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58.芽生え

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「自分を見つめ直す。いや、自分を知る……っていうのかな? 先輩となら、先輩の写真でなら出来るような気がしたんだ」

「……何だよそれ」

 反論する景介けいすけ。一方のルーカスは安堵すると共に納得し、決意を固め始めていた。

 ――景介が知らない景介を撮りたい。

 ――頼人よりとが思ったようなことを、景介にも思ってもらいたい。

 そのために必要なものはすべて照磨しょうまが持っている。ちらりと照磨を見る。すると直ぐに目が合った。目を逸らすなりくすくすとあざけり出す。やはりどうにも苦手だ。けれど、もう怖気づいてなどいられない。

「さて、じゃあ名残惜しいけど僕はこの辺で。またお昼にね」

「昼も来んのかよ」

「当たり前でしょ。なんたって僕は頼人の専属カメラマンなんだからね」

 得意気な照磨。威圧する景介。そんな景介を見て、頼人は申し訳なさそうに目を伏せた。

「それじゃあ、またね~」

 照磨は軽やかな足取りで去っていった。入れ替わるようにして担任のすすむが入ってくる。

「HRを始めます。皆さん、席についてください」

 進の声かけでクラスメイト達がそれぞれの席に着いていく。

「あっ、タケ……っ、よっ、頼人。これ……」

 ルーカスは忘れない内にと、黒い折りたたみ傘を手渡した。

「ありがとうございました」

「おう。こちらこそありがとな」

 頼人は笑顔で受け取った。これで正真正銘の仲直りだ。胸を撫で下ろしながら自席に着く。

「なぁ、ルー。さっきの引いた……?」

「そんなことない。頼人の気持ち、分かるよ」

 HRが始まったため小声で答えた。頼人もそれにならうように小声で返してくる。

「へぇ。やっぱ先輩ってすごいんだな」

「うん。その……オレもでっ、弟子入りしたいなぁ~とか思っちゃうぐらい――」

「止めとけ」

 即座に反対された。想定の範囲内ではあったが程度はゆうに予想を上回った。

「嫌い過ぎだろ」

「当然だろ」

「俺は先輩のこと嫌いじゃないけどな」

「……あ?」

 嫌悪感を露わにする。頼人はひるまない。それどころか更に気を良くする。

狭山さやま先輩ってほら、白鳥みたいだろ?」

「眼科行け」

『嫌い過ぎだろ』

 頼人の言葉を借り内心で一人ツッコむ。胃が痛い。だが、頼人が照磨=白鳥と捉える理由の中にはこの局面を打開する何かがあるような気がした。一縷いちるの希望を胸に尋ねてみる。

「どうしてそう思うの?」

「え? ん~……ははっ」

 頼人は質問を受けるなり、シャーペンで何かを描き始めた――。


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