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第二章

第十三話 ある一時の王太子

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「ふぅ~ナイスです。ゲイリックさん」

 迷賊4人が全員死んだことをこの目でしっかりと確認した俺は、安堵の息を吐くとそう言った。
 すると、ゲイリックさんはギギギ――と油を差し忘れた機械のような動作で頭をこちらに向けた。心なしか、頬が引きつっているようにも見える。

「どうしましたか? ゲイリックさん」

「い、いや。まあ……よくやった。お前のお陰で勝てたよ」

 ゲイリックさんは、「何かとんでもないもの見ちまった気がするなぁ……」って感じの顔――だったが、直ぐにいつもの顔つきになると、そう言った。
 あれ? 何かやらかしたか? 俺。
 別にさっきのはおかしい事でも無いと思うんだけどなぁ……
 だって、言ってしまえばあれば油断を誘って隙を突いただけだ。対人戦において、隙を作り、そこを突くって言うのは、基本だと俺は思っている。
 すると、ゲイリックさんよりも長く固まっていた他3人が、俺の方を向く。

「まあ……ありがと。シン君のお陰で助かったよ」

 ニーナさんは、小さく笑みを浮かべてそう言った。

「いやぁ。中々すげぇやり方だったな……俺、今度からシン君のことシンさんって呼ぶわ」

「うん……子供は侮っちゃいけない。いい教訓になった」

「うん。マジでそれ」

 アルトさんはおどけるように言った後、途端に早口になり、ルイさんは恐ろしい物でも見た……って感じになってた。
 いや、別に”さん”ってつけなくてもいいんだけど……
 どうやらさっきの俺のやり方は、彼らからしてみればドン引きものだったようだ。
 う~ん……まあでも、10歳になるかどうかって感じに見える子供が、躊躇なく人を殺すのは、流石に衝撃的だったかもな……しかも、普通に戦うんじゃなくて、割と卑怯よりな戦い方で。

「まあ、そんな話は置いといて……今の迷賊撃退の功労者はシン君だ。マジでありがとな……それじゃ、後は俺に任せて、お前は休んでろ」

 そう言って、ゲイリックさんは背を向けると、迷賊の死体をガサゴソと漁り始めた。
 あれぐらい強い迷賊なら、いい物持っているんだろうなぁ……なんて思ってたら、ゲイリックさんが手に取ったのは銀色のプレート……つまり、冒険者カードだった。
 他にも漁り、計4枚の冒険者カードといくらかの金を手に取ったゲイリックさんは、俺たちの所へ戻ってくると口を開く。

「金は、全部持ってってくれ。最大の功労者であるお前が手にするべきだろうからな」

「ああ、ありがとう」

 そう言って、俺はゲイリックさんから銀貨8枚を受け取る。
 おお、思わぬ臨時収入!
 これは素直に嬉しいな。

「あと、この冒険者カードは俺が後でギルドへ渡しに行く。どうせ偽名で登録してある以上、大した意味は無いが、一応な」

 ゲイリックさんはそう言うと、4枚の冒険者カードを懐にしまった。
 そして、再び前へと向く。
 死体はそのまま残されているが――時間的に、あと少しすればダンジョンに吸収されるだろう。危険が多いダンジョン内で、冒険者の死体を見ることがほとんどない理由がそれだ。

「さあ、行くぞ」

 そして、俺たちは再び歩き出した。
 ……それにしても、今日は昨日と比べると前途多難過ぎね?
 落差が激しい気がする。
 これがダンジョンか……

 ◇ ◇ ◇

 レイン・フォン・フェリシール・グラシア視点

 これは、少し前の事――
 王城30階にある自室で、私は紅茶と菓子を嗜んでいた。
 室内は静寂に包まれており――とても落ち着く。
 祝福ギフトによって、人並み外れた感知能力を持つ私は、その弊害と言っては何だが人の多い、騒がしい場所が苦手だ。だが、王太子故にそういった我儘は言えない。
 だからせめて、この短い休息静寂を思う存分楽しむとしよう。

「……レイン殿下。シュレインのギルドマスター、ジニアス殿へ無事手紙が届きました」

 お、どうやらあの子――シン君に宛てた手紙がジニアス殿に届いたようだ。
 私は引き続き紅茶を休息を堪能しながら、側に控える男――ファルスに視線を向ける。

「ファルス、ありがとう。君も席に座って茶でも飲みな」

 私は、極数人にしか見せない親しげな態度で、彼に席を勧める。
 その誘いに、彼は「そうだな」と息を吐くと、私と丸テーブルを挟んで向かい合うように腰を下ろした。
 そんな彼の肩には、従魔である鳥型の魔物――ファントムバードの”ミルス”が居た。

「はい、どうぞ」

 私は紅茶を注ぐと、彼に差し出す。

「やれやれ。毎度の事ながら、王太子様に紅茶を淹れて貰うとは、俺は贅沢者だな」

 ファルスは肩を竦めながら冗談を言うように言葉を綴ると、早速紅茶に口を付ける。

「ははは、やめてくれよ」

 そんな彼の言葉に、私は苦笑いを返した。
 ファルス――ファルス・フォン・ジークニス伯爵子息とは、学園に入る前から付き合いがあり、今は私の護衛を務めている。
 そんな彼の祝福ギフトはA級の”テイム”――今思えば、身近に彼のような凄腕のテイマーが居たからこそ、逆にあの子の祝福ギフトが”テイム”だと、この目で見るまで気が付かなかったのだろう。

「さて、取りあえず話を聞きたい訳だが……話を纏めるとどんな感じだった?」

「そうだな。ジニアス殿によると、あの化け物じみた潜入諜報能力だけではなく、戦闘能力も相当高いらしい。詳しくは本人に聞けと言われたから聞け無かったがな」

「なるほど、ね。やはり戦闘能力も高いか」

 元Sランク冒険者であるジニアス殿が強いと言うのだから、生半可な実力者……という訳でも無いだろう。
 すると、ファルスが口を開いた。

「それで、レイン殿下はあのシン殿をどうするつもりなんだ? 配下にするのか?」

 ファルスのもっともな問いに、私は首を横に振った。

「いや、私との関係性をどうするかは、彼に一任するつもりだ。勿論、こちらから希望は出すけどね」

「へ~そこまで相手に譲るとか、知られたら多方から文句言われるぞ」

「だからこそ、ファルスにしか話していないんだよ。あの子は、自由に生きる事を好む、生粋の冒険者気質のように思えたからね。権力で何かを強制しようものなら……最悪国の機密情報全部引っこ抜かれて、他国にバラ撒かれるよ?」

 ガリア侯爵をあそこまで追い詰めたあの子なら、それぐらい何の躊躇いも無くするだろう。
 だが、それを好んでやるような質で無いことも、分かる。
 フィーレル家があの時まで生きていたのが、その証拠だ。

「……会う日が、楽しみだ」

 私は口角を小さく上げると、そう呟いた。
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