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第一章

第三話 祝福は――F級

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「ん……」

 俺は馬車に揺られながら、窓の外をじっと眺める。
 そこには多くの民がいて、賑わいを見せていた。
 ここはグラシア王国有数のダンジョン都市、シュレインで、フィーレル侯爵家が代々統治している所だ。
 その名の通り、ここにはダンジョンという魔物が湧き出る地下遺跡のようなものがあり、そこに出現する魔物の素材の取引が盛んだ。俺もダンジョン攻略したいなぁ……
 ただ、俺は貴族だ。おいそれとどこかへ行くことは出来ない。欲しいといえば大抵のものは手に入る貴族生活はめちゃくちゃ楽なのだが、こういうところは嫌になる。
 そんなことを思い、若干憂鬱になっていたら、馬車が止まった。
 窓の外を見れば、そこには白を基調とした荘厳な教会があった。
 すると、馬車のドアが御者によって開けられる。

「よし。行くぞ、シン」

「分かりました。父上」

 父の言葉に頷くと、俺は両親の後に続いて馬車から降りる。そして、平民の人払いが済まされた教会の中に入った。

「おお……」

 教会には何度か入ってはいるが、相変わらずここは凄い。
 ここには荘厳な雰囲気が漂っており、自然と気が引き締まる。
 柱や壁は彫刻で細かく美しく装飾されており、両側にある木製の長椅子は逆に質素というのがなんだかいい味を出している。
 そして、特段目立つ奥のステンドグラス。そこから差し込む光がすぐそばにある主神エリアス様の像を明るく照らしている。
 すると、俺の前に立った1人の神官服を着た男性が、深く頭を下げると、口を開いた。

「ようこそおいで下さいました。ご子息のお誕生日、まことにおめでとうございます」

「うむ。では、早速だが祝福の儀を始めていただけないだろうか?」

「かしこまりました。では、シン・フォン・フィーレル様。私について来てください」

「分かりました。司教殿」

 俺はその男性――司教の言葉に頷くと、両親をその場に残して歩き始める。
 やがて、主神エリアス様の像まで来たところで司教が口を開いた。

「では、こちらで膝をつき、祈りを捧げてください」

「ああ、分かった」

 司教に言われた通り、俺はその場で膝をつくと、両手を組む。
 そして、良い祝福ギフトが貰えることを祈る。
 いやーマジで頼むよ。本当にお願いします!
 転生者特典みたいなやつで、S級の祝福ギフトをお願いします! あと、出来れば戦闘系のやつで!
 神様が俺の心を読んでいれば、「随分欲深い奴だなぁ」と思われるかもしれないが、そこをどうかお願いします!
 俺はぎゅっと目を瞑り、より強く手を組みながら神に祈る。
 すると、ふわっと何か温かいものが俺を包み込んだ。女神に抱擁されているかのような、そんな温かさだ。
 お、もしやこれが祝福ギフトを授かる感覚なのだろうか?
 やがて、その温かさが消えてきた頃、頭の中に柔らかな女性の声が響き渡った。

『”テイム”の祝福ギフトを授けよう』

 脳内に直接響き渡るかのような声に、俺は思わず目を見開く。
 直後、俺の横に立っていた司教が口を開いた。

「どうやら無事、祝福ギフトを授かったようですね。ガリア様、ミリア様。どうぞ、ご子息のもとへお越しください」

 司教の言葉で俺は顔を上げ、組んでいた手を下におろすと、背後から歩み寄ってくる父と母に顔を向ける。
 すると、父と母はまるで期待するような瞳で俺のことを見ていた。そして、直ぐに父が口を開く。

「シンよ。どのような祝福ギフトだったのか、早速教えてくれないだろうか?」

 まるで急かすかのように、父は俺にそう言う。母も流石に気になっているようで、父の言葉に頷いていた。

「はい。僕は主神エリアス様から”テイム”の祝福ギフトを授かりました」

 すると、父は顎を撫でながら「ほう」と舌を巻く。母も似たような反応だ。

「なるほどかなり良い方だな。小型の鳥系の魔物をテイム出来れば、執務が円滑に進む」

「もし、A級ならワイバーンを従魔にして、竜騎士にもなれるわね。領主が竜騎士になれば、民からの信頼もより厚くなるわ」

 2人は俺の祝福ギフトの内容に、喜びを露わにする。
 確かにこの”テイム”っていうのは便利そうだよな。
 ”テイム”を授かった時に”テイム”についての知識が軽く入って来たのだが、これは心臓の代わりに魔石を持つ生物、魔物を従えさせることが出来る能力のようだ。そして、従えた魔物はどこにいても好きな時に召喚することが出来きたり、魔物と視覚を共有できたりと、中々に便利。どの程度の魔物までテイム出来るのかは、現状あまり分からないが、感覚からしてワイバーンは無理だと思う。だから、母の希望には答えられそうにないなぁ……
 すると、喜ぶ2人に司教が声をかける。

「次に、祝福ギフトの階級を測らせていただきます。では、シン様。そちらの台に手を置いて下さい」

「分かりました」

 俺は頷くと、背後から期待の眼差しを受けながら前方にある変な紋様が描かれた大理石の台の上に右手を乗せる。
 すると、その紋様が淡く光り出した。そして、前方にホログラムのようにして何かが映し出された。
 そこにあったのは――”F級”の文字。
 ……ん?ちょっと待て。
 いや、まさかとは思うがこれが俺の階級とかじゃないよな?
 まさかとは思うが、これはないよな?
 F級って確率的にはA級が出る確率と同じくらい珍しいやつなんだよ。
 そんなのそうそう出す訳が――

「……残念ながら、F級ですね」

 もの凄く言いづらそうにしながらも、司教は父と母にそう報告する。
 あ、やっぱりそうなのね。やっぱりF級なのね。
 本当にF級だったことに、落胆を通り越して変な笑いがこみ上げてきそうだ。
 そして、当然父と母も落胆しており、半ば放心状態になっていた。まあ、だよね。うん。そうだよね……
 すると、父が無言のまま、幽鬼のようにふらふらと俺に近づく。
 そして――

 パチン

 勢いよく俺の右頬を叩いた。
 乾いた音と共に、ジンジンと右頬が痛む。

「え……」

 俺は思わず呆然とする。
 すると、父が背を向けたまま、口を開いた。

「帰るぞ」

「……分かりました」

 硬い声で紡がれた短い言葉に、俺は俯きながら返事をする。
 ふと、母を見てみると、母は冷たい眼差しで、軽蔑するように俺を見ていた。
 まるで、もうお前は私の息子ではないと言われているような気がする。
 俺は重くなった足をなんとか動かすと、とぼとぼと歩き始め、教会を後にした。
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