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第二章

第二十三話 新装備と新魔法

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 ”雷神の大槌”の面々を先へと向かわせた俺は、そっと視線を下に落とした。
 そして、今右手に握られている物を見やる。

「まさか、こんなところで指輪型の魔法発動体を手に入れられるとは、思わなかった」

 そう言って、小さく口角を上げる俺。
 ああ、これは嬉しい。
 指輪型の魔法発動体は、杖型の魔法発動体と比べてコンパクトな分、値段も段違いなんだ。
 杖型の方でも安くて10万セル、高いと数千万セルにもなる。
 だが、指輪型だと安くても500万セル、高いと数億セルにもなるのだ。
 無論、国宝レベルの品であれば、杖型指輪型問わずに数十億円もの価値があるが……これは無駄に豪華な素材を使ってる感が否めないし、使用している魔石がそれこそ伝説クラスのドラゴンで、いくら金を積もうが作れない感じなので、除外とする。

「さて、早速使用感を見てみるか」

 そう言って、俺は指輪型の魔法発動体を右手人差し指にはめた。
 流石に、装備しただけで何かが違う!……なんて事は無いか。
 さて、そんな事より実験体まものは近くに居るかなぁ……?

「……み~つけた」

 某教育番組を思わせるような言葉。
 それと同時に40メートル先の脇道から姿を現したのは、体長3メートル程の銀毛の狼――シルバーウルフ。
 数は……4頭か。

「グルアアァ!!!」

 流石はBランク下位――ここら一帯で出現する魔物の中では最上位と言うべきか、反応が早い。そして、動きも。
 あっという間に詰めてくる。

「あの体毛を魔鋼製の剣で斬り裂くのは、今の俺じゃ物理的に不可能だからな。亜空間を開け」

 そう言って、俺は即座に空間収納スペーショナル・ボックスからミスリルの剣を取り出すと、構えた。

「グルルアアアア!!!」

 先頭に居た2頭が、俺の身体を嚙み砕かんと、その鋭い牙を光らせる。
 直後、俺の姿は目の前から消えていた。

「グルルァ!?」

 無駄に知能がある故の混乱。それが、命取りだ。

「はっ」

 無詠唱の空間転移ワープで右前狼の真横に転移した俺は、剣身に魔力を込めると、首へ一閃した。
 それだけで、シルバーウルフの首と胴が泣き別れとなる。
 だが、それだけでは飽き足らず、俺は振り下ろしながら、再び無詠唱で転移した。

「グルァ……」

 転移先は、左前狼の真横。丁度、今振り下ろしている剣が奴の首と接する場所だ。
 どれ程の熟練者だろうが、ゼロ距離からの攻撃を避ける術はない。
 こっちのシルバーウルフも、首を絶たれ、斃れ、塵となった。
 ここまで、僅か1秒。

「「グルアア!!!」」

 残るは2頭。
 距離にして3.7メートルだ。
 まだ、この剣の間合いの範囲外。
 だが――

「昨日考えた新技。実践投入は初めてだ」

 そう、ぼそりと呟くと同時に、俺はミスリルの剣を横なぎに振った。

「「グルアァ……!?」」

 直後、間合いの外――であるにも関わらず、深々と2頭の頭部には裂傷が走っていた。
 だが、致命傷ではあるもののまだ動けるようで、変わらずこっちへ向かってくる。
 もっとも。

「それなら普通にやっても勝てるけどな」

 そう言って、一閃。
 2頭は今度こそ絶命し、塵となった。
 墓標のように残される4つの魔石。
 その中心で、俺はニヤリと笑った。

「すげぇ、使いやすかったな」

 そう言って、俺はミスリルの剣を空間収納スペーショナル・ボックスにしまうと、右手人差し指にはめられた指輪型の魔法発動体を優しく撫でる。
 いや~ほんと凄いね。魔力の消費を押さえられているってことが、実感出来ちゃったよ。魔力も気持ち精密に操作出来たし。これ、多分1000万セルぐらいするんじゃないかな?
 いやーカツア……ごほん。何でも無い。

「あと、新技もばっちり決まって大満足だ」

 上の方で、一旦弱い魔物相手に試してからにしようと思っていたのだが、指輪型の魔法発動体を手に入れてしまった事で、つい気持ちが高ぶって、使ってしまったが……まあ、結果オーライだ。

「斬撃範囲を拡張する魔法……さしずめ、拡張斬撃エクスペンド・ソードって感じかな」

 そして上機嫌なまま、ノリで昨夜完成した新魔法の名前を付ける。
 そう。さっきの、間合い外からの斬撃――あれは、俺の新魔法によるものだ。
 魔法書には一切載っていなかった、俺が自力で術式を組み上げた魔法。
 その効果は、”空間を歪める事で剣身を伸ばす”――だ。
 今まで離れた相手を剣で攻撃する時は、相手の所に転移門ゲートを開き、そこへ剣を入れなければならなかった。だが、これは転移門ゲートの発動を読まれていた場合、逆に危険だ。
 相手が、その開いた転移門ゲートへ先に魔法を撃ち込んで来れば、こっちが攻撃を受けてしまう。今までは、隠蔽したり油断させたりしてやってのけて来たが、そういったリスクのない方法が欲しいと、冒険者になった時からずっと思っていた。
 そうして生み出したのが、空間を歪めて剣身を伸ばす魔法――拡張斬撃エクスペンド・ソードと言う訳だ。
 拡張距離に応じて必要魔力量は増えていくが、あの距離なら転移門ゲートを使うよりもずっと低コストだ。ただ、転移門ゲートみたく遠距離は出来ず、最長でも7メートルだし、そこまで長いと必要魔力量も格段に増える為、割かし使いどころに注意が必要な魔法となっている。

「さてと。確認も終わったし、行くか」

 苦労して創った新魔法をまだまだ使いたい気持ちはやまやまだが、ダンジョン探索はお遊びじゃない。
 俺は再びスライムの高速並列指揮に切り替えると、再び歩き始めた。
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