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24.近く、そして遠い
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声をかけるのも憚られるほどに集中して撮影にあたっている。狙いは頼人であるようだ。屈んだり這いつくばるなどしている。並々ならぬ情熱と執念に息を呑む。
華美な容姿に他を圧倒するほどの知性。それに相反する大胆さと泥臭さ。知れば知るほどに狭山照磨という人間が分からなくなっていく。
「止め!」
形の稽古を終えたようだ。休憩に入るのかと思えばそうでもない。左側の正方形上に5列に並び、ミット打ちをし始めた。しかし、その列にも頼人は加わらない。変わらず顧問と話し続けている。
「白渡。ちょっといいか?」
ダルマ似の顧問に呼び出され右の正方形へと移っていく。なぜ景介を。意図が分からず聞き耳を立てようとするが、ミット打ちに勤しむ生徒達の声に阻まれてしまう。
もどかしいがこれ以上は近付けない。頼人には立てて、ルーカスには立てない場所。近いようで遠のいてしまった景介との距離。小さく溜息をついたところでふと気付く。シャッター音が鳴り止んでいることに。
「ひ、人多いですね」
気まずさからつい声をかけてしまった。返事は………………ない。撮った写真をチェックしている。アウトオブ眼中ということなのだろうか。
「ん~? そりゃまぁそーでしょ」
息をついたところで返事が返ってくる。ひどく気怠げな調子で。
「空手の名門校なわけだしねぇ」
言われて漸く気付く。体験入部に来ている生徒の中には体操着姿の人もいる。だが、そのほとんどが道着姿。経験者達だ。皆、この部に入るために明生高校に進学したのだろう。言わずもがな景介も。段野だからではないのだ。否定しながらも期待をしていた。そんな自分に気付き微苦笑を浮かべる。
「おやおや。あの二人戦うみたいだよ。僕達へのサービスかな?」
二人は互いに色違いのグローブをはめた。景介が青。頼人が赤だ。頭には白いヘッドギアを装着している。全国3位の頼人の実力を目にするチャンスとあってか皆の視線が二人に集中していく。
「か、空手ってポイント制でしたっけ?」
照磨はルーカスの名に関する話題で博識ぶりを披露した。今日もまた予備知識を蓄えてきているに違いない。そう期待してのことだった。
「そうだよ。たぶん……8ポイント先取の、3分試合になるんじゃないかな?」
どうやら読み通りであるようだ。照磨に頼みごとをするのは気が引けるが背に腹は変えられない。
「さ、狭山先輩。あの……オレ、空手のルールとかあまり詳しくなくて……そ、その――」
「そういうことなら、おじちゃんが解説してあげよう」
肩に腕を回される。振り返ると褐色肌に坊主頭の男性が立っていた。現役顔負けの屈強な体つきに、黒く大きな瞳。30代後半から~40代前半の中年と思われるが、年齢不詳と言っても過言ではないほどに若々しい印象を抱かせる。
「最上監督! お疲れ様です!」
男性に気付いた部員達が一斉に頭を下げた。最上と呼ばれた男性は笑顔で応えていく。空手部の指針たる人物から解説を受ける。良いのだろうかと遠慮の心を覗かせつつも、厚意を受けることにする。
「あ、ありがとうございます! ありがたいです」
「いやいや。お世話になるのはこっちの方なんだし、これぐらいお安い御用よ」
そう言って最上は豪快に笑った。この大らかさもまた慕われる所以なのだろう。
「にしても君、日本語上手ね~。ハーフ?」
「あ、はい! 母が日本人で、父がフィンランド系のアメリカ人――おわっ!?」
不意に腕を掴まれる。
「なるほどねぇ~……」
戸惑うルーカスを他所に上腕、前腕を揉み込んでいく。
「見かけによらずいい体してるじゃない。カメラは狭山チャンに任せて、君は選手としてどうよ?」
「お、オレがっ!? む、無理です! そんなの絶対に――」
「勝負っ!」
響き渡る鋭い声色。それは主審を務める主将のものだった――。
華美な容姿に他を圧倒するほどの知性。それに相反する大胆さと泥臭さ。知れば知るほどに狭山照磨という人間が分からなくなっていく。
「止め!」
形の稽古を終えたようだ。休憩に入るのかと思えばそうでもない。左側の正方形上に5列に並び、ミット打ちをし始めた。しかし、その列にも頼人は加わらない。変わらず顧問と話し続けている。
「白渡。ちょっといいか?」
ダルマ似の顧問に呼び出され右の正方形へと移っていく。なぜ景介を。意図が分からず聞き耳を立てようとするが、ミット打ちに勤しむ生徒達の声に阻まれてしまう。
もどかしいがこれ以上は近付けない。頼人には立てて、ルーカスには立てない場所。近いようで遠のいてしまった景介との距離。小さく溜息をついたところでふと気付く。シャッター音が鳴り止んでいることに。
「ひ、人多いですね」
気まずさからつい声をかけてしまった。返事は………………ない。撮った写真をチェックしている。アウトオブ眼中ということなのだろうか。
「ん~? そりゃまぁそーでしょ」
息をついたところで返事が返ってくる。ひどく気怠げな調子で。
「空手の名門校なわけだしねぇ」
言われて漸く気付く。体験入部に来ている生徒の中には体操着姿の人もいる。だが、そのほとんどが道着姿。経験者達だ。皆、この部に入るために明生高校に進学したのだろう。言わずもがな景介も。段野だからではないのだ。否定しながらも期待をしていた。そんな自分に気付き微苦笑を浮かべる。
「おやおや。あの二人戦うみたいだよ。僕達へのサービスかな?」
二人は互いに色違いのグローブをはめた。景介が青。頼人が赤だ。頭には白いヘッドギアを装着している。全国3位の頼人の実力を目にするチャンスとあってか皆の視線が二人に集中していく。
「か、空手ってポイント制でしたっけ?」
照磨はルーカスの名に関する話題で博識ぶりを披露した。今日もまた予備知識を蓄えてきているに違いない。そう期待してのことだった。
「そうだよ。たぶん……8ポイント先取の、3分試合になるんじゃないかな?」
どうやら読み通りであるようだ。照磨に頼みごとをするのは気が引けるが背に腹は変えられない。
「さ、狭山先輩。あの……オレ、空手のルールとかあまり詳しくなくて……そ、その――」
「そういうことなら、おじちゃんが解説してあげよう」
肩に腕を回される。振り返ると褐色肌に坊主頭の男性が立っていた。現役顔負けの屈強な体つきに、黒く大きな瞳。30代後半から~40代前半の中年と思われるが、年齢不詳と言っても過言ではないほどに若々しい印象を抱かせる。
「最上監督! お疲れ様です!」
男性に気付いた部員達が一斉に頭を下げた。最上と呼ばれた男性は笑顔で応えていく。空手部の指針たる人物から解説を受ける。良いのだろうかと遠慮の心を覗かせつつも、厚意を受けることにする。
「あ、ありがとうございます! ありがたいです」
「いやいや。お世話になるのはこっちの方なんだし、これぐらいお安い御用よ」
そう言って最上は豪快に笑った。この大らかさもまた慕われる所以なのだろう。
「にしても君、日本語上手ね~。ハーフ?」
「あ、はい! 母が日本人で、父がフィンランド系のアメリカ人――おわっ!?」
不意に腕を掴まれる。
「なるほどねぇ~……」
戸惑うルーカスを他所に上腕、前腕を揉み込んでいく。
「見かけによらずいい体してるじゃない。カメラは狭山チャンに任せて、君は選手としてどうよ?」
「お、オレがっ!? む、無理です! そんなの絶対に――」
「勝負っ!」
響き渡る鋭い声色。それは主審を務める主将のものだった――。
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