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01.照りつける日差しの中で
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まるで薄氷のようだ。涼やかで心地いい風鈴の音が届いては消えていく。頭上で輝く光はどうしてこうも攻撃的なのだろう。
金髪の少年ルーカス・ライブリーは、小さく溜息 をつきながら右目にファインダーを押し当てた。
テニスコート一面分ほどの広さを持つ飴色のテラス。向日葵や朝顔といった夏の彩りが揺れる中に彼はいた。
――白渡景介
夜空を彷彿とさせるような、黒く澄んだ瞳が印象的な少年だ。
やわらかなようで鋭く、凛としているようで儚い。相反する輝きを持つ彼の目は手元の水彩紙に向けられている。
彼が座し、制作を進めるテーブルセット。何気ないその場所が今は神聖で清浄な空気に包まれている。
――すべてはルーカスのために。
はにかみながらシャッターを切ると、途端に空気が歪んだ。しまったと思った時には既に睨まれていた。
「撮る場所、ちゃんと決めたのかよ」
飛散する無数の棘。木琴にも似た高く温みのある声を、今は心底恋しく思う。
「え、えーっと、考えてはいるんだけど……」
まごついていると重々しく溜息をつかれた。筆の音がぴたりと止む。
「無理に撮る必要なんてないんだからな」
「っ! オレは本気でケイのことを撮りたいって思ってるよ」
より明確に意思を伝えるべく、景介のもとに向かう。近付けば近付くほどに警戒心を強めていく。
157センチのルーカスに対し、一回り以上小さい彼のその姿は怯えた小動物を彷彿とさせた。
「オレはケイともっと仲良くなりたい。離れ離れになっても親友でいたい。だから、撮るんだ」
景介は俯いて顔を隠した。照れているのだろう。都合よく解釈をして、肩の力を緩める。
「ルーちゃん、ケイくぅ~~~んッッッ!!!!!」
家とテラスを繋ぐ大窓が豪快に開かれた。現れたのは黒髪の女性。目を爛々と輝かせている。
「へっ!?」
「なっ……!」
戸惑う二人を他所に彼女は続ける。
「ご近所さんからアイスを貰ったの! でも、三つしかないから~……っ、パパに内緒で食べちゃいましょっ!」
彼女は言うなり慌ただしく部屋の中へと戻っていった。その無邪気さ故だろうか。長くしなやかな黒髪が、動物の尻尾のように見えた。
女性の名は響子・ライブリー。ルーカスの実の母親だ。
「あんな調子で間に合うのか?」
「まぁ、何とかなるんじゃないかな? 棚とかベッドとか持ってくわけじゃないし」
一家は数日後にこの家を離れるが、所有権は持ち続ける。将来は日本に住みたい。そんなルーカスの望みを叶えるために。
平べったい角ログで造られた1階建てのログハウス。屋根は黒板を思わせるような深緑色。リビングは30畳。床は淡い黄色で、壁は白く塗られている。
大窓近く、右の角付近にはL字型の白い革張りソファ、ガラス製のローテーブル、70インチのテレビ。その奥に木製の食卓、白を基調としたオープンキッチンが続いていく。
ゆとりと清潔感を感じさせるリビング。そんな魅力ある場所が今、無数の段ボールに占拠されている。
どの箱の中にも大量のスペースがあり、そこに収められるべきはずの物は未だ所定の位置に置かれたままだ。景介が危惧するのも無理はなかった。
そんなふうなことを思いながら室内を見ていると、窓ガラスに映り込む自分と目が合う――。
金髪の少年ルーカス・ライブリーは、小さく溜息 をつきながら右目にファインダーを押し当てた。
テニスコート一面分ほどの広さを持つ飴色のテラス。向日葵や朝顔といった夏の彩りが揺れる中に彼はいた。
――白渡景介
夜空を彷彿とさせるような、黒く澄んだ瞳が印象的な少年だ。
やわらかなようで鋭く、凛としているようで儚い。相反する輝きを持つ彼の目は手元の水彩紙に向けられている。
彼が座し、制作を進めるテーブルセット。何気ないその場所が今は神聖で清浄な空気に包まれている。
――すべてはルーカスのために。
はにかみながらシャッターを切ると、途端に空気が歪んだ。しまったと思った時には既に睨まれていた。
「撮る場所、ちゃんと決めたのかよ」
飛散する無数の棘。木琴にも似た高く温みのある声を、今は心底恋しく思う。
「え、えーっと、考えてはいるんだけど……」
まごついていると重々しく溜息をつかれた。筆の音がぴたりと止む。
「無理に撮る必要なんてないんだからな」
「っ! オレは本気でケイのことを撮りたいって思ってるよ」
より明確に意思を伝えるべく、景介のもとに向かう。近付けば近付くほどに警戒心を強めていく。
157センチのルーカスに対し、一回り以上小さい彼のその姿は怯えた小動物を彷彿とさせた。
「オレはケイともっと仲良くなりたい。離れ離れになっても親友でいたい。だから、撮るんだ」
景介は俯いて顔を隠した。照れているのだろう。都合よく解釈をして、肩の力を緩める。
「ルーちゃん、ケイくぅ~~~んッッッ!!!!!」
家とテラスを繋ぐ大窓が豪快に開かれた。現れたのは黒髪の女性。目を爛々と輝かせている。
「へっ!?」
「なっ……!」
戸惑う二人を他所に彼女は続ける。
「ご近所さんからアイスを貰ったの! でも、三つしかないから~……っ、パパに内緒で食べちゃいましょっ!」
彼女は言うなり慌ただしく部屋の中へと戻っていった。その無邪気さ故だろうか。長くしなやかな黒髪が、動物の尻尾のように見えた。
女性の名は響子・ライブリー。ルーカスの実の母親だ。
「あんな調子で間に合うのか?」
「まぁ、何とかなるんじゃないかな? 棚とかベッドとか持ってくわけじゃないし」
一家は数日後にこの家を離れるが、所有権は持ち続ける。将来は日本に住みたい。そんなルーカスの望みを叶えるために。
平べったい角ログで造られた1階建てのログハウス。屋根は黒板を思わせるような深緑色。リビングは30畳。床は淡い黄色で、壁は白く塗られている。
大窓近く、右の角付近にはL字型の白い革張りソファ、ガラス製のローテーブル、70インチのテレビ。その奥に木製の食卓、白を基調としたオープンキッチンが続いていく。
ゆとりと清潔感を感じさせるリビング。そんな魅力ある場所が今、無数の段ボールに占拠されている。
どの箱の中にも大量のスペースがあり、そこに収められるべきはずの物は未だ所定の位置に置かれたままだ。景介が危惧するのも無理はなかった。
そんなふうなことを思いながら室内を見ていると、窓ガラスに映り込む自分と目が合う――。
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