上 下
24 / 116

24.近く、そして遠い

しおりを挟む
 声をかけるのもはばかられるほどに集中して撮影にあたっている。狙いは頼人よりとであるようだ。屈んだりいつくばるなどしている。並々ならぬ情熱と執念に息を呑む。

 華美な容姿に他を圧倒するほどの知性。それに相反する大胆さと泥臭さ。知れば知るほどに狭山照磨さやましょうまという人間が分からなくなっていく。

「止め!」

 形の稽古を終えたようだ。休憩に入るのかと思えばそうでもない。左側の正方形上に5列に並び、ミット打ちをし始めた。しかし、その列にも頼人は加わらない。変わらず顧問と話し続けている。

白渡しらと。ちょっといいか?」

 ダルマ似の顧問に呼び出され右の正方形へと移っていく。なぜ景介を。意図が分からず聞き耳を立てようとするが、ミット打ちに勤しむ生徒達の声にはばまれてしまう。

 もどかしいがこれ以上は近付けない。頼人には立てて、ルーカスには立てない場所。近いようで遠のいてしまった景介けいすけとの距離。小さく溜息をついたところでふと気付く。シャッター音が鳴り止んでいることに。

「ひ、人多いですね」

 気まずさからつい声をかけてしまった。返事は………………ない。撮った写真をチェックしている。アウトオブ眼中ということなのだろうか。

「ん~? そりゃまぁそーでしょ」

 息をついたところで返事が返ってくる。ひどく気だるげな調子で。

「空手の名門校なわけだしねぇ」

 言われてようやく気付く。体験入部に来ている生徒の中には体操着姿の人もいる。だが、そのほとんどが道着姿。経験者達だ。皆、この部に入るために明生めいせい高校に進学したのだろう。言わずもがな景介も。段野だんのだからではないのだ。否定しながらも期待をしていた。そんな自分に気付き微苦笑を浮かべる。

「おやおや。あの二人戦うみたいだよ。僕達へのサービスかな?」

 二人は互いに色違いのグローブをはめた。景介が青。頼人が赤だ。頭には白いヘッドギアを装着している。全国3位の頼人の実力を目にするチャンスとあってか皆の視線が二人に集中していく。

「か、空手ってポイント制でしたっけ?」

 照磨はルーカスの名に関する話題で博識ぶりを披露した。今日もまた予備知識を蓄えてきているに違いない。そう期待してのことだった。

「そうだよ。たぶん……8ポイント先取の、3分試合になるんじゃないかな?」

 どうやら読み通りであるようだ。照磨に頼みごとをするのは気が引けるが背に腹は変えられない。

「さ、狭山先輩。あの……オレ、空手のルールとかあまり詳しくなくて……そ、その――」

「そういうことなら、おじちゃんが解説してあげよう」

 肩に腕を回される。振り返ると褐色肌に坊主頭の男性が立っていた。現役顔負けの屈強な体つきに、黒く大きな瞳。30代後半から~40代前半の中年と思われるが、年齢不詳と言っても過言ではないほどに若々しい印象を抱かせる。

最上もがみ監督! お疲れ様です!」

 男性に気付いた部員達が一斉に頭を下げた。最上と呼ばれた男性は笑顔で応えていく。空手部の指針たる人物から解説を受ける。良いのだろうかと遠慮の心を覗かせつつも、厚意を受けることにする。

「あ、ありがとうございます! ありがたいです」

「いやいや。お世話になるのはこっちの方なんだし、これぐらいお安い御用よ」

 そう言って最上は豪快に笑った。この大らかさもまた慕われる所以ゆえんなのだろう。

「にしても君、日本語上手ね~。ハーフ?」

「あ、はい! 母が日本人で、父がフィンランド系のアメリカ人――おわっ!?」

 不意に腕を掴まれる。

「なるほどねぇ~……」

 戸惑うルーカスを他所に上腕、前腕を揉み込んでいく。

「見かけによらずいい体してるじゃない。カメラは狭山チャンに任せて、君は選手としてどうよ?」

「お、オレがっ!? む、無理です! そんなの絶対に――」

「勝負っ!」

 響き渡る鋭い声色。それは主審を務める主将のものだった――。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜

倉橋 玲
BL
**完結!** スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。 金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。 従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。 宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください! https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be ※この作品は他サイトでも公開されています。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

処理中です...