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74.踏み出すべき未来
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「やっぱ、ソフトボックスがあるといいですね。モデルに当てる光とか気にせず色々と試せて」
箱型の撮影補助機材で頼人にあてる光の量を一定に保ちつつシャッタースピードを調節。背景の明るさを巧みに使い分けている。
青春を思わせるような爽やかなものから異世界にいるかのような幻想的なものまで。それぞれにまったく違ったテイストを持たせることで引き立てているのだ。
――頼人の中にある一つ一つの感情を。
「さーて、それじゃあ次いってみようか」
今度はルーカスの番。学び得た事柄を活かす時だ。
「うん! いいよ。すごくいい!」
ルーカスなりに工夫をしてシャッターを切っていく。技量不足でイメージ通りにならないことも多いが、少しずつでも前進していると思える。そんな充実感に気分が高揚していくのを感じながら撮影を続けていった――。
「は~い、OK。二人とも、よく頑張りました」
頼人と拳を突き合わせて喜びを分かち合う。照磨はそんな二人を微笑ましげに見つめ、小さく息をついた。
「はい。じゃあ、今度はお片付け」
揃って返事をして片付けを始める。片膝をついてソフトボックスをたたんでいると長い影が近付いてきた。影はルーカスの隣で止まり、縮こまる。
「そろそろどう……かな?」
――すれ違う二人のために出来ること。それはルーカスの発案ではない。頼人なのだ。彼の照磨を思う気持ちが生み出した鍵。それが今、ルーカスの手の中にある。
照磨を探して目を向ける。10メートルほど離れたところで写真のチェックをしていた。
――この計画の目的は気付かせることだ。
彼がいかに家族から、そして頼人から思われているのかを。目を伏せて灰色のズボンを握り締める。責任の重さに臆しているというのもある。けれどそれが一番の理由ではない。
最も恐れているのは、『きっかけ』となってしまうこと。景介の絵が他の誰かの手に。自分の写真が他の誰かの手に渡る。その流れのきっかけとなってしまうことだった。
「ごめん。まだ……ちょっと」
「ああ、いや! 大丈夫大丈夫。ごめんな。急かしたりして」
謝る必要などない。悪いのは自分だ。歪んだ独占欲を手放せずにいる自分の。稚拙で身勝手。半年前からまるで成長出来ていない。ほんの少しも。呆れるほどに。
――片付けを終えたルーカスは、早々にその場を後にした。向かう先は明生高校の正門前。彼と、景介と共に帰るために。
この半年間、それぞれの活動に専念するために互いの家には極力行かないようにしていた。その代わりに登下校時は必ず一緒。片道20分。長いようで短い時の中で互いの理解を深め、愛を育んできたのだ。
今日は何の話をしよう。心の隅を覆う重たい雲の存在。それらを無視するように太陽――景介に意識を向けていく。
「はっ……びゃくしゅっ!?」
寒さの影響かくしゃみが出た。周囲を見回しても夕日は見えず右手には夜空が広がっていた。
「こんな日はやっぱりほうとうだよなぁ~……」
口にするなり景介の父・一喜の顔が思い浮かんだ。今ならば寒さも手伝ってより美味しく食べられるだろう。景介の祖母・結子から続く真心のこもったあの味を。
――それから約20分後。ルーカスは暗闇の中を一人歩いていた。遠くに明かりが一つ。そこが今の目的地・美術室だ。目的地が変わった理由、それは景介から頼まれたからだ。美術室に来てほしいと。
「あれ? まだ部活中……?」
近付くにつれて話し声が聞こえてくるようになる――。
箱型の撮影補助機材で頼人にあてる光の量を一定に保ちつつシャッタースピードを調節。背景の明るさを巧みに使い分けている。
青春を思わせるような爽やかなものから異世界にいるかのような幻想的なものまで。それぞれにまったく違ったテイストを持たせることで引き立てているのだ。
――頼人の中にある一つ一つの感情を。
「さーて、それじゃあ次いってみようか」
今度はルーカスの番。学び得た事柄を活かす時だ。
「うん! いいよ。すごくいい!」
ルーカスなりに工夫をしてシャッターを切っていく。技量不足でイメージ通りにならないことも多いが、少しずつでも前進していると思える。そんな充実感に気分が高揚していくのを感じながら撮影を続けていった――。
「は~い、OK。二人とも、よく頑張りました」
頼人と拳を突き合わせて喜びを分かち合う。照磨はそんな二人を微笑ましげに見つめ、小さく息をついた。
「はい。じゃあ、今度はお片付け」
揃って返事をして片付けを始める。片膝をついてソフトボックスをたたんでいると長い影が近付いてきた。影はルーカスの隣で止まり、縮こまる。
「そろそろどう……かな?」
――すれ違う二人のために出来ること。それはルーカスの発案ではない。頼人なのだ。彼の照磨を思う気持ちが生み出した鍵。それが今、ルーカスの手の中にある。
照磨を探して目を向ける。10メートルほど離れたところで写真のチェックをしていた。
――この計画の目的は気付かせることだ。
彼がいかに家族から、そして頼人から思われているのかを。目を伏せて灰色のズボンを握り締める。責任の重さに臆しているというのもある。けれどそれが一番の理由ではない。
最も恐れているのは、『きっかけ』となってしまうこと。景介の絵が他の誰かの手に。自分の写真が他の誰かの手に渡る。その流れのきっかけとなってしまうことだった。
「ごめん。まだ……ちょっと」
「ああ、いや! 大丈夫大丈夫。ごめんな。急かしたりして」
謝る必要などない。悪いのは自分だ。歪んだ独占欲を手放せずにいる自分の。稚拙で身勝手。半年前からまるで成長出来ていない。ほんの少しも。呆れるほどに。
――片付けを終えたルーカスは、早々にその場を後にした。向かう先は明生高校の正門前。彼と、景介と共に帰るために。
この半年間、それぞれの活動に専念するために互いの家には極力行かないようにしていた。その代わりに登下校時は必ず一緒。片道20分。長いようで短い時の中で互いの理解を深め、愛を育んできたのだ。
今日は何の話をしよう。心の隅を覆う重たい雲の存在。それらを無視するように太陽――景介に意識を向けていく。
「はっ……びゃくしゅっ!?」
寒さの影響かくしゃみが出た。周囲を見回しても夕日は見えず右手には夜空が広がっていた。
「こんな日はやっぱりほうとうだよなぁ~……」
口にするなり景介の父・一喜の顔が思い浮かんだ。今ならば寒さも手伝ってより美味しく食べられるだろう。景介の祖母・結子から続く真心のこもったあの味を。
――それから約20分後。ルーカスは暗闇の中を一人歩いていた。遠くに明かりが一つ。そこが今の目的地・美術室だ。目的地が変わった理由、それは景介から頼まれたからだ。美術室に来てほしいと。
「あれ? まだ部活中……?」
近付くにつれて話し声が聞こえてくるようになる――。
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