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第一章

第三十四話 麻薬畑の報告を!

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 冒険者ギルドに着いた俺は、まっすぐ受付へと向かう。
 そして、話慣れている受付嬢に声をかける。

「森の異変に関する情報を、従魔経由で手に入れたので、報告に来ました」

「そうなの!? ……分かった。それで、どんな情報が手に入ったの?」

 受付嬢は一瞬目を見開くも、直ぐに心を落ち着かせると、用紙を取り出し、ペンを構える。

「それが……人目の付く場所では言わない方がいいかと……」

 俺は神妙な顔つきでそう言う。
 森の中に麻薬畑がありましたなんて事実をここで言うのは流石にマズい。もし、犯人の耳が冒険者ギルドにあったら、最悪俺は口封じされる。それはマジで御免だ。
 しかも、俺から見た犯人候補がガリア侯爵と繋がりのある者なのだから猶更だ。

「そう……」

 そんな俺の顔を、受付嬢は真剣な表情で見ると、顎に手を当て、考え込む。

「ん……ギルドマスターに相談してきますね。シン君の持ってきた情報が、的外れであるとは思えないし」

 受付嬢はそう言って、受付の奥に走って行った。
 それから直ぐのこと。
 受付の奥から受付嬢が戻って来た。

「シン君。ギルマスが話を聞きたいとのことです。そこの奥から受付に入って、そこの奥にあるギルマスの部屋に行ってくれないかな?」

「分かりました」

 まさかギルドマスターに直接報告する羽目になるとは思わなかった。
 その事実に若干驚きつつも、俺は迂回して受付に入ると、そのまま受付の奥へと向かう。
 そして、1つの部屋の前で立ち止まった。

「よし……」

 貴族生活で慣れ切っているとは言え、それでもお偉いさんと話すのは緊張する。
 ここのギルドマスターって、元Sランク冒険者なだけあってか、結構発言力も大きいから余計にね。
 俺はゴクリと唾を飲み込むと、コンコンとドアをノックする。
 直後、ドアの向こう側から「入ってくれ」とどこか優しげな声が聞こえて来た。
 まだ10歳にもならない、子供の俺を気遣ってのことだろう。

「失礼します」

 そう言って、俺はドアを開けた。
 部屋は、屋敷で見たガリアの執務室とよく似ている。違う点を上げるとするならば、背の低いテーブル越しに対面するように置かれたソファが部屋の中央にあることだろうか。

「よく来てくれたね、シン君。ソファに座るといい」

 ギルドマスター――ジニアスは武骨な顔で笑みを作りながらそう言うと、自身も執務机から、ソファへと移動する。

「わ、分かりました」

 子供らしさを出しつつ、頷くと、俺はトテトテと歩いて、ジニアスさんと対面するようにソファに座る。
 そして、ネムを膝の上に乗せた。
 すると、ジニアスさんが口を開く。

「ここなら誰にも聞かれる心配は無いだろう。それで、シン君は森でどんな情報を得たんだ?」

「はい。その前にこれを――」

 俺は手元に、スライムを召喚する。
 そのスライムの手(?)には、先ほど森で見かけた畑で拾ったキルの葉が握られていた。
 生物じゃなければ、こうやってスライムに持ってこさせることも出来るんだよね。
 ただし、小さいものに限る。

「ほう。随分と正確だな。それで、スライムが持っている物は……?」

 ジニアスは俺がスライムを正確に手元へ召喚したことに感嘆すると、そのスライムが持っているキルの葉を指差す。
 流石にこれじゃあ分からないか。

「どうぞ、よく確認してみてください。ジニアスさんなら分かるはずです」

 そう言って、俺はジニアスさんにスライムから受け取ったキルの葉を手渡す。
 一方、ジニアスさんは受け取ったキルの葉をじっと見つめ……やがて、険しい顔となる。

「おいおい。マジかよ……こりゃキルの葉じゃねぇか。これ、本当に森で見つけたのか? だとしたらやべぇぞ」

 ジニアスさんはキルの葉をテーブルの上にそっと置くと、頭を抱えてそう言った。
 この反応なら、ジニアスさんはこの件には関与してなさそうだ。
 ジニアスさんが関与している……という線も無くは無かったからな。まあ、色々と調べた上で、ジニアスさんが何かしらの悪事に加担している訳が無いとは知ってたけどね。

「はい。因みに、森の奥にあったのはそれを栽培する畑です。それも、かなりの規模かと。だが、今は魔物によって荒らされてます」

「ちっ あの森の奥に行く冒険者はあまり居ないからな。認識阻害系の魔道具で隠されていたのだとすれば、今まで見つからなかったのも頷ける……」

 ジニアスさんは険しい顔をしたまま舌打ちすると、顎に手を当て、唸り出す。
 おーい。それ、普通の9歳の子供の前でやったら怖がられるぞ~!
 まあ、流石にそれを指摘するつもりはない。指摘するのは面倒だし……

「うむ……情報提供、ありがとな。物的証拠もあるし、今回の件の元凶は間違いなくそれだ。至急、高ランク冒険者を呼び、対処に急ぐとし――『ドンドン』――入れ! どうした!」

 そう言いかけたところで、部屋のドアが強く叩かれた。何やら緊急事態の予感がする。
 ジニアスさんは直ぐに入るよう命令した。すると、1人の受付嬢が入ってくる。

「あの――先ほど、調査に向かった冒険者が帰ってきたのですが、何やら例の凶暴な魔物がシュレインへすさまじい勢いでシュレインへ向かっているらしいです! 数も、最低300匹はいるかと」

「「何!?」」

 受付嬢の言葉に、俺とジニアスさんは一斉に目を見開く。
 そして、俺は慌てて森にいるスライムの視覚を見る。

 ドドド――

「グガアア!!!」

「グガアアア!!!」

 姿は見えないが、そこそこの速度で移動しているのが分かる。
 マジかよ。急に移動しだすとか……あ、もしかしてその調査に行った冒険者を追いかけた結果……とかかな?
 いや、理由はどうあれ、マズいな。
 森から出るまで、あと15分ってところだ。

「くっ 分かった。至急、冒険者を集めてくれ! 緊急で!」

「はい!」

 受付嬢は声を張り上げて頷くと、急ぎ足で受付の方へと戻って行った。

「シン君。従魔経由で、今の状況は分からないか?」

「たった今見ました。このままではあと15分で森から出てきます」

 俺は、今知った情報をジニアスさんに伝える。

「流石だな。もう、見ていたのか。感謝する。では、俺も冒険者を集めるとしよう。俺の言葉なら、ついて来てくれる人もいると思う。では、先に失礼する」

 そう言って、ジニアスさんも足早に出て行ってしまった。

「俺も行くか」

 そう呟くと、俺も部屋の外に出た。
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