上 下
14 / 140
第一章

第十四話 父からの呼び出し

しおりを挟む
 レントが祝福ギフトを授かってから数日後。
 俺は超久々にガリアから呼び出しをくらった。
 用件は聞かされていないが……まあ、予想は出来ている。
 ガリアがこのタイミングで俺を呼び出すなんて、を伝えようとしているとしか思えない。
 そう思いながらメイドに連れられ、執務室の前に連れてこられた俺は扉をノックする。すると、中から低い声で「入れ」と言わた。

「失礼します」

 扉を開け、中に入った俺は平然とした態度で頭を下げる。
 そして顔を上げると、更に数歩歩き、部屋の中央付近で立ち止まる。
 前方には執務机に肘をつき、目の前で手を組むガリアと、その横で控えるギュンターの姿が見えた。
 すると、ガリアが口を開く。

「お前は知らないだろうが、先日私のであるレントが祝福ギフトを授かったんだ」

「それはおめでたいことですね」

 ガリアがレントのことをと言ったことにピクリと頬を動かしつつも、俺は形式ぶった態度で祝福の言葉を言う。
 そんな余裕のある俺の態度が気に入らないのか、ガリアはちっと舌打ちをする。

「レントの祝福ギフトはA級の”剣士”だ。お前とは大違いだな」

 侮蔑するような口調でガリアはそう言う。
 ……何かウザいな。
 チートな部分はあれど、肝心なところはF級相当という”テイム”の祝福ギフトのこと。結構気にしてるんだよね……

「それは本当にそうですね。敵いませんよ」

 ”誰が”とは言わずにそう言う。
 A級だろうが所詮剣士は個としての力。
 剣1本で60万を超える俺のスライムに勝てるとは到底思えない。
 勝てるとすれば、集団戦に強い殲滅系の魔法師とかかな。あとは理不尽の権化ことS級の戦闘系祝福ギフトを持ってる奴全般か。
 ……S級はともかく、殲滅系の魔法師はそこそこ居るな。
 すると、ガリアはまた俺の態度が気に入らないのか、今度は鼻を鳴らす。

「ふん。随分と余裕そうな態度だな。お前が今、どんな立場なのか教えてやろうか?」

「いえ、結構です。僕がどのような立場に立っているのかはよく分かっていますので。どれだけ努力しようが、もう当主にはなれないということを――」

 子供相手に随分と大人げないことをしてる奴だなぁと思いつつ、俺はガリアにそう言う。
 すると、ガリアは「なんだ。分かっているではないか」とどこか驚いたような口調で言った。

「なら、話は早い。この私、ガリア・フォン・フィーレルが命じる。本日、お前をフィーレル家から勘当する。今後一切フィーレルの名を名乗ることは許さん。荷物をまとめ、即刻出ていくといい」

 どこか愉悦に満ちた声で、ガリアはとうとう俺にその命令を下した。
 勘当されたと言われた瞬間、俺はちょっとした喪失感と、ここから出られる喜びを感じた。

「分かりました。これまでお世話になりました」

 平然とそう言って、俺はくるりと背を向ける。
 こうして俺は最後まで表情も口調も変えることなくガリアとの対話を済ませ、執務室を後にした。
 背後から「最後まで忌々しい奴だ」と聞こえてきたが、無視してやった。

「……さて、最後に嫌がらせでもしとくか」

 部屋に戻った俺は、ニヤリと笑みを浮かべる。
 あいつは荷物をまとめてここを出て行けと言った。
 ならその”荷物”。別に宝物庫にあるでも問題ないよねぇ?

「よし。近づいてくる奴はいない……な。魔力よ。空間へ干渉せよ。空間と空間を繋げ。我が身をかの空間へ送れ」

 直後、俺の姿は部屋から消え――

「よっと」

 次の瞬間には宝物庫の中にいた。
 様々な貴重品が床に置かれており、これぞ宝物庫って感じがする。

「まさか宝物庫に転移されるとは思ってないだろうな」

 顎に手を当て、クククと笑いながら、俺はそう言う。
 この宝物庫には、当然魔道具で魔法の結界が張られており、専門的な技術を有していない人が侵入しようと思えば、警報覚悟でそれを壊すしかない。が、俺の場合は違う。
 1年程前、宝物庫へ向かうガリアの服の裏にこっそりとスライムをつけておいたのだ。
 そのスライムは体長僅か2センチほどしかない変異種であった為、バレることは無かった。
 あとはそのスライム越しに”転移座標記録ワープ・レコード”を使って座標を記録して転移出来るようにしたって感じだ。
 その後、そのスライムは普通に召喚で回収すれば問題なし……うん。我ながらいい作戦だったな。

「さてと。どれにしようかな……?」

 取るとは言ったものの、あからさまにレアなやつを取ったら、その捜索が行われた時に俺が容疑者の1人として扱われる可能性もある。それは非常に面倒だ。
 だから、ここは取っても暫くは取られたことが発覚しなさそうな、埋もれているものを貰うとしよう。

「なーにかいいのは……お、これいいじゃん!」

 そう言って、俺が引っ張り出したのは宝物庫の奥に埃をかぶって放置されていた剣だ。
 すっと鞘を抜いてみると、見事な刀身が露わとなった。

「おお。これはミスリルだな」

 ミスリル製の刀身を見て、俺は感嘆の息を漏らす。
 ミスリルとは、ファンタジー世界では定番の白銀色の金属で、硬くて魔力を良く通すのが特徴だ。故に、刀身に魔力を流して斬れば、結構な斬れ味となる。

「うん。これを貰ってこう。ミスリルの剣が結構レアだから、変に目立つ可能性もあるが……まあ、人前で使わなきゃ問題ないだろ。ネム、埃を食べてくれ」

「きゅきゅきゅ!」

 ネムは任せて!とでも言うように元気よく鳴き声を上げると、刀身に纏わりつく。そしてそのままずりずりと持ち手まで移動する。
 その後、鞘の埃も同様に食べると、俺の胸に跳びついた。

「ありがとう」

 そう言って、俺はネムを撫でる。
 スライムは基本何でも食べるが、このように埃も食べてくれる。
 いやーこれはありがたいね!
 一家に1匹スライムがいるだけで埃は格段に減る!
 まあ、現実はそうもいかず、埃以外も色々と食べるから逆に迷惑になるっていうね。
 ネムはテイムされているから、問題ないのだけど。

「さて、魔法発動体……は出来れば指輪型がいいけど……ここにはちょっとしかないな。これはやめとくか。使う頻度も高いだろうし」

 魔法発動体とは、魔法師が良く持っている杖のことで、あれに魔力を通して魔法を発動させると、威力が少し上がったり、消費魔力が少し減ったりする。仕組みとしては、単純に魔法発動時の無駄を省いただけだが、その効果は絶大だ。
 だが、俺の場合は基本的に空間転移ワープで背後を取ってから剣で斬るのが主な戦い方となる為、どうしても杖だと邪魔になる。
 そこで目をつけたのが指輪型の魔法発動体なのだが、これは結構貴重なんだよね。見た感じ、この宝物庫には2個しかない。ガリアとミリアが常に所持しているのを含めても4個。流石にこれを取ったら直ぐバレて、面倒なことになりそうだな。

「はぁ……じゃあもう行くか。これ以上ここに時間を費やすのはマズそうだ」

 自室にいないことがバレる前に戻ろうと思った俺は、その剣を手にしたまま、即座に空間転移ワープで自室に転移した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

双子の転生者は平和を目指す

弥刀咲 夕子
ファンタジー
婚約を破棄され処刑される悪役令嬢と王子に見初められ刺殺されるヒロインの二人とも知らない二人の秘密─── 三話で終わります

転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

なつのさんち
ファンタジー
前世から引き継いだ記憶を元に、男女比の狂った世界で娯楽文化を発展させつつお金儲けもしてハーレムも楽しむお話。 二十九歳、童貞。明日には魔法使いになってしまう。 勇気を出して風俗街へ、行く前に迷いを振り切る為にお酒を引っ掛ける。 思いのほか飲んでしまい、ふら付く身体でゴールデン街に渡る為の交差点で信号待ちをしていると、後ろから何者かに押されて道路に飛び出てしまい、二十九歳童貞はトラックに跳ねられてしまう。 そして気付けば赤ん坊に。 異世界へ、具体的に表現すると元いた世界にそっくりな並行世界へと転生していたのだった。 ヴァーチャル配信者としてスカウトを受け、その後世界初の男性顔出し配信者・起業投資家として世界を動かして行く事となる元二十九歳童貞男のお話。 ★★★ ★★★ ★★★ 本作はカクヨムに連載中の作品「Vから始める男女比一対三万世界の配信者生活:オタク文化で並行世界を制覇する!」のアルファポリス版となっております。 現在加筆修正を進めており、今後展開が変わる可能性もあるので、カクヨム版とアルファポリス版は別の世界線の別々の話であると思って頂ければと思います。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと
恋愛
黒く長い髪が特徴のフォルテシア=マーテルロ。 彼女は今日も兄妹・父母に虐げられています。 それは時に暴力で、 時に言葉で、 時にーー その世界には一般的ではない『黒い髪』を理由に彼女は迫害され続ける。 黒髪を除けば、可愛らしい外見、勤勉な性格、良家の血筋と、本来は逆の立場にいたはずの令嬢。 だけれど、彼女の髪は黒かった。 常闇のように、 悪魔のように、 魔女のように。 これは、ひとりの少女の物語。 革命と反逆と恋心のお話。 ーー R2 0517完結 今までありがとうございました。

君に、最大公約数のテンプレを ――『鑑定』と『収納』だけで異世界を生き抜く!――

eggy
ファンタジー
 高校二年生、篠崎《しのざき》珀斐《はくび》(男)は、ある日の下校中、工事現場の落下事故に巻き込まれて死亡する。  何かのテンプレのように白い世界で白い人の形の自称管理者(神様?)から説明を受けたところ、自分が管理する異世界に生まれ変わらせることができるという。  神様曰く――その世界は、よく小説《ノベル》などにあるものの〈テンプレ〉の最頻値の最大公約数のようにできている。  地球の西洋の中世辺りを思い浮かべればだいたい当てはまりそうな、自然や文化水準。 〈魔素〉が存在しているから、魔物や魔法があっても不思議はない。しかしまだ世界の成熟が足りない状態だから、必ず存在すると断言もできない。  特別な能力として、『言語理解』と『鑑定』と『無限収納』を授ける。 「それだけ? 他にユニークなスキルとかは?」 『そんなもの、最頻値の最大公約数じゃないでしょが』  というわけで、異世界に送られた珀斐、改めハックは――。  出現先の山の中で、早々にノウサギに襲われて命からがら逃げ回ることになった。  野生動物、魔物、さまざまな人間と関わって、『鑑定』と『収納』だけを活かして、如何に生き抜いていくか。  少年ハックの異世界生活が始まる。

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

処理中です...