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第二章

第十八話 俺流ダンジョン無双

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「ん~順調順調」

 第六階層を、傍から見れば呑気に散歩しているような風貌で歩きながら、気分良くそう言った。腕の中にはネムが居り、「きゅきゅ!」と嬉しそうに鳴き声を上げる。
 相変わらず可愛いね。
 俺はより一層、ネムを愛でてあげる。

「……だけど、俺自身は全然何もしないから、ちょっと暇になって来たなぁ……」

 これじゃあダンジョン探索と言うより、ただのお散歩だよ……と、俺は小さく息を吐いた。
 だが、実際は他のテイマーが知れば即倒ものの所業をやり続けている……という自覚はあるし、そのせいでそれなりに脳のリソースを使っている為、気持ち的な疲れは多少なりともある。
 例えるなら、ぶっ通しで何時間もゲームをしている的な感じ。
 楽しいし、いくらでもやり続けられる感じではあるけど、限界はいつか唐突に来るってやつ。

「ん~まあ、スライムたちの動向を見るのは結構面白いかな」

 例えるなら、某動画サイトに投稿されている探索系のゲーム配信を見ている気分。
 コメントを送れば、必ずそれに応えてくれるっていうサービス付きで。
 ある場所では、俺の指示通りに魔物を倒し、またあるところでは、脇道の深くまで探索をして。

「ん~大量大量」

 スライム越しに空間収納スペーショナル・ボックスを使い、懐が潤っていく感覚を覚えながら、俺はより上機嫌になる。
 すると、脇道の探索に行かせていたスライムの1体から、連絡が来た。
 すぐさま右目を移してみると、そこには2つの迷宮紅水晶メイズ・レッドクリスタルが岩肌から突き出ていたのだ。

「お~運がいい」

 そう言って、俺は腰にぶら下げているツルハシを持つと、転移門ゲートの詠唱を紡ぐ。
 そうして虚空に出現した穴に両手を突っ込むと、片手で迷宮紅水晶メイズ・レッドクリスタルを支え、もう片方の手に握られたツルハシを振り下ろして、採掘した。

「お~悪くない大きさだな」

 穴から手を引っ込め、手にした迷宮紅水晶メイズ・レッドクリスタルを見て、俺は満足そうに頷くと、背中に背負うリュックサックの中に放り込んだ。
 その後、もう1つもしっかり採掘した後、転移門ゲートを閉じる。
 因みにその間も魔物が接近してきていたが、片手間に処理すると、魔石をスライムに掴ませ、リュックサックの中に召喚した。
 その後、スライムを元の場所に召喚して戻せば、万事オッケーって訳。

「ま~我ながら、結構能力を使えてる感あるよなぁ」

 もし他の人がこの能力を手にしたとしても、ここまで使いこなすのは難しいと思う。
 今やってる、他のテイマーが見たら涙目必死の高速並列指揮とかも、最初は全然出来なかった。だけど、何年もやってたら、ここまで出来るようになった。
 言うなれば、あれだ。
 ゲーム初心者が、同じゲームを何年もアホみたいにプレイして、プロゲーマーになったみたいな。そんな感じ。
 ほぼ無意識にやっている魔物の処理も、ゲームと同じようなもので……ほら。ゲーマーって、自分のコントローラーを見ながら操作してないだろ?
 どうすれば、画面上でどのようにキャラが動いてくれるのかが、感覚で染みついている。そんな感じ。

「さ~て……ん?」

 フラッシュ暗算の如く、高速で視界を切り替えて、周囲の情報を確認していた俺は、脇道の奥から主道たるこっちに向かって歩いて来る人の集団を見つけた。
 このまま歩けば、丁度バッタリ出くわすことだろう。

「ん~脇道の深くまで入る冒険者ってあまり居ないからなぁ……もしかして迷賊かな?」

 俺はそんな疑問を浮かべた。
 ダンジョンは、基本的に今俺が歩いている主道と、そこから伸びる主道よりも狭い脇道で構成されている。そして、脇道は全て行き止まりとなっており、尚且つ入り組んでいて迷いやすい。魔物と挟み撃ちになる可能性も高く、ここよりも狭いあの道で挟み撃ちにあったらキツい。しかも、やっと倒したと思ったら、漁夫りにくる迷賊たち。
 ハッキリ言って、あそこに入るのはマジで割に合わない。
 ハイリスク、ローリターンとか、誰が行くかってんだ。
 だが、誰も行かないからこそ、迷賊の住み家として、良く使われているんだよねぇ……

「会話、聞いてみるか」

 俺は極小のスライムをその集団から一番近いスライムの下へ召喚すると、その集団の1人の服に張り付かせる。
 さて、会話内容はどんなのかな……?

「まさか1人でダンジョンを歩いている奴が居るとは思わなかったな」

「ああ。しかも、気配的に子供だ」

「Dランクになったことで調子に乗って、1人で潜るアホか。いつになっても居るよな、身の程知らず」

「ま、旨味はそこまでだが、確実に狩れるからお得だお得」

 はい。アウト~!
 その4人組は、バッチリアウトでした~!
 ”気配感知”でも使って俺を見つけ、「鴨が来たぜ。イエーイ!」している迷賊たち。
 だが、残念。それはこっちも同じ。
 こっちもこっちで、「鴨が来たぜ。イエーイ」って内心思ってる。
 何せ、極小スライムを張り付けてしまった時点で、そのスライムを取り除かない限り、ここからどれだけ離れても俺の攻撃を受ける羽目になるのだから。
 だが、スライムを召喚できるのは、半径5メートルまで……という制約がある為、一応他3人にもつけられる時に付けておこうと思った俺は、その極小スライムに視覚を移すと、そこから他3人の所にも極小スライムを召喚し、張り付かせる。
 これで万が一4人がバラバラに逃げたとしても、攻撃できる。

「ま、まだやらんけど」

 残念だが、変異種スライムによる溶解は確殺じゃない。祝福ギフトや魔法によって無効化まではされずとも、そこそこ耐えられる可能性があるのだ。
 ある程度時間があれば、原因を理解し、対処できる人も少なくはないと思っている。
 だから、目の前まで引き摺り出し、確実に殺る。絶対に逃さない。
 そんな事を思っていたら、とうとう迷賊4人組が、脇道から出てきた。
 奴らは俺の顔を見るなり、ほくそ笑んだ。

「舐め腐ったガキが――」

「開け」

 転移門ゲートの短縮詠唱と同時に、俺は奴ら4人の防具裏に、変異種スライムを2匹ずつ召喚した。

「なっ……ぎゃああああ!!!」

「いぎゃあ、なんだあ!?」

 体を溶かされ、激痛が走る。
 その内、スライムからの報告で、良く溶けている2人――つまり、身体強化の術を持って無いだろう2人は後回しにして、溶ける速度が少し遅い2人――つまり、祝福ギフト等による身体強化で耐えている2人を先に狙う。

「死ね」

 即座に俺は展開していた転移門ゲートの位置を、2人の内の片方にズラすと、勢いよく剣を突き刺す。

「がはっ!」

 突然の激痛から、考える暇すら与えず、俺は首を断ち斬って殺した。

「はあっ!」

 もう片方は、普通に接近して、首を断つ。
 転移門ゲートを使わなくても大丈夫そうなら、魔力温存の為にも、直接動くのが俺クオリティー。
 ここでひよって魔力を無駄遣いし、本当にヤバい時に「あの時使っていなければ……!」ってなるのはごめんだからね。

「で、2人は……ああ、もう死んでるか」

 後回しにしていた2人は、背骨を溶かされたことがとどめになったようで、地面に斃れ伏して動かなくなっていた。
 やっぱえげつねぇなあ……これ。

「さて。そんじゃ、戦利品ゲットしますか」

 そう言って、俺は金や使えそうな物を漁り始めた。
 結果、3万2000セル分の硬貨と、そこそこの値段で売れそうな短剣2本を手に入れた。他にも売れそうなものはあったが、かさばるから遠慮しといた。
 ま、いい臨時収入だったな。
 ラッキー!

「よし。行くか」

 いい感じの臨時収入を得た俺は、再び先へと向かって歩き出すのであった。
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