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11.後悔

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 保健室横の木製ベンチ。ルーカスはそこに一人腰かけていた。右手で右目を覆って。

『管理棟』

 正門近くにあるこの建物は、円形吹き抜け構造になっている。1階には保健室、事務室、それに応接用のソファ・机が二組。2階には図書室。正面にある事務窓口の向こうには、二人の中年女性の姿がある。談笑にふけっており、こちらを気にする様子は見られない。そのことに安堵しつつ、自身の横にある白い扉に目を向けていく。

 中では景介けいすけ頼人よりとが眼帯を獲得するべく、一芝居打ってくれている。頼人が病人役。景介が付き添い役で。保健医といえど瞳を見せるのは避けたい。そんなルーカスを気遣ってのことだった。

「いい人だよなぁ。あの人にならケイだって……」

 やはり無理にでも日本に残るべきだった。黒くにごった泡のような後悔が膨らんでは消えていく。

「ちょっと遅れるって、先生に伝えてきます」

 白い扉が開かれる。中から現れたのは疲労困ぱいな様子の景介だった。

「ありがとう。面倒かけちゃってごめんね」

 椅子から立ち上がり、景介に近付く。作戦通りであれば眼帯を手にしているはずだ。右手を差し出し、それを渡すように促す。

 だが、景介は応じない。黙ってうつむくばかりだ。理由は考えるまでもない。

 ――3年前、景介がルーカスを描こうとしたのは、ひとえに右目を受け入れさせるためだった。けれど、途中で逃げ出してしまった。そんな自分にルーカスの逃避をはばむ資格などない。そう自身を責めながらも胸の中にある思いを捨てきれずにいるのだろう。

「……何で日本に戻ってきたんだ?」

 いずれは聞かれることになるだろうと覚悟していた。細かな理由はたくさんあるが、今はそれらを除外して一番の理由を伝えることする。

「やり直すためだよ。……親友として」

 景介の表情が驚きから重たく沈んだものへと変化していく。この表情には見覚えがある。

 ――3年前、別れ際に目にしたものと同じものだ。

「悪い。もう絵はやってないんだ」

「えっ……?」


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