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第二章

第十一話 連鎖暴走

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 第十階層に入り、出現する魔物が多くなった後でも、手応えをそこそこ感じるようになった――ぐらいで、特に問題も無く魔物を倒し、先へと進むことが出来た。
 まあ、元々”炎狼の牙”の面々4人で探索できる所に、ちゃんと戦力になる俺が加わっているのだから、当然と言えば当然か。
 そして、あっという間に第十二階層にまで到達する。
 だが、ここまで俺は順調に
 ダンジョン攻略が全て順調に進むことの方が少ないと、知識では分かっていながら――

「……ん? 人の――逃げてる?」

 ダンジョン第十二階層を進んでいると、最後尾にいたルイさんがいきなり立ち止まったかと思えば、怪訝そうに顎を手で撫でた。

「どうした。ルイ――ん?」

 ルイさんに問いかけようとしたゲイリックさんも、遅れて何かに気が付いたような顔をすると、立ち止まる。まるで、気配を探るように――耳を澄ませるように、先を見ていた。
 直後、ルイさんが声を上げる。

「やばい! 多分先にいる奴ら、!」

「何だって!?」

「嘘!?」

「マジかよっ」

 ルイの言葉に、他3人は一斉に反応すると、マズい……とでも言いたげな顔になる。
 一方、俺は何が起きているのか分からず――分かるのは、前方から聞こえてくる足音から、他の冒険者パーティーがこっちに向かって走っているということだけ……ん?
 あ、これはもしや――

「取りあえず第十一階層を目指して逃げるぞ!」

 答えに辿り着いた所で、ゲイリックさんが声を上げた。
 それに、俺たちは反射的に従うようにして、来た道を走って戻り始める。

「……ルイ、数は分かるか?」

「全部は分らんが……最低でも40は居る。距離は100」

「ちっ やっぱそんぐらい居るか。ここでその規模の連鎖暴走トレインとか、ついてねぇ……」

 ルイさんの報告に、ゲイリックさんは苦々しい顔をしながら悪態をつく。

「ああっ やっぱり連鎖暴走トレインかっ」

 そして、答え合わせとばかりに発せられたゲイリックさんの言葉に、俺は嫌そうな顔をしながら言葉を吐いた。
 連鎖暴走トレイン
 それは、冒険者が出現した魔物から逃げ続けることで、追いかけてくる魔物の群れが段々と増えていき、最終的に取り返しのつかない数になってしまうことだ。
 俺は逃げながらも、スライムを1匹召喚して、天井に張り付かせる。
 その後、俺は片目だけ視覚を移しながら逃げることで、情報を正確に得ようとした。

「……うわぁ。やっば」

 逃げながら、俺はスライム越しに見た光景に思わず息を呑む。
 まず、先頭に居るのは2人の冒険者。ぱっと見の強さ的に、2人ではここまで来れない。となると、居たであろう数人の仲間は――お察しの通り、か。
 その後、彼らの30メートル程後ろから追従する魔物の群れ。
 シャドーウルフ、メイズビー、スケルトンナイト――etc
 数は……全部数えてみたら200匹も居た。
 やっべぇなぁ……
 しかも、幸か不幸か冒険者たちは割と逃げれており、それによって脇道などからどんどん魔物が追加され、増えていく。

「こっそりと、仕留めようかな……?」

 こいつらをどうしてやろうか……と呑気に考えていた――直後。

「……ちっ こんな時に」

 逃げる俺たちの行く手を阻む、5匹のシャドーウルフの姿がそこにはあった。
 流石に、目の前のこっち優先だな。

「強化せよ!」

「おらぁ!」

 ニーナさんが、魔力の節約という考えを捨てて、ゲイリックさんに全力の付与魔法を施す。
 それによって身体能力が跳ね上がったゲイリックさんは、鎧袖一触でシャドーウルフを全滅させた。

「すげっ」

 Cランク冒険者らしからぬ出力を持った付与魔法に、俺は内心舌を巻く。
 どうやら、付与魔法が得意と言っていたのは本当だったようだ。
 そう思いながらも、俺たちは必死に逃げる。
 逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。
 ふと、後ろを振り返ってみると、さっきよりも彼我の距離は縮まっていた。

「……ちっ」

 俺は悔しそうに舌打ちを打つ。
 実を言うと、この逃走劇。俺が居なければ、もっと余裕なんだと思う。
 なのに何故、こんなにも余裕がないのかと言うと――皆が、この中で一番足が遅い俺に
 9歳児だからとか、強化魔法が使えないとか、それは言い訳にならない。
 さっさとスライムを使って終わらせた方が――いや、あの手札は隠したい――
 息はかなり上がっており、走りながらスライムを操作する余裕は気が付いたらもう無くなってしまったが――それでもまだ、本当にマズい状態で無いが故に、そんな事を考えていると――途端に体が軽くなった。どうやら、ニーナさんが、さっきよりも出力を落とした身体強化付与エンチャント・ブーストをかけてくれたのだろう。
 直後、皆の走る速度が上がった。そこに、俺はついて行く。
 そして、それから少しして、俺たちは第十一階層に逃げ込むことが出来た。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 ここに居る誰よりも息を上げながら、俺はドサッと地面に手と膝をつく。
 流石に全力疾走をここまで続けたのは、初めてだ……!
 心臓が大きく高鳴り、汗は体中から滴る。
 やがて、落ち着いてきた所でゲイリックさんが口を開いた。

「すまん。シン君。君の体力を考慮できていなかった」

「もっと早く気づいて、付与魔法をかけてあげられなくて、ごめん」

 そこに、ニーナさんも入って来て、申し訳なさそうに言う。

「いや、慢心していた俺には、いい薬になった気がする。自分の体力や身体能力のこと、すっかり忘れてた……」

 俺は嘆息を吐くと、弱々しい声で言う。
 さっきだって、余裕ぶっこいて後ろから来る魔物を攻撃するどころか足止めすらせず、気が付いたらそれすらままならない程体力を消耗していた。
 数百体の魔物を殲滅して、ガリア侯爵を豚箱にぶち込んで――ちょっと天狗になってたかな。
 当然、実力は見せたら見せたで色々と厄介なことになりかねない為、これからも隠す方針で行くが――隠すことを優先して、本当の実力を出せずに死ぬ……なんてことにはならないようにしよう。
 俺はそう、決意した。
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