26 / 116
26.新しい君と、古いオレ
しおりを挟む
「タケちゃん、推薦で来たんじゃないんですか?」
「おぉ~、君も知らんのかぁ~」
あれだけの強さだ。謙遜や自信のなさから推薦を辞退したとは考えにくい。一体なぜ。
「まぁ、結果的にウチにきてくれてるからいーんだけどねぇ」
「赤、武澤の勝ち」
再び歓声が上がる。決着がついたらしい。頼人が景介に話しかける。朗らかな態度。見慣れつつある彼の姿だ。けれど、そんな彼を見てもほっとすることはない。むしろ疑惑を深めていく。
――今の彼の方が『ニセモノ』なのではないかと。
そんなはずはない。否定の声は元友人達の嘲笑によって掻き消されてしまう。
「やっぱ白渡もいいなぁ。ぐふふっ、こりゃ団体も好い線いくかもなぁ」
最上は景介にも期待を寄せているようだ。当然か。全国3位の頼人にあれだけ食らいついたのだから。この部での景介の未来は明るい。喜ぶべきところであるのにもかかわらず心は沈んだままぴくりとも動かない。
「んじゃ、おじちゃんはこれで」
軽やかな足取りで景介達のもとへと向かっていく。二人は最上の顔を見るなり頭を下げた。肩を抱かれる二人。頼人は満面の笑みを浮かべたが、景介は顔を俯かせたまま唇を噛み締めている。
悔しさを拭いきれずにいるのだろうか。直ぐにでも駆け寄りたいところではあるが、ぐっと堪える。景介はまだあの枠の中にいる。近付くことは許されない。
「……っ」
痛みに耐えかね、手元のカメラに目を向ける。失敗作しかない。いずれも1/500のシャッタースピードで撮影をした。動性のある被写体を正確に捉えるためだ。しかし、それが良くなかった。時が止まっている。一言でいえば、何の面白味もない写真だ。やるせなくなり、横に立つ照磨のプレビューを覗く。
「うっ、うわぁ……!」
対照的だ。突き出した拳、脚、背景が大きくブレている。
「流し撮りにしてみたんだ」
『流し撮り』
背景や動きのある部分を故意にブレさせることによりスピード感を出す技法。被写体を追うようにカメラを動かして撮影するためこの名がついた。一見すると初心者向けであるように思われるが実際はその逆。上級者向けのテクニックだ。対象に合わせたシャッタースピードの見極め。横以外のブレを生じさせない安定した構え。その両方を迅速かつ正確に行わなければならない。かく言うルーカスもこの技術を習得出来ずにいた。
「見直した?」
「はいッ!! すごく!!! ……あっ!?」
勢いのまま肯定してしまった。
「ご、ごめんなさい! オレ――」
「ふふっ、素直でよろしい」
照磨はおかしそうに笑いながらルーカスの頭を撫でた。華美な見た目とは裏腹に骨ばった逞しい手をしている。あの情熱、腕前を見るに照磨も相当に鍛えているのだろう。
――心躍る瞬間を捉えるために。
「でも意外だったな。キミ、人も撮るんだね」
「あっ、いえ! オレは風景がメインです。人はケイだけで」
「へぇー……?」
「へっ、変な意味じゃないですよ!」
照磨の口元に三日月が浮かぶ。
「どうやら僕らの利害は一致しているらしい」
「え? ……っ!? ちょっ、先輩――っ!?」
腕を引かれ、あれよあれよという間に外に連れ出されてしまう。
「や、止めてくださ……っ!」
背が冷たい。出入口横の壁だ。中からは見えない。おまけに頭上近くに手をつかれ追い詰められてしまった。
「怖がらないで。キミにとっても悪い話ではないはずだよ」
とてもそうは思えない。唇を噛み締め視線だけを床に向ける。
「景介はね、頼人を身代わりにしているんだよ」
「おぉ~、君も知らんのかぁ~」
あれだけの強さだ。謙遜や自信のなさから推薦を辞退したとは考えにくい。一体なぜ。
「まぁ、結果的にウチにきてくれてるからいーんだけどねぇ」
「赤、武澤の勝ち」
再び歓声が上がる。決着がついたらしい。頼人が景介に話しかける。朗らかな態度。見慣れつつある彼の姿だ。けれど、そんな彼を見てもほっとすることはない。むしろ疑惑を深めていく。
――今の彼の方が『ニセモノ』なのではないかと。
そんなはずはない。否定の声は元友人達の嘲笑によって掻き消されてしまう。
「やっぱ白渡もいいなぁ。ぐふふっ、こりゃ団体も好い線いくかもなぁ」
最上は景介にも期待を寄せているようだ。当然か。全国3位の頼人にあれだけ食らいついたのだから。この部での景介の未来は明るい。喜ぶべきところであるのにもかかわらず心は沈んだままぴくりとも動かない。
「んじゃ、おじちゃんはこれで」
軽やかな足取りで景介達のもとへと向かっていく。二人は最上の顔を見るなり頭を下げた。肩を抱かれる二人。頼人は満面の笑みを浮かべたが、景介は顔を俯かせたまま唇を噛み締めている。
悔しさを拭いきれずにいるのだろうか。直ぐにでも駆け寄りたいところではあるが、ぐっと堪える。景介はまだあの枠の中にいる。近付くことは許されない。
「……っ」
痛みに耐えかね、手元のカメラに目を向ける。失敗作しかない。いずれも1/500のシャッタースピードで撮影をした。動性のある被写体を正確に捉えるためだ。しかし、それが良くなかった。時が止まっている。一言でいえば、何の面白味もない写真だ。やるせなくなり、横に立つ照磨のプレビューを覗く。
「うっ、うわぁ……!」
対照的だ。突き出した拳、脚、背景が大きくブレている。
「流し撮りにしてみたんだ」
『流し撮り』
背景や動きのある部分を故意にブレさせることによりスピード感を出す技法。被写体を追うようにカメラを動かして撮影するためこの名がついた。一見すると初心者向けであるように思われるが実際はその逆。上級者向けのテクニックだ。対象に合わせたシャッタースピードの見極め。横以外のブレを生じさせない安定した構え。その両方を迅速かつ正確に行わなければならない。かく言うルーカスもこの技術を習得出来ずにいた。
「見直した?」
「はいッ!! すごく!!! ……あっ!?」
勢いのまま肯定してしまった。
「ご、ごめんなさい! オレ――」
「ふふっ、素直でよろしい」
照磨はおかしそうに笑いながらルーカスの頭を撫でた。華美な見た目とは裏腹に骨ばった逞しい手をしている。あの情熱、腕前を見るに照磨も相当に鍛えているのだろう。
――心躍る瞬間を捉えるために。
「でも意外だったな。キミ、人も撮るんだね」
「あっ、いえ! オレは風景がメインです。人はケイだけで」
「へぇー……?」
「へっ、変な意味じゃないですよ!」
照磨の口元に三日月が浮かぶ。
「どうやら僕らの利害は一致しているらしい」
「え? ……っ!? ちょっ、先輩――っ!?」
腕を引かれ、あれよあれよという間に外に連れ出されてしまう。
「や、止めてくださ……っ!」
背が冷たい。出入口横の壁だ。中からは見えない。おまけに頭上近くに手をつかれ追い詰められてしまった。
「怖がらないで。キミにとっても悪い話ではないはずだよ」
とてもそうは思えない。唇を噛み締め視線だけを床に向ける。
「景介はね、頼人を身代わりにしているんだよ」
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる