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97.集まる光
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「両腕を重ね合わせる形で防御姿勢を取られたようです。結果、左腕が両目を圧迫して眼窩底――目の周囲の骨を骨折。特に右目は左手がめり込んでしまったこともあり大きく損傷していました」
「失明の可能性は?」
「残念ですが両目ともに」
「そんな……っ」
嘲笑が響き渡る。運命の残酷さに禁じていた涙までもが零れかける。
「これはあくまで推測ですが」
波多野が遠慮がちに切り出した。一縷の希望を胸にその先を待つ。
「景介君は恐怖の一瞬の中、必死になって生き延びようとしたのだと思います。目と腕の負傷はそのあらわれかと」
見れば右腕にも包帯が巻かれL字型に固定されていた。事故に遭った瞬間のことを思うと胸が張り裂けそうになる。どれほど怖く、痛く、苦しかっただろう。鼻を啜ると肩に重さを感じた。
――父だ。
ぼろぼろと涙を流しながら微笑んでいる。
「父ちゃん……」
疑問、罪悪感そして怒りが込み上げてくる。なぜ母は助からなかったのかと。
「先生」
父が波多野に問いかける。
「左手は折れていないのですよね?」
「ええ」
「触れても?」
「ぜひ」
「だそうだよ。ルーク」
「……うん」
父に促されるまま比較的傷の少ない左手薬指を触れた。
「あったかい。ケイ、生きてる。……~~っ、生きて……っ」
手の中に生命を感じる。あの時の母とは違う。
――ちゃんとここにいる。
泣きながら安堵と感謝の言葉を紡いだ。生きてさえいればいい。支えるから。支えることが出来るから。
――12月24日・深夜。
ICUに移って直ぐのところで頼人、照磨、進、未駆流の四人が駆けつけてきた。頼人はメガネに黒のダウンジャケット、茶色のセーター、カーキ色のカーゴパンツ。照磨はカーキ色のミリタリージャケット、黒のストレートジーンズ。進はベージュ色のダッフルコート、濃いブルーのストレートジーンズ。未駆流は水色のチェスターコート、黒のチェックシャツに白いパンツを合わせていた。
「なっ……」
「っ! これは……」
「嘘、だろ……」
「…………」
皆が絶句する中、照磨が徐に切り出した。
「高貫照磨です。ルーカス君とは同じ同好会のよしみで、景介君とも仲良くさせてもらっています。突然のことでご心痛はいかばかりか。……でも、生きていて本当に良かった」
照磨はその後、進、未駆流、頼人の順に紹介していった。一通り話し終えたところで頼人が声を掛けてくる。その目は赤く、濡れていた。
「俺で力になれることがあったら何でも言ってくれよな」
「俺じゃなくて、俺"達"でしょ」
「うん。僕も担任として、友達として力になりたい」
「ああ。俺も協力は惜しまない。憎らしくも愛おしい弟子のためなら」
「みんな……っ」
一寸先も見えないような暗闇に一つ、また一つと光が差し込んでくる。
「あっ、ありがとう……!」
フレームの中に一人閉じこもっていた頃からは考えられないような今を生きている。みんなとならきっと乗り越えられる。どんな苦難が待ち受けていようとも――。
「失明の可能性は?」
「残念ですが両目ともに」
「そんな……っ」
嘲笑が響き渡る。運命の残酷さに禁じていた涙までもが零れかける。
「これはあくまで推測ですが」
波多野が遠慮がちに切り出した。一縷の希望を胸にその先を待つ。
「景介君は恐怖の一瞬の中、必死になって生き延びようとしたのだと思います。目と腕の負傷はそのあらわれかと」
見れば右腕にも包帯が巻かれL字型に固定されていた。事故に遭った瞬間のことを思うと胸が張り裂けそうになる。どれほど怖く、痛く、苦しかっただろう。鼻を啜ると肩に重さを感じた。
――父だ。
ぼろぼろと涙を流しながら微笑んでいる。
「父ちゃん……」
疑問、罪悪感そして怒りが込み上げてくる。なぜ母は助からなかったのかと。
「先生」
父が波多野に問いかける。
「左手は折れていないのですよね?」
「ええ」
「触れても?」
「ぜひ」
「だそうだよ。ルーク」
「……うん」
父に促されるまま比較的傷の少ない左手薬指を触れた。
「あったかい。ケイ、生きてる。……~~っ、生きて……っ」
手の中に生命を感じる。あの時の母とは違う。
――ちゃんとここにいる。
泣きながら安堵と感謝の言葉を紡いだ。生きてさえいればいい。支えるから。支えることが出来るから。
――12月24日・深夜。
ICUに移って直ぐのところで頼人、照磨、進、未駆流の四人が駆けつけてきた。頼人はメガネに黒のダウンジャケット、茶色のセーター、カーキ色のカーゴパンツ。照磨はカーキ色のミリタリージャケット、黒のストレートジーンズ。進はベージュ色のダッフルコート、濃いブルーのストレートジーンズ。未駆流は水色のチェスターコート、黒のチェックシャツに白いパンツを合わせていた。
「なっ……」
「っ! これは……」
「嘘、だろ……」
「…………」
皆が絶句する中、照磨が徐に切り出した。
「高貫照磨です。ルーカス君とは同じ同好会のよしみで、景介君とも仲良くさせてもらっています。突然のことでご心痛はいかばかりか。……でも、生きていて本当に良かった」
照磨はその後、進、未駆流、頼人の順に紹介していった。一通り話し終えたところで頼人が声を掛けてくる。その目は赤く、濡れていた。
「俺で力になれることがあったら何でも言ってくれよな」
「俺じゃなくて、俺"達"でしょ」
「うん。僕も担任として、友達として力になりたい」
「ああ。俺も協力は惜しまない。憎らしくも愛おしい弟子のためなら」
「みんな……っ」
一寸先も見えないような暗闇に一つ、また一つと光が差し込んでくる。
「あっ、ありがとう……!」
フレームの中に一人閉じこもっていた頃からは考えられないような今を生きている。みんなとならきっと乗り越えられる。どんな苦難が待ち受けていようとも――。
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