上 下
48 / 140
第一章

第四十八話 そんなのチートやチーターやん!

しおりを挟む
「まじか。気づかれてる……」

 予想外の事態に、俺は思わず動揺する。
 すると、俺が動揺していることを何かで察したのか、レイン殿下が安心させるように口を開いた。

「あまり人には言っていないけれど、私はS級の”万能感知”を持っているんだ。だから分かった。まあ、それでもだいぶ朧気で、意識しないと分からないんだけどね」

「”万能感知”……ッ!」

 レイン殿下の言葉に、俺はまたもや驚愕する。
 ”万能感知”
 それは、気配、熱、音、魔力、殺気の5つの感知能力を上昇させる、めちゃくちゃレアな祝福ギフトだ。
 例えC級だろうが、そんじゃそこいらのB級祝福ギフトよりも強力とされているやつの――”S級”。
 もはやこれは世界で1人――唯一無二と言っても過言ではないだろう。

「ははっ こりゃ無理だ」

 思わず乾いた笑いが出てしまった。
 チートもいい所だよ。これは……
 俺も大概だが、レイン殿下も十分理不尽だ。
 だって、実質5つのS級祝福ギフトを持っているようなものなんだから。

「はぁ……しゃーない。こりゃ話すしかないか……」

 ここで会話を渋ったら、最悪敵対してると思われてしまってもおかしくない。
 だが、ここで話しておけば、ワンチャンいい関係を築けるかもしれない。
 そう思った俺は、スライムとの”繋がり”をより強化すると口を開いた。

「凄いですね……殿下」

 思わず口にした第一声は、心からの称賛の言葉だった。
 一方、レイン殿下は目を見開いて驚くと、口を開く。

「ありがとう。でも、君の方が凄いと思うよ。王城の警備を掻い潜り、会議室に侵入するなんて。ところで、姿は……?」

「あ、すみません。こうすれば……分かるでしょうか」

 どうやら殿下は俺が直々に潜入していると勘違いをしていたようだ。
 まあ、不正証拠書類を執務室に置いた人と同一人物であると思っているのなら、最初はそう考えるだろう。
 そんなことを思いながら、俺は普通のスライムをレイン殿下の所に召喚すると、そっちに繋げた。

「これでどうでしょうか?」

 俺の問いに、レイン殿下はただただ目を丸くするばかりだった。

「……なるほど。テイマーだったのか。これは盲点だったよ」

 レイン殿下は感心するように言う。

「まあ、ともあれ出て来てくれてありがとう。君の名前を聞いていいかな? 無論父上であろうと口外するつもりはないよ。初代国王の名において誓おう」

 レイン殿下の言葉に、俺は少しの間悩む。
 うーん。口外しない……か。
 それを信用できるかどうかは悩ましい所なのだが……ただ、レイン殿下なら、分かっていると思うんだよね。
 俺を敵に回す行為は、避けた方が良いってことぐらい。
 この人、結構頭いいから。
 それに、初代国王を引き合いに出しておいて、その誓いを反故にするのは、相当マズいことだからね。
 で、名前を言えば、王国に敵対的ではないという証明の1つになりそうだしなぁ……
 あと、王太子――次期国王と繋がりを作っておくのは、こちらとしてもメリットが大きい。
 何事にも、万が一ってことはあるし。

「……私の名前はシンです。ですが、昔はシン・フォン・フィーレルと名乗っていました」

 俺の言葉に、レイン殿下ははっとなる。

「そうか。君がガリア侯爵の長男だったんだね。5歳を境に、情報が何1つ無くなっていたから、なのだろうとは思っていたけど……」

 レイン殿下の言う、とは、祝福ギフトの階級が低い子供をいない物として扱うという、欲の強い貴族を中心にある風習のことだ。結構根強くて、無くなることはたぶん無い。

「でも、君の祝福ギフトはそんなに弱いのかい? 私にはとてもそうは思えない。今は……9歳だろう? その年齢で、これほどの腕前。S級かと勘違いしてしまったよ」

「それは光栄ですが……違います。私の”テイム”はF級。その証拠に、私はスライムなどの弱い魔物しか”テイム”できません。ゴブリンですら、そこそこ時間がかかります」

「F級……か。それは相当辛かったね」

 レイン殿下は同情するような目でそう言うと、俺(スライム)を撫でる。
 実際は、一部チートな部分があったお陰で、そこまで”テイム”について思い悩むことは無かったんだけどね。
 それよりも、屋敷での扱いの方が辛かった。
 あの状況になってから、4年も持ちこたえたことは、我ながら凄いことだと思っている。

「そうですね。ですが、何とかここまで来ました。そして、勘当された私は、冒険者になったのですが……色々ありまして、怒りが限界を超え、こうやって本気で潰しに来た……と言う訳です」

「ははは……その年で、中立派最大勢力のフィーレル家当主、ガリア侯爵をここまで追い詰めるなんて、凄いことだよ。あと――」

 レイン殿下は乾いた笑みを浮かべながらそう言うと、頭を下げた。

「ガリア侯爵の不正を暴いてくれて、ありがとう。君の――いや、シン殿のお陰で、ここまで円滑に進めることが出来た。もし、このまま野放しにされていたら、いつか取り返しのつかないことになっていたかもしれない。だから、ありがとう」

「あ、頭を上げてください。流石に恐れ多いですよ!」

 一国の王太子に頭を下げられ、俺は思わずそう言う。
 貴族に対しての敬意等はあまりない俺だが、王太子――次期国王に頭を下げられたら、流石にこうなってしまうのだ。

「ああ、そうだね。君のことを考えていなかった。ただ、私なりの感謝として、受け取って欲しいと思う」

「……分かりました」

 何と言ったらいいか分からず、俺はただそう言って、頷いた。
 まあ、頷く様子は殿下からじゃ見えないけどね……

「ふぅ。もう少し話したかったけど、流石にこれ以上話すのは時間的に無理かな。また、機会を作って話をしよう。色々と話したいことがあるんだ。私の方から、いずれ君にコンタクトを取りに行くと思うからそのつもりで」

「分かりました」

 どうやら興味を持ってくれたっぽいな。
 俺と敵対する意思も無さそうだし、一先ずは信用するとしよう。

「よっと。ところで、君はこれからどうするの?」

 席を立ったレイン殿下はふと、どこか世間話でもするかのような感じで口を開いた。

「これから少しガリアの下へ行こうかと思いまして。ちょっと直接ボコしたいなって思ったんですよ」

「なるほど。まあ、程々にしてね。流石に死なせないでよ? そうなると結構困ったことになるから」

「分かっています。では、失礼しました」

 そう言って、俺はスライムを自身の下へ召喚すると、視覚を元に戻した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

双子の転生者は平和を目指す

弥刀咲 夕子
ファンタジー
婚約を破棄され処刑される悪役令嬢と王子に見初められ刺殺されるヒロインの二人とも知らない二人の秘密─── 三話で終わります

転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

なつのさんち
ファンタジー
前世から引き継いだ記憶を元に、男女比の狂った世界で娯楽文化を発展させつつお金儲けもしてハーレムも楽しむお話。 二十九歳、童貞。明日には魔法使いになってしまう。 勇気を出して風俗街へ、行く前に迷いを振り切る為にお酒を引っ掛ける。 思いのほか飲んでしまい、ふら付く身体でゴールデン街に渡る為の交差点で信号待ちをしていると、後ろから何者かに押されて道路に飛び出てしまい、二十九歳童貞はトラックに跳ねられてしまう。 そして気付けば赤ん坊に。 異世界へ、具体的に表現すると元いた世界にそっくりな並行世界へと転生していたのだった。 ヴァーチャル配信者としてスカウトを受け、その後世界初の男性顔出し配信者・起業投資家として世界を動かして行く事となる元二十九歳童貞男のお話。 ★★★ ★★★ ★★★ 本作はカクヨムに連載中の作品「Vから始める男女比一対三万世界の配信者生活:オタク文化で並行世界を制覇する!」のアルファポリス版となっております。 現在加筆修正を進めており、今後展開が変わる可能性もあるので、カクヨム版とアルファポリス版は別の世界線の別々の話であると思って頂ければと思います。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと
恋愛
黒く長い髪が特徴のフォルテシア=マーテルロ。 彼女は今日も兄妹・父母に虐げられています。 それは時に暴力で、 時に言葉で、 時にーー その世界には一般的ではない『黒い髪』を理由に彼女は迫害され続ける。 黒髪を除けば、可愛らしい外見、勤勉な性格、良家の血筋と、本来は逆の立場にいたはずの令嬢。 だけれど、彼女の髪は黒かった。 常闇のように、 悪魔のように、 魔女のように。 これは、ひとりの少女の物語。 革命と反逆と恋心のお話。 ーー R2 0517完結 今までありがとうございました。

君に、最大公約数のテンプレを ――『鑑定』と『収納』だけで異世界を生き抜く!――

eggy
ファンタジー
 高校二年生、篠崎《しのざき》珀斐《はくび》(男)は、ある日の下校中、工事現場の落下事故に巻き込まれて死亡する。  何かのテンプレのように白い世界で白い人の形の自称管理者(神様?)から説明を受けたところ、自分が管理する異世界に生まれ変わらせることができるという。  神様曰く――その世界は、よく小説《ノベル》などにあるものの〈テンプレ〉の最頻値の最大公約数のようにできている。  地球の西洋の中世辺りを思い浮かべればだいたい当てはまりそうな、自然や文化水準。 〈魔素〉が存在しているから、魔物や魔法があっても不思議はない。しかしまだ世界の成熟が足りない状態だから、必ず存在すると断言もできない。  特別な能力として、『言語理解』と『鑑定』と『無限収納』を授ける。 「それだけ? 他にユニークなスキルとかは?」 『そんなもの、最頻値の最大公約数じゃないでしょが』  というわけで、異世界に送られた珀斐、改めハックは――。  出現先の山の中で、早々にノウサギに襲われて命からがら逃げ回ることになった。  野生動物、魔物、さまざまな人間と関わって、『鑑定』と『収納』だけを活かして、如何に生き抜いていくか。  少年ハックの異世界生活が始まる。

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

処理中です...