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景介はしかめっ面で、頼人は苦笑を浮かべている。今ではない。そう思いつつも限界だった。景介に近付き、シャッターを切っていく。
「なっ!? おいっ!」
「おぉ!? 何だ何だ……??」
困惑する二人――周囲を他所に写真をチェックしていく。いずれも眉を寄せた悲し気な表情ばかり。無理だとは分かっていても笑顔が欲しいなどと思ってしまう。
「カメラマンって、その……情熱的?だな。あぁ! こういうのなんっつーんだっけ?……えぇっと……"超"突猛進!?」
和ませようとしてくれているのだろう。ありがたい。感謝の意を込めて微笑みを浮かべる。
「「"猪"突猛進だ」ね」
「ちょ?」
「イノシシだ」
「あぁ! ははっ、惜しかったな」
「……そうだな」
景介は溜息一つでシメると徐にルーカスの方に目を向けた。
「……お前には本当に悪いことをしたと思ってる。けど、俺はもう……」
想定していた通りの反応だった。気持ちと共に下がりかけた口角をぐっと押し上げる。
「いいんだよ。これはオレ用だから」
言いながらチェックを再開させていく。情けない話、落胆を禁じ得ない。主役不在の散漫とした写真ばかりだ。自身の至らなさを痛感する。
「はぁ~、まぁ3年ぶりだしなぁ~……」
「3年ぶりって……撮ってなかったのか?」
「え? あ、ああ……風景は撮ってたよ。人は撮ってなかったけどね」
ルーカスは首を傾げながら茶封筒を差し出した。中に入っているのは今朝方撮影したばかりの写真だ。マクロレンズで捉えたシルクのような湯気が榊川を甘やかに溶かしている。そんな仄淡く爽やかな朝を写した1枚だ。
「……っ」
対して景介は手を伸ばすでもなく、ただ封筒を凝視している。未知なる物体を前にした猫のような反応だ。百パーセントの拒絶ではないにしろ、少々胸が痛む。
「どれどれ~?」
一瞬の隙をついて封筒を奪い取られる。犯人は頼人だった。唖然としている間に躊躇なく封を開ける。
「へぇ~っ! 上手いもんだなぁ」
「あっ! そっ、それはケイのだから」
「分かってるよ」
誘導してくれているのだろう。目礼をして改めて景介を見る。
「お返しはいらないよ。オレはただ、ケイに見てもらいたいだけだから」
景介はルーカスを一瞥し、徐に手を伸ばした。頼人から景介の手に写真が渡る。久々であるせいか妙に擽ったい。写真をなぞる彼の視線が。
「……悪いな」
言い終えるのと同時に歩き出した。いや、歩くというのには少し早いか。
「照れてやんの」
頼人に同調しつつ景介の背を見る。
「あっ……そっか」
「ん?」
「あっ! いや、何でもない……」
手紙が宛先不明で戻ってくるようになったのは2年前。少なくとも1年間は景介のもとに届いていたはずだ。段野を離れていたとしても転送の形で。にもかかわらず景介は言った。『撮ってなかったのか?』と。受け取りはしたが見ていないのだ。手紙も写真も何もかも。
それでも構わない。彼はああして写真を受け取ってくれた。許しを得たのだ。景介を理由にカメラを構える、その許可を。
「……これでいい。十分だ」
手の中のカメラをそっと胸に抱く。ここから始めよう。ここからもう一度――。
「なっ!? おいっ!」
「おぉ!? 何だ何だ……??」
困惑する二人――周囲を他所に写真をチェックしていく。いずれも眉を寄せた悲し気な表情ばかり。無理だとは分かっていても笑顔が欲しいなどと思ってしまう。
「カメラマンって、その……情熱的?だな。あぁ! こういうのなんっつーんだっけ?……えぇっと……"超"突猛進!?」
和ませようとしてくれているのだろう。ありがたい。感謝の意を込めて微笑みを浮かべる。
「「"猪"突猛進だ」ね」
「ちょ?」
「イノシシだ」
「あぁ! ははっ、惜しかったな」
「……そうだな」
景介は溜息一つでシメると徐にルーカスの方に目を向けた。
「……お前には本当に悪いことをしたと思ってる。けど、俺はもう……」
想定していた通りの反応だった。気持ちと共に下がりかけた口角をぐっと押し上げる。
「いいんだよ。これはオレ用だから」
言いながらチェックを再開させていく。情けない話、落胆を禁じ得ない。主役不在の散漫とした写真ばかりだ。自身の至らなさを痛感する。
「はぁ~、まぁ3年ぶりだしなぁ~……」
「3年ぶりって……撮ってなかったのか?」
「え? あ、ああ……風景は撮ってたよ。人は撮ってなかったけどね」
ルーカスは首を傾げながら茶封筒を差し出した。中に入っているのは今朝方撮影したばかりの写真だ。マクロレンズで捉えたシルクのような湯気が榊川を甘やかに溶かしている。そんな仄淡く爽やかな朝を写した1枚だ。
「……っ」
対して景介は手を伸ばすでもなく、ただ封筒を凝視している。未知なる物体を前にした猫のような反応だ。百パーセントの拒絶ではないにしろ、少々胸が痛む。
「どれどれ~?」
一瞬の隙をついて封筒を奪い取られる。犯人は頼人だった。唖然としている間に躊躇なく封を開ける。
「へぇ~っ! 上手いもんだなぁ」
「あっ! そっ、それはケイのだから」
「分かってるよ」
誘導してくれているのだろう。目礼をして改めて景介を見る。
「お返しはいらないよ。オレはただ、ケイに見てもらいたいだけだから」
景介はルーカスを一瞥し、徐に手を伸ばした。頼人から景介の手に写真が渡る。久々であるせいか妙に擽ったい。写真をなぞる彼の視線が。
「……悪いな」
言い終えるのと同時に歩き出した。いや、歩くというのには少し早いか。
「照れてやんの」
頼人に同調しつつ景介の背を見る。
「あっ……そっか」
「ん?」
「あっ! いや、何でもない……」
手紙が宛先不明で戻ってくるようになったのは2年前。少なくとも1年間は景介のもとに届いていたはずだ。段野を離れていたとしても転送の形で。にもかかわらず景介は言った。『撮ってなかったのか?』と。受け取りはしたが見ていないのだ。手紙も写真も何もかも。
それでも構わない。彼はああして写真を受け取ってくれた。許しを得たのだ。景介を理由にカメラを構える、その許可を。
「……これでいい。十分だ」
手の中のカメラをそっと胸に抱く。ここから始めよう。ここからもう一度――。
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