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第二章

第二十二話 これはカツアゲではない

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 喧騒が収まって来たところで、グレンさんがおずおずといった様子で口を開いた。

「あの……これ、引っ込めてくれないかな……?」

 そう言って、今も首に突き付けられている仕込みナイフを指差す。

「そうですね……でも、このまま殺して物資を取っちゃっても、お咎め無しなんですよねぇ」

 俺はわざとらしい笑みを浮かべながらそう言った。
 武器を振るった時点で、「殺す気が無かった」は通用しない。
 故に、このまま殺してしまっても、正当防衛で済んでしまうのだ。
 日本ならバリバリ過剰防衛だが……流石異世界。
 すると、グレンさんの顔色が一気に悪くなる。

「えっと……わ、詫びはたっぷりとしますので、どうか許してください! お願いします!」

 Aランクの威厳とか知ったこっちゃ!とばかりに声を上げて謝罪するグレンさん。
 いや、Aランクなんだから、もうちょっと威厳ってものを見せてくれよ……と、内心思ってしまうのは、間違っているだろうか……

「あ~……一応、悪気は無いんだ。頼むぜ」

「うん。詫びはたんまりと出すからさ……リーダーが」

「ええ。お金でも、希少な道具でも。用意するわよ……リーダーが」

「ん、出来る限りの事をする……リーダーが」

 他の”雷神の大槌”のメンバーの言いように、「こいつ、ほんとにリーダーか?」と白けた目でグレンさんを見る。

「そ、そんな目で見ないでくれ。子供にそんな目で見られるのは結構くるところがある……」

 声、震えちゃってるよ。グレンさん。
 しかも俺の目が、こいつのこの反応は演技じゃないと告げている。

「……はぁ。詫び、たんまりとくれよ」

 そう言って、俺は矛を収めた。
 直後、死の重圧から解放されたグレンさんが、ふか~く安堵の息を吐く。

「あ~マジで怖かった。下手打ちゃ、マジで殺されてたかもな……」

「リーダー。これに懲りたら、過度な悪ふざけは止めるんだな」

 肩を落とすグレンさんの肩に、ポンと手を乗せるパーティーメンバー。
 他3人も、うんうんと彼の言葉に頷く。

「まあ、そうなんだけどさぁ……」

 そう言って、うな垂れるグレンさん。
 まーこれは自業自得だ。

「……それで、お詫びに何をくれるんだい?」

 Aランク冒険者からの、精一杯のお詫び。さぞかし凄い物なんだろうな~。
 俺は満面の笑みを浮かべながら、グレンさんに期待の眼差しを向ける。
 そして、手をくいっくいっとやって、「さあ、かもん!」とアピールする。
 すると、そんな眼差しを向けられたグレンさんは、あからさまに動揺し――

「……こ、これ。半端じゃ許されんやつだよな?」

「そうだな。リーダー、諦めろ」

「自分の尻は、自分で拭くんだな」

 グレンさんの両肩に、妙に優しく添えられる手。

「……あの選択をした俺を、殴ってやりたい気分だ」

 もう逃げられないことを悟ったグレンさんは、ずーんと肩を落とすと、徐にリュックサックに手をやった。そして、ジャラリと音が鳴る革袋を取り出す。

「これで、どうだ……?」

 そう言って、惜しむようにグレンさんはその革袋を俺に差し出した。
 俺はやや警戒しつつも、さっと受け取ると、その重さに目を見開きながら、そっと袋の口を開いて中身を確認する。

「……流石Aランク冒険者」

 俺は思わずそう呟く。
 中に入っているのは、小銀貨、銀貨、そして――小金貨。
 合計80万セル程……と言ったところか。
 だが、ここで終わらせないのが俺クオリティー。
 さっきリュックサックの中を漁っている時の視線で、まだよさげなのがあると感づいているんだよねぇ……

「Aランク冒険者に襲われて、僕、凄く怖かったんです……だから、あともう少しだけ、無いですか……?」

「……マジかい」

 この返しは完全に想定外だったのか、頬を引きつらせるグレンさん。
 その後ろでは、「ちゃっかりしてるわね~」とか、「あいつ、暫く安酒しか飲めんな」とか、「全然怯えてなかったような……」とか、「ん、でも今のあの子可愛い」って感じのひそひそ声が聞こえて来た。
 見た感じ、グレンさんに助け舟を出す気はさらさらないっぽい。
 ドンマイ。グレンさん。
 すると、グレンさんは何かを悟ったかのように天を仰いだかと思えば、再びリュックサックに手を入れた。
 そうして、取り出したのは――1つの指輪だった。

「これは、魔法発動体の指輪だ。手に入ったのはいいんだが、もう間に合ってるし……かと言って下手な場所で売れる代物じゃ無いしでな……だから、お前にやるよ。だから頼む! これで勘弁してくれ……!」

「うん。勘弁する!」

 俺は花開くような満面の笑みで頷いた。
 やったぜ!
 まさかこんなところで指輪型の魔法発動体を手に入れられるだなんて、思いもしなかった!
 内心でくるくると舞を踊りながら、俺はグレンさんから指輪を受け取る。

「うう……俺、もう二度と外見で侮らないわ。まさかこんな子供にカツアゲされる日が来るなんて……」

 そんな言葉が、グレンさんの口から零れ落ちた。
 失敬な! カツアゲじゃないぞこれは!
 ただ、お詫びの品を貰っているだけなのだ!
 だが、豪華詫び品にほくほく顔な俺は、そんなの些細な事だとスルーする。

「それじゃあ、お先にどうぞ。頑張ってくださいね!」

 ただ、流石に落ち込んだままダンジョン探索に行かせるのはあれかな~と思った俺は、ちょっとしたお返しとばかりに、年相応の子供らしい笑みを浮かべながら、手を振った。
 すると、彼らは思わずと言った様子で、笑顔になっていく。

「ああ。子供の笑顔だ。元気出るよ……何故か複雑な気分になるけど」

「ん、可愛い」

「だね~……あ、そう言えば君の名前は?」

 ああ、言われてみれば、自己紹介してなかったな。
 逆恨みして、報復しに来るような輩じゃないことぐらいは、過去の情報収集と今相対したことで分かったので、言っても問題ないだろう。

「俺の名前はシン。Dランク冒険者だ」

「おう……因みに年齢は?」

「9歳だ」

「……マジかいな」

 今どきの9歳児って、恐ろしいんだなぁ……という雰囲気が、何故がこの場に充満するのであった。
 解せぬ。
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