45 / 116
45.苦悩
しおりを挟む
「……何……言ってるの……?」
頼人からの後押しを受け、告白に踏み切った。それは間違いない。けれど、景介がそれを知るはずがない。ルーカスが決意を固めた時、彼はその場にいなかったのだから。
「武澤からその……聞かされたんだろ? 気があるって」
そういうことか。
「そんな……そんなのって……っ!」
理解した瞬間駆け出す。
「なっ!? おい! ルーッ!」
頼人の気持ちは十中八九本物だ。確証はない。だが、通じ合うものがあったのだ。彼と自分の間には。
「どうして。……っ、何で……っ!」
にもかかわらず、彼は自分達の背を押すことを選んだ。見て見ぬふりをするという選択もあったというのに。
「~~っ、……うおっ!?」
大きく体が傾く。バランスを取ろうともがいたがダメだった。成す術なく地面に体を打ち付ける。
「おい! 大丈夫か!?」
膝に広がる熱。滴る血の感触。自身の今をどこか他人事のように思い、立ち上がる。
「見せてみろ。……っ!? おい! 待てって!」
再び駆け出した。地を蹴る音にすら苛立ちを覚える。
「行かなきゃ。早く……っ!」
もつれる脚。不甲斐なさに堪らず叫んだ。しかしその声は過行く車の群れに呑まれてしまう。惨めだ。いや、当然の報いだ。湧き上がってくる感情を荒縄で締めながら坂を上っていく。
――校門をくぐるなり真っ直ぐに挌技場に向かった。
「あっ、あれ……?」
頼人がいない。絶え間なく目を動かしていると監督の最上が話しかけてくる。
「ようよう、どーしたの? そんな血相変え……て」
「かっ、監督! あの、武澤君は?」
「……えっ? あっ、ああ! 武澤なら廊下の先の水飲み場だよ」
「あっ、ありがとうございます!」
最上は何か言いたげだったが構わず走り出す。
「っ! タケちゃっ……」
最上が言った通りだった。裏の空き地。テニスコート一面分ほどの広さを持つそこに彼はいた。道着姿、眼鏡なしの格好で写真の束を手にしている。制服姿の照磨と向き合う形で。
「ルー? どうしてここに……?」
照磨に席を外すよう求めるか。いや、この際どうでもいい。彼がいようがいまいが関係ない。迷いを振り切るように頼人のもとに向かう。
「景介は……? アイツはどうし――っ!? つーかお前、コンタク――」
「オレのこと、気が済むまで殴ってください!」
「…………っ」
言葉とは裏腹に震える体。太股に力を込めて押さえ込む。
「ほんっとにもう、手加減とかいらな――っ!」
――顔面に衝撃が走る。殴られたというよりは、何かにぶつかったような感覚だった。
「ばーか。そんなこと出来るわけないだろ」
目尻が熱を帯びていく。泣くな。図々しいにもほどがある。奥歯をぐっと噛み締める。砕けるのも厭わぬほどに。
「……感謝してるんだ。本当に」
「っ……?」
恐る恐る目を開ける。視界いっぱいに白い布が広がった。
「好きになって、後悔して、んでもまた好きになって……。そんなことを永遠と繰り返してた。ほんと、マジでしんどかったんだ」
頼人の言動を思い返す。彼はいつも笑顔だった。しかしながら、裏では絶えず悩み苦しみ続けていたのだ。どんな思いで自分の背を押したのか。想像するだに胸が苦しく――自身のすべてが疎ましくなっていく。
「でも、今はその逆。景介を好きになって良かったって、本気でそう思ってる」
少しだけ体を離す。頼人と目が合う。晴れやかで、それでいてやわらかだった。
「ルーともこうして出会えたわけだしな」
「そんな……っ」
「……この人のためなら何だって出来る。していいんだって思えるような相手がいる」
頼人はどこか遠くを見るように目を細め、自嘲気味に笑う。
「妄想なんかじゃない。叶えられる夢なんだってことをルーと景介が教えてくれた」
色違いの瞳が滲み出す。頬まで震え出した。止まらない。一筋の涙がルーカスの頬を滑る。
「なるほど……ね」
静観していた照磨が口を開いた。ルーカスの額に触れ、バターブロンドの前髪を掻き上げる――。
頼人からの後押しを受け、告白に踏み切った。それは間違いない。けれど、景介がそれを知るはずがない。ルーカスが決意を固めた時、彼はその場にいなかったのだから。
「武澤からその……聞かされたんだろ? 気があるって」
そういうことか。
「そんな……そんなのって……っ!」
理解した瞬間駆け出す。
「なっ!? おい! ルーッ!」
頼人の気持ちは十中八九本物だ。確証はない。だが、通じ合うものがあったのだ。彼と自分の間には。
「どうして。……っ、何で……っ!」
にもかかわらず、彼は自分達の背を押すことを選んだ。見て見ぬふりをするという選択もあったというのに。
「~~っ、……うおっ!?」
大きく体が傾く。バランスを取ろうともがいたがダメだった。成す術なく地面に体を打ち付ける。
「おい! 大丈夫か!?」
膝に広がる熱。滴る血の感触。自身の今をどこか他人事のように思い、立ち上がる。
「見せてみろ。……っ!? おい! 待てって!」
再び駆け出した。地を蹴る音にすら苛立ちを覚える。
「行かなきゃ。早く……っ!」
もつれる脚。不甲斐なさに堪らず叫んだ。しかしその声は過行く車の群れに呑まれてしまう。惨めだ。いや、当然の報いだ。湧き上がってくる感情を荒縄で締めながら坂を上っていく。
――校門をくぐるなり真っ直ぐに挌技場に向かった。
「あっ、あれ……?」
頼人がいない。絶え間なく目を動かしていると監督の最上が話しかけてくる。
「ようよう、どーしたの? そんな血相変え……て」
「かっ、監督! あの、武澤君は?」
「……えっ? あっ、ああ! 武澤なら廊下の先の水飲み場だよ」
「あっ、ありがとうございます!」
最上は何か言いたげだったが構わず走り出す。
「っ! タケちゃっ……」
最上が言った通りだった。裏の空き地。テニスコート一面分ほどの広さを持つそこに彼はいた。道着姿、眼鏡なしの格好で写真の束を手にしている。制服姿の照磨と向き合う形で。
「ルー? どうしてここに……?」
照磨に席を外すよう求めるか。いや、この際どうでもいい。彼がいようがいまいが関係ない。迷いを振り切るように頼人のもとに向かう。
「景介は……? アイツはどうし――っ!? つーかお前、コンタク――」
「オレのこと、気が済むまで殴ってください!」
「…………っ」
言葉とは裏腹に震える体。太股に力を込めて押さえ込む。
「ほんっとにもう、手加減とかいらな――っ!」
――顔面に衝撃が走る。殴られたというよりは、何かにぶつかったような感覚だった。
「ばーか。そんなこと出来るわけないだろ」
目尻が熱を帯びていく。泣くな。図々しいにもほどがある。奥歯をぐっと噛み締める。砕けるのも厭わぬほどに。
「……感謝してるんだ。本当に」
「っ……?」
恐る恐る目を開ける。視界いっぱいに白い布が広がった。
「好きになって、後悔して、んでもまた好きになって……。そんなことを永遠と繰り返してた。ほんと、マジでしんどかったんだ」
頼人の言動を思い返す。彼はいつも笑顔だった。しかしながら、裏では絶えず悩み苦しみ続けていたのだ。どんな思いで自分の背を押したのか。想像するだに胸が苦しく――自身のすべてが疎ましくなっていく。
「でも、今はその逆。景介を好きになって良かったって、本気でそう思ってる」
少しだけ体を離す。頼人と目が合う。晴れやかで、それでいてやわらかだった。
「ルーともこうして出会えたわけだしな」
「そんな……っ」
「……この人のためなら何だって出来る。していいんだって思えるような相手がいる」
頼人はどこか遠くを見るように目を細め、自嘲気味に笑う。
「妄想なんかじゃない。叶えられる夢なんだってことをルーと景介が教えてくれた」
色違いの瞳が滲み出す。頬まで震え出した。止まらない。一筋の涙がルーカスの頬を滑る。
「なるほど……ね」
静観していた照磨が口を開いた。ルーカスの額に触れ、バターブロンドの前髪を掻き上げる――。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる