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第一章

第二十六話 装備を頼む

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 武器防具店に着いた俺は、一見物置のように見える店内を歩く。
 ここはちょっと裏道に入った場所にある、知る人ぞ知る武器防具店だ。
 何年もスライムを使って情報収集に励んできた俺が、シュレインでもっともいい場所を探した結果、ここに行きついたんだよね。

「おや? ガキが来るとは珍しいな。だが、俺は俺が選んだ客にしか作らんぜ?」

 すると、無精髭を生やした筋肉質なおじさんが、奥から出て来た。
 ここは武器や防具を仕入れて販売しているのではなく、ここで作って販売しているのだ。
 その為品数が少なく、客を厳選しないと生産が追い付かない。

「はい。脛当てと籠手。あとは普段使いの剣を作って欲しくて来たんです」

 俺は正直に、用件を話す。
 この人は、言葉通り、選んだ客にしか作らない。気に入らない客にはどんなに大金を積まれようが断ると言う偏屈っぷりだ。
 だが、彼はその昔、鍛冶ギルドで”期待の新人”と呼ばれていた。しかし、鍛冶ギルドと反りが合わず、脱退して、今はここにいる……と言った感じだ。
 これも全部調べたんだよね。
 いやー流石にこれは大変だった。
 まあ、それでもスライムを大量に動かしたお陰で、そう時間はかからなかったけどね。
 だから、彼の――ムートンの首を縦に振らせる方法も、熟知している。
 それは――

「そうか。なら、聞こう。何のためにそれを使う?」

「ああ。それは、自分自身と、この子たちを守る為に使う」

 そう言って、俺は肩に乗るネムを優しく撫でる。

「そうか……その年で答えを見つけてるとは、驚いたな。それも、キラキラとしたいかにも胡散臭い理由じゃなく、俺好みの理由だ……よし。気に入った。格安で提供してやるよ」

 ムートンさんは上機嫌にそう言った。
 よし! 成功だ……!
 彼を頷かせるには、しっかりとした武器防具を使う理由を見つけていなければいけないのだ。それも、権力者嫌いな彼が好む理由を――
 因みに、俺が言ったことは本心だ。俺は別に、誰かの為に力を振るうような聖人じゃない。もっと身近な、自分が守りたいものを守るために、この力を使いたいんだ。
 森で冒険者を助けたのも、彼らの命を救いたかったからではなく、見捨てたら後味が悪いから助けたまで。
 他人の命に責任を感じはしないからな。そういうのは、屋敷でとっくに捨てた。
 俺自身は決して、強くないんだから。
 ……弱くもないけど。

「ありがとうございます」

 そう言って、俺はムートンさんに頭を下げる。

「その年で、随分と礼儀正しい……いや、お前どこかのお偉いさんか?」

 お、結構鋭いな。
 もしかして、彼の権力者大嫌いセンサーが反応したのかな?

「元貴族家の跡取りだ。今は勘当されて、平民だけどね」

 俺は肩をすくめて、おどけるように言う。

「そうか……随分と苦労したようだな。見れば分かる」

「うん。苦労したね。まあ、無事勘当されたから、今は自由の身さ。屋敷にいた時みたいに、周りに気を遣わなくていいから楽だよ」

「そりゃ良かったな。ついでに言うが、俺も権力者は嫌いだ。あいつらは俺の都合なんざ考えやしねぇ」

 その言葉には、どこか重みがあった。
 詳しくは知らないが、相当辛いことがあったんだろうなぁ……

「あーそんじゃ、早速やってくか。あ、俺の名前はムートンだ。よろしくな」

 そう言って、ムートンさんは俺に手を差し出す。

「ああ。俺の名前はシンだ。よろしく」

 そう言うと、俺はその手を取った。

「よし。契約成立だな。まずはサイズを測らせてもらおう。ちと触らせてもらうぞ」

 ムートンさんはそう言って俺の腕を掴むと、じっと見つめる。

「ふーむ。因みに、何かこうして欲しいとかはあるか?」

「ああ。出来れば動きやすい奴がいいな。用途としては、万が一当たった時に、ダメージを軽減する為だな」

 俺は一発攻撃を受けるだけでもヤバい状況になる可能性がある。それくらい、この体は脆いのだ。それは、並み以上の防具をつけていても同じことが言える。
 何せ、俺は9歳児だからな!
 あーこうなると身体強化系の魔法使いたいなー
 一応光属性魔法に限界突破オーバーロードっていう、体のリミッターを外すことで身体能力を大幅に上げる魔法があり、それが俺の使える唯一の身体強化系の魔法だ。だが、これってリミッターを外すだけだから、別に体の強度は上がらないっていうね……
 とまあ、そんなわけで、動きやすさを重視しつつ、万が一攻撃をくらうことを考慮すると、籠手と脛当てを装備するのが一番……と言う訳だ。

「ふむ。まあ、そんなところだろうな。んじゃ、次は足も見させてもらうぞ」

 そう言て、ムートンさんは膝をつくと、俺の脛回りを触る。
 一見触っているだけのように見えるが、これでもちゃんと測っているのだ。
 ”鍛冶”の祝福ギフトを持っている人の中には、触っただけで適切なサイズが分かる人もいるらしいからね。
 そんなこんなで数十秒、腕と足を触られた後、ムートンはよっこらせと立ち上がった。

「おっし。これで十分だ。そんじゃ、作ってやる。お前さんに合う、いいものをな」

「それはありがたいが……予算は8万セル前後だからな? だから、あまり高価な素材は使わなくていい。払えないから」

「はっはっは。まあ、いいだろう。その値段内で、限りなくいいものを作ってやる」

 ムートンは胸を叩くと、自信満々にそう言った。

「そんじゃ、これから早速作るとしよう。3週間後ぐらいにまた来てくれ」

「分かった。頼みましたよ」

「おう……てか、言葉遣いがごっちゃになってるな」

 ムートンの思わぬ指摘に、俺は「あ……」と固まる。
 確かによくよく思い出せば、貴族っぽい丁寧な言葉遣いと、平民っぽい気楽な言葉遣いが混ざっていたな……

「確かにそうだな。だが、これは仕方ないことだ。ま、数か月すれば直るだろ。それじゃ、また3週間後」

「おう! じゃあな」

 俺は軽く手を振って、歩き出す。
 よし。これで装備品も大丈夫そうだな。

「他に何か欲しいものは……うん。今の所は無いかな」

 思い出していないだけで、必要なものがまだあるかもだが、一先ずはこれで問題ないだろう。

「よし。宿を探そう」

 今の俺は家が無い。言わば、ホームレスだ。
 そして、当然家を買う金は無いし、借りる金も無い。
 ならば、安宿に泊まるのが手っ取り早いだろう。
 だが、あんまり安すぎる場所だと、衛生や治安面の問題が出てくる。
 故に、程よく安い所を狙うべきだ。幸い、その調査も既に終えている。

「さあ、行こうか」

 俺は弾んだ声でそう言うと、目的の宿に向かって歩き始めた。
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