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第二章

第十話 第十階層からは一味違うらしい

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 次の日。外では、まだ日が昇っていない頃。
 俺は、ネムと戯れながら、任された見張り役を全うしていた。

「暇だなぁ……」

「きゅきゅ?」

 ポツリと誰にも聞こえない声で呟き、それにネムが反応する。
 はぁ……見張りって、こんなにも暇なものなのか。
 だが、任された手前、サボる訳にはいかず、結局きちんと見張りを続けるのであった……
 そして――

「んぁ? ……ああ」

 暫く見張りを続けていたら、まず初めにアルトさんが目を覚ました。その後、まるでアルトさんに呼応するようにして、ニーナさん、ルイさんも起きていく。
 ……あれ? ゲイリックさんは……?

「くぅ~……かぁ~……」

 ……うん。ぐっすり寝てた。
 まあ、一番負担が大きかったのは間違いなくゲイリックさんだし、仕方ないか。
 彼らも、やれやれだぜ……って感じで見ているだけで、起こす気はなさそうだ。
 さて、俺もそろそろ朝食を食べないと。
 俺は空間収納スペーショナル・ボックスから干し肉を取り出すと、ネムと一緒に仲良く食べる。ダンジョン内で、貴重な食料を従魔に与える人はそう居ないだろうが……やっぱ大切な仲間だからな。ネムは。
 適当な森で食べてこ~い……だなんてさせたくない。

「きゅ! きゅ! きゅ!」

 ネムは美味しそうに、干し肉を食す。
 そして、そんなネムを見て癒されながら、俺も同じように干し肉を食すのであった。
 それから少しして、出発する準備を始めたところでようやく目を覚ましたゲイリックさんは、「すまんすまん」とみんなに謝りながら、どこぞのスパー吸引力を持つ掃除機の如く飯を口に放り込み、支度をする。

「……よし。終わった。そんじゃ、忘れ物は……無いな。それじゃ、今日は第十四階層まで行けたらいいって感じで、行くとするか」

 今の時刻は午前9時30分(スライムで見た)。
 俺たちはダンジョンの奥を目指して、第九階層の探索を開始するのであった。
 そして、探索を始めてからそう遠くない内に――

「ん? ここは――」

 俺たちは、休息地点セーフティーゾーンを思わせるような広い空間に入った。
 だが、ここは休息地点セーフティーゾーンでは無い。
 なら、何なのかと言うと――

「ああ。階層主フロアマスターの居場所だ。もっとも、先に出て行った奴が既に討伐しちまったみたいだがな」

 俺の言葉を続けるように、ゲイリックさんが頭を掻きながらそう言った。
 階層主フロアマスターとは、一部階層のある特定の空間に一定周期で出現する魔物のことで、結構強い。
 ここに出現する階層主フロアマスターはロックタートルという、岩で覆われた大きな亀形の魔物だ。
 強さとしてはBランクの魔物で、俺たち5人が挑めば、余程のことが無い限りは負けないだろう……と言った具合だ。あ、勿論俺は剣と空間属性魔法しか使わない……って意味だからね?
 因みに余談だが、俺がスライムを使って挑んだ場合、多分倒すのに10秒かからない。あいつ、多分首の裏に貼り付かれたスライム取れないから。

「次出現するのって、いつなんだろ?」

「今朝倒されたってんなら、明日まで現れんだろうな~」

 俺が思わず口にした言葉に、ゲイリックさんが即答する。
 その後、俺たちは直ぐにここを出て、第十階層に入った。

「よし。第十階層か……シン君。分かってるだろうが、こっからは一味違う。気を抜くなよ」

「分かった」

 ゲイリックさんの忠告を、俺は素直に受け入れる。
 そう。ここから出てくる魔物は、さっきまで襲い掛かって来た魔物よりも一段階強い物へと変わる。
 出てくる魔物の種類は結構あるが――メイズビーやシャドーウルフなど、Dランクの魔物が普通に群れを成して襲ってくる為、流石にここからは気を引き締めておかないと。
 死んだらシャレにならん。
 すると、早速――

「前方から魔物の気配。数は7でメイズビー。そのすぐ横にある穴からは……シャドーウルフが3」

 ルイによる発見報告が為され、俺たちは一斉に警戒態勢になる。
 既に前方40メートル程先に、大きさ1メートル程の巨大蜂――メイズビーがうろうろしていた。シャドーウルフの姿はまだ見えないが、ルイさんが言うのなら居るのだろう。

「よし。アルト、ニナ。敵がこっちに気が付いた瞬間に撃ってくれ。そこに俺とシン君が突っ込む!」

 ゲイリックさんの指示に、俺たちは毎度の如く無言で頷くと、すぐさま行動に移した。

「キシャアァ――!」

 彼我の距離が25メートルとなったところで気付かれ、一斉に羽音を立てながら近づいて来る。

「はっ! はっ! はっ!」

「魔力よ。爆発せよ――散!」

 直後、アルトさんとニーナさんがそれぞれ矢と魔法を放つ。
 アルトさんの矢が次々とメイズビーの体に当たり、ダメージを与え――そこに爆散方向へ即興改変されたニーナの魔力爆裂弾マジックバレットが炸裂する。

「シャアァ……」

 それにより、先頭に居た3匹が死に、また後方に居たことで死ななかったメイズビーは、本体ではなく羽に損傷を受けたことで飛行能力を失い、地面へと落下していく。

「はあっ!」

「はっ!」

 そして、最大の武器たる飛行能力を失ったメイズビーを、俺とゲイリックさんが協力することで確実に仕留めた。

「グルゥ……!」

 その直後、脇道から漆黒の狼が3体姿を現したが――3体だけなら負ける道理は無い。
 俺は剣に少し魔力を込め――

「はっ!」

 剣を横なぎに振り、先頭にいたシャドーウルフの首を斬り落とした。

「はあっ!」

 直後、ゲイリックさんが俺の前に跳び出し、続く2体を同時に薙ぎ払った。
 こうして、第十階層初戦も難なく終えるのであった。
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