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第一章

第二十四話 テンプレ展開っていいよね

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 数分後、冒険者ギルドに辿り着いた俺は、扉を開けて中に入る。
 冒険者ギルドの中は、さっきより少しだけ人が多かった。だが、まだ混んではいない。
 冒険者ギルドが一番混む時間帯は、依頼を終えて帰ってくる人が多くなる夕方頃なのだ。
 俺は酒場で食事をしながら酒を飲んだくる冒険者たちを横目に、受付へと向かう。
 そして、受付に辿り着くと、受付嬢に声をかける。もちろんさっきと同じ人だ。

「依頼完了の報告に来ました」

「あ、良かった。無事だったのね」

 彼女は俺を見るなり、安心したようにほっと息を吐く。
 俺、そんなに心配されるような人かな?
 ……いや、そうだわ。
 普通に考えて、10歳にも満たないような少年が、魔物のいる森に1人で行くとか言ったら、心配するに決まってる。

「ああ、大丈夫だ。それで、これが依頼のフィルの花とゴブリンの耳だ」

 そう言って、俺はここへ来る途中に空間収納スペーショナル・ボックスから取り出した2つの革袋と依頼書を受付の上に置く。

「分かりました。では、数えさせていただきます」

 受付嬢はそう言って、受付の下から木箱を取り出すと、その中に1本ずつフィルの花を入れて計測していく。
 そして、次にゴブリンの右耳の数も数え……

「……はい。フィルの花は20本ありますので、これで依頼達成になります。また、常設依頼のゴブリン討伐も、達成となります。それでは、冒険者カードの提示をお願いします」

「分かりました」

 俺は頷くと、ポケットから冒険者カードを取り出し、受付嬢に手渡す。
 受付嬢はそれを受け取ると、何か書類を書いてから、返してくれた。

「それでは、報酬金をお渡ししますね」

 そう言って、受付嬢は受付の下でチャリンと音を鳴らしたかと思えば、受付の上にいくつかの硬貨を並べた。

「小銀貨3枚と銅貨8枚になります。確認をお願いします」

「……ああ、大丈夫だ。ありがとうございます」

 俺は報酬金の金額が正しいことを確認すると、それらを後ろのリュックサックに入れる。

「それでは、お疲れ様でした」

 フィルの花を入れていた革袋と、ゴブリンの右耳を入れていた革袋をそれぞれ回収すると、俺は受付嬢に見送られて、受付を後にした。

「……よし!」

 俺は思わず小さくガッツポーズを取った。
 前世含め、これが初めて仕事で稼いだ金だ。
 金を稼ぐというのは、ここまで感慨深いものなのか……!

「さて、後は魔石を売りに行かないとな」

 魔石は冒険者ギルドではなく、魔石ギルドっていうこことはまた別の所で売るんだよね。
 と、言う訳で、早速行こう!
 そう思い、冒険者ギルドを後にしようと歩いていると、ちょうど酒場の前を通ったところで声をかけられた。

「よ~金が入ったんだろ~それでちょっと酒を奢ってくれよ~」

 いい感じに酔っぱらっている男性冒険者が、そう言って俺の前に立つ。
 そして、後ろでその様子を眺めている他の酔っ払い冒険者は、「俺たちにも奢れよ~」と囃し立てている。
 ……うっわーこれが先輩冒険者に絡まれる新人冒険者っていう超テンプレ展開か!
 え? ただ酔っ払いに絡まれているだけだって?
 まあ、そうとも言える。
 ま、そんなことは置いといて、金なんて渡せるわけがない。サクッと断るか。

「いえ、無理です。では」

 そう言って、俺はバッサリとその申し出を拒絶すると、もう要は無いとばかりに立ち去ろうとする――が。

「あ? 生意気なガキが!」

 酔っぱらって短絡的になっているせいなのか、それとも元々そうなのかは分からないが、見るからに子供である俺に向かって殴りかかってきた。
 大人げねぇ~……
 そう思いながら、俺はひらりとその拳を躱す。流石に酔っ払いの拳には当たらないって。
 と言いつつ、結構ギリギリだった。
 いや、仕方ないって。身体能力は年相応程度にしかないんだから。
 どうやっても、速く動けないんだよ。

「ちっ 避けんじゃねぇ!」

 すると、こいつが追撃を仕掛けて来た。
 後ろにいる酔っ払い冒険者たちは……ああ。全然止める気ないな。

「やるか」

 流石にここで逃げるのは癪だ。
 ここは一つ、反撃させてもらおうか。

「はっ」

 俺は再びその拳を躱すと、素早く跳んだ。
 そして、右手をチョキの形にすると、その男の目に向かって……プスッ!
 そう。目つぶしだ。

「ぐ、ぎゃあ……ぐ……うう……」

 目つぶしをくらった男は痛みで声を上げると、両目を手で押さえて蹲る。
 これはまあ、護身術みたいなものだ。
 こいつと無手で普通に殴り合うのは分が悪い。
 だから、こうやってちょっと急所を狙わせてもらったという訳だ。
 他には男の大事な場所……もいい狙い場所ではあるが今回はこっちをチョイスした。

「じゃ、次来たら流石に潰すからね」

 そう言って、俺はその場から立ち去った。
 こういうのが割と日常茶飯事というんだから、この世界ってつくづく治安が悪いよなぁって思う。
 そうして、俺は冒険者ギルドを後にした。
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