだが……」

 チラリと上の階層へと続く坂を一瞥した俺は、それとは反対の方向――即ちダンジョンの奥へと続く道を見やった。

「どうせなら、第三十階層以降の魔物の実力も見ておくとしよう」

 さっきまでの調子なら、ここでもある程度は通用するだろう。
 そう思った俺は、ミスリルの剣を両手で構え、一歩二歩と歩き出した。
 その直後――

「「「キシャアアァ!!!」」」

 40メートル程先の脇道から姿を現したのは、体長3メートル程の赤い蜥蜴――クリムゾンリザード。
 数は3体。
 皆一様に俺を見るや否や、舌をぺろぺろしながら迫って来る。
 射程圏内に入ったら、あの舌を一気に伸ばして、俺を巻き取ってペロリする気だ。
 全く笑えねぇ。

「「「シャアアアア!!!」」」

 そんな事を思ってたら、彼我の距離が約10メートル――即ち射程圏内に入った瞬間、鞭のように俺めがけて舌を伸ばしてきた。

「それを待ってた!」

 そう言って、俺は拡張斬撃エクスペンド・ソードでミスリル剣の長さを伸ばしながら、横なぎに振って舌を斬り落とす。
 あれ、速いけど一直線にしか伸ばせないせいで、軌道が死ぬ程読みやすいんだよね。
 だから、こんな感じで先読みして剣を振れば、スパッと斬れてしまうって訳。

「かの空間へ送れ」

 そうしてしまえば、後はぶっちゃけ消化試合。
 さらりと短縮詠唱でクリムゾンリザードの頭上に転移すると、勢いよくミスリル剣を振り下ろした。

 ザン!

 中々の手応えを感じつつも、無事1体の首を斬り落とせた。

「流石にこいつの鱗はかてぇ……」

 こちとらミスリル剣使ってんぞ!と、文句をたらたら流しながらも、俺は背後から迫って来ていた尾の攻撃を空間転移ワープで避けつつ、残り2体も仕留めた。

「ふぃー案外やれるね」

 タッと地面に下り立った俺は、意味も無く剣をバッと振りながらそう言った。
 と言いつつ、あの時スライムを使わなかった事が、こいつ自身の強さ――詳しく言うのなら耐久力の高さを物語っていた。
 というかまあ、こいつってスライムで溶かそうとすると、さっきの手応え的に7秒ぐらいかかりそうなんだよな。
 当然、7秒間ずっとスライムで溶かし続けるなんて真似を奴らが許容するはずもなく……まあ、めちゃくちゃに暴れるだろう。
 俺からしてみりゃ、そっちの方が厄介極まりない。
 そうされるぐらいだったら、今のやり方の方が安全だ。

「スライムを使う殺り方の神髄は、攻撃力って言うよりかは、安全な場所から一方的にボコれる所にあるからねぇ……」

 本人が危険地帯に居る時では、ぶっちゃけ本領発揮は出来ない。
 そんな事を思いながら、俺は再び前方に視線を向けた。
 すると、そこにはこちらへ「キシャアアァ!!!」と声を上げながら向かってくる、6体の体長2メートル程の黒蜘蛛――グレータースパイダーの姿があった。

「あの数の巨大蜘蛛は、普通に気持ち悪いなぁ……」

 そう言って頬を引きつらせながら、俺は前方の壁に配置したスライムを基点に、溶解に特化した変異種スライムを10体召喚して、瞳を溶かす。
 すると――

「「「「「「キシャアアアアアアァァァ!!!!!!」」」」」」

 とてつもなく痛かったのか、蜘蛛の糸をアホみたいに四方八方に乱射してきやがった。それによって、若干同士討ちみたいな事になっている。
 勿論、その無差別糸乱射から、スライムたちは即刻避難させたのだが……

「それ、地味に嫌な奴っ!」

 その撃ち方は、めちゃくちゃ避け難い――と言うか、無理。
 空間転移ワープで避けまくるが、途中で左腕にぶち当たって――肉が抉れた。

「くっ」

 こいつらの糸、粘着じゃなくて斬撃なんよ……と内心思いつつ、俺は左腕の怪我を無視すると、引き続きスライムで頭部を溶かして気をそっちの方に若干引かせながら、隙を見て空間転移ワープで接近すると、ミスリル剣で一閃し、次々と撃破していく。

「あ~痛いって」

 その最中、地味にかすり傷を受け続けたが、何とか再びモロに喰らうよりも前に、グレータースパイダーを倒しきる事に成功した。

「血を流したのは、初めてだな」

 前回の怪我は骨折だったが……その時は血を流さなかった。
 即ち、これが冒険者生活における最初の流血となったのである。

「くっそ。それもこんな重傷とはな……」

 チラリと一番傷の深い左腕を見てみると、見事に骨は折れ、肉は抉れ、血が噴き出ていた。
 バチ糞痛ぇ……

「油断したつもりは無かったが……目を潰して放置したらどうなるのか、考えれば分かることじゃないか」

 そう言って、俺は腰のホルダーからマスターポーションを取り出すと、傷口にかけ、完治させる。
 この怪我を治すにはこれしか無いと分かってはいたが……これ、1瓶15万セルする高位のポーションだったんだよね。
 使ってこそとは言え、中々手痛い出費だ。

「まあ……帰るか。ここから先を攻略するのは、俺には早かった」

 そう言って、俺は来た道を引き返すのだった。
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