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21.大勝負
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「初めまして! 俺、優太って言います。今ほどご紹介に預かった、リカさんのよっ、嫁です!」
「「「…………」」」
失笑。重たい沈黙が圧し掛かる。何を言っているんだ。くだらない。そんな声が聞こえてくるようだ。
臆病風に吹かれそうになるけど、ぐっと堪えて話を続ける。ここからが本題だ。
「俺に機会を与えてはいただけませんでしょうか? 俺のこと、見定めてほしいんです。リカさんの嫁として、一緒にこの里を守護する『守り手』としてふさわしいかどうか」
「優太……?」
リカさんの声が揺れてる。不安げだ。結果が芳しくなかった時のことを考えているんだろう。
ダメだったら、その時は里を出ていく覚悟だ。けど、明言はしないでおく。
里か、それとも俺か……なんて、リカさんにも、里のみんなにも選ばせたくはないから。
「薫様、どうです? この意気に免じて機会を与えてみては」
「おぉ……!」
桂さん! ナイスアシスト! で、薫さんはどう出る……?
期待感と不安感とで、俺のやわらかなウィスカーパッド(鼻の下の『ω』みたいな形のところ)がぷるぷると震える。
「……お前、人間であるのにもかかわらず妖力を有しているそうだな」
「えっ? あっ、……はい!! でも、俺は戦うことが出来ないから、力をリカさんに分けることで、微力ながら諸々お手伝いをさせてもらっています」
「微力だなんてとんでもない。優太の協力がなければこの里は維持出来ない。この里にとって必要不可欠な存在だよ」
「っ! それほどの妖力をこの者が……?」
「うん。まさに無尽蔵。頼もしい限りだよ」
「いっ、いや! そんな大層なものじゃ――」
「なるほど。それで娶られたのですね」
「違うよ。私達は恋愛結婚。互いに魅かれ合って夫婦になったんだ」
「っ!!!」
リカさんがさらりと答えた。嬉しいけど、~~っ、嬉しいけど死ぬほど恥ずかしい……!!!
「って……!? うわっ!?」
俺の全身が白く輝き出した。背がぐんぐん伸びて、薫さんよりもほんの少し下の辺りで止まる。元の姿に戻ったんだ。
裸!? かと思ったけど、ちゃんと服は着てた。でも、着物じゃない。制服姿だ。空色のブレザーに赤いネクタイ、そして紺色のズボン。袖を通したのは数カ月ぶり。この世界に来て以来だ。
やっぱ着物よりもずっとしっくりくるな、何てついつい思ってしまう。それが何だかちょっぴり寂しいというか、複雑な思いがした。
「カァー!?」
「異国人……?」
「いや、違う。優太は異界の生まれなんだ」
「異界!?」
「へぇ~、新種ってのはそういうわけですか」
「そう。優太は……確かに表の人間に近い種族ではあるけれど、厳密に言えば別もの。血塗られた歴史とは一切関係がないんだ。そのことも……難しいとは思うけど考慮してあげてほしい」
「リカさん……っ!」
はらりと何かが落ちていく。紐だ。今の今まで俺の妖力を封じ込めてくれていた。リカさんが切ったのかな?
「クァッ!?」
「っ! 何という凄まじい妖力……」
「はっはっは! 能力だけ見れば合格ってところですかね?」
「…………」
薫さんの眉間にしわが寄る。肯定の声は聞こえてきそうにない。
まだまだなのか。それとも100パー望みはないのか。俺にはどうにも測りかねる。
「……おや? ほほ~う?」
「桂、下世話な真似は止せ」
「?」
桂さんの顔がニタニタでとろとろな感じになっていく。樹月さんが注意した通り、エロいことを考えているような顔だ。
俺、何か刺激するようなこと言ったか? ダメだ。まるで見当もつかない。
「六花様。奥方様のこと……随分とまぁ、深く情熱的に愛しておいでなのですね」
「あ~……ははっ……まぁ――」
「なっ!? すっ、すみません! 何かお見苦しいものでも――」
「匂いですよ」
「にっ、におい?」
「ええ。優太様のお体から、六花様の匂いがむんむんと致しますので」
まっ、マジか!? 自分じゃ全然分からない。やっぱ妖狐さん達って鼻がいいのかな?
樹月さんの方に目を向けると、気まずそうに咳払いをしていた。いっ、居た堪れない……。
「見れば随分とまぁ可愛らしいお顔立ちをしていらっしゃる。六花様が夢中になられるのも無理は――」
「桂、いい加減にしろ」
「っは、これはとんだ失礼を」
流石(?)の桂さんも、薫さんにガチめに叱られると大人しくなるみたいだ。ほっと胸を撫でおろして深く息をつく。
「たっ、立ち話もなんだ! 良かったら、私の家に来ないか? お茶でも飲みながらゆっくりと話しをしようじゃないか」
リカさんのその物言いはかなりぎこちなかった。気まずかったんだろうな。実の弟の薫さんの前なんだ。まぁ、当然だよな。
「若、いかが致しましょう?」
樹月さんが薫さんに意見を求めた。途端に緊張が走る。この問いには俺の嘆願を受けるか否かも含まれてる。そう直感したから。
さぁ、どう出る? 息を呑んで薫さんの返答を待っていると――意外なほどすんなりと沈黙は破られた。
「人間」
「はっ、はい!」
「お前の目的は何だ?」
返って来たのは警戒混じりの疑問だった。納得だ。リカさんは俺が異界の生まれだってことは伝えた。だけど、それ以上のことは何も明かさなかったから。
胸がバクバクする。それでも、不思議と冷静で自然と言葉が口をついた。
「目的は……日和見で、主体性のない自分を変えることです」
「っふ、兄上に取り入っておいてか?」
「ぶっちゃけると、この里には死ぬ覚悟で来たんです」
「何……?」
「文字通り食べられちゃうかもって。だけど、それでも良かったんです。虐げられている人達、妖達を助けようとした。その決断が出来ただけでも、俺としては十分だったんで」
「バカな」
「ははっ、ですよね~。自分でもそう思います。もしかしたら、一度死んだことである種無敵に。ネジがぶっ飛んじゃったのかもしれませんね」
「…………っ、意味が分からない」
薫さんは首を左右に振った。何度も、何度も。
やっぱりこの人は、リカさんの弟だ。
唇を引き結んで、顎に力を込めて。俺なんかのために心を痛めてくれてる。
「優しいんですね」
「……は?」
「兄弟なんだなって、めっちゃ思います」
「なっ……」
薫さんの綺麗な顔がみるみる内に歪んでく。喉に何かを詰まらせたようなそんな顔に。照れてるんだよな……? たぶん。
「へへへ~っ♪ どうだい? 私のお嫁さん、中々でしょ?」
「阿呆なだけですよ。途方もない程に」
辛辣だ。でも、その言葉の棘は思いの外鋭利ではない……ような気がした。プラスに捉えすぎか?
「で、どうかな? 付き合ってくれる……よね?」
リカさんが薫さんに問いかける。小首を傾げながら。耳もぺたーと横に伏せて。
う゛!!? あっ、あざとい!!! 俺にはクリティカルだけど薫さんには通じるのか……!?
「何なんですか? その薄ら寒い態度は」
げっ!? すっ、すごい! まるで効いてない。兄弟だからか。それともあざとさが透けて見えるから? 或いはその両方か。
「ダメ……?」
「止してください。気色悪い」
「か~お~る……」
「だぁ!! もう!! やかましい!!!」
何か……リカさんの方が弟っぽくなってないか?
器がデカいのはむしろ薫さんの方?
って、思えば……うん。そうだよな。200年も音信不通だった兄貴の世話を焼くぐらいのお方なんだもんな。
「おい、人間。何だその目は?」
「あっ! いやそのっ……薫さんはその、度量が深くてカッコイイな~と!」
「薫……さん?」
「はえ?」
薫さんの目が点になってる。何だ? 俺、何かマズっ――。
「無礼者!!」
「ひっ!!?」
樹月さんが凄まじい剣幕で吠えてきた。無礼って……そうだ! この人らは地球でいうところの武士。もっと言うと、リカさんの実家は武士のトップ。将軍家みたいなもんなんだった!!!
「はははっ、別に構わないだろう。優太は薫の義弟なんだから」
「恐れながら、若様はまだお認めには――」
「薫さん。悪くない響きだろ?」
「受け入れろと?」
「無理強いはしないよ」
リカさんはキラッキラの笑顔で返した。このまま押し切るつもりなんだろう。
ついさっきまで劣勢だったのに。それこそ俺がしゃしゃり出るぐらい追い込まれてたのにな。
リカさんのこういう瞬発力の高さ、順応性の高さには心底恐れ入る。
「……分かりました」
「やったー! じゃあ、薫さんで♪」
「常盤様! いくら何でもそれは――」
「よし。樹月も、桂も『さん付け』でいこう」
「おっ! いいっすね~♪」
「あっ、俺は呼び捨てでいいですよ! うんっっと年下だと思うので」
「そうだね。じゃあ、優太で」
「おっ、お待ちください! 私共のことはなんとお呼びいただいても構いません。しかしながら、若様は――」
「樹月」
「…………っは。承知致しました」
樹月さんが折れた。薫さんが一言、名前を呼んだだけで。凄まじいまでの忠誠心。まさに武士だな。
ん? 待てよ。それなら何でこの里に? 薫さんに仕えられなくなるのに。樹月さんはそれでいいのか?
「あの! きっ、樹月さん」
「……はい。何でございましょう?」
「樹月さんはどうしてこの里に?」
「大奥様、六花様の奉仕と博愛の精神に感銘を受け、志願を致しました」
樹月さんのその受け答えはどこか淡々として見えた。薫さんに傾ける情熱と比べてあまりにも淡泊であるような気がして。考えすぎ……か……?
「カッカーー♡♡♡」
「わっ!?」
件の烏・紅君が襲い掛かって来た。狙いはもしかしなくても俺の唇か!?
「ははははっ、案の定だね」
「ややっ! ちょっ! 君、面食いなんでしょ!? 何で俺!?」
「ヤダな~。紅丸が見ているのは内面だよ」
「わわわっ!? リカさん!!! 紅君のこと何とかしてくださいよ!!!」
「まぁ、減るもんじゃないし」
「はぁ!? 俺はアンタの嫁です――んぅ!!?」
あっさりと奪われてしまった。リカさんの目の前で。
なのに、とうのリカさんはへらへらしてて。俺、本当に愛されてるのかな? 何か泣けてきた。
「節操ナシめ」
「おやおや? 薫様、妬いておいでなのですか?」
「軽蔑しているんだ。桂、お前と同様にな」
「はっはっは! こいつは手厳しい」
「ふふふっ。さてさて、それじゃ私の家に向かおうか」
「お言葉ですが、そちらの件についてはまだ――」
「ん~~?」
「はぁ……分かりましたよ」
凹む俺を他所に、妖狐の皆さんはスタスタと歩き始めた。俺は慌てて一足遅れで後を追う。一抹の不安を胸に抱きながら。
「「「…………」」」
失笑。重たい沈黙が圧し掛かる。何を言っているんだ。くだらない。そんな声が聞こえてくるようだ。
臆病風に吹かれそうになるけど、ぐっと堪えて話を続ける。ここからが本題だ。
「俺に機会を与えてはいただけませんでしょうか? 俺のこと、見定めてほしいんです。リカさんの嫁として、一緒にこの里を守護する『守り手』としてふさわしいかどうか」
「優太……?」
リカさんの声が揺れてる。不安げだ。結果が芳しくなかった時のことを考えているんだろう。
ダメだったら、その時は里を出ていく覚悟だ。けど、明言はしないでおく。
里か、それとも俺か……なんて、リカさんにも、里のみんなにも選ばせたくはないから。
「薫様、どうです? この意気に免じて機会を与えてみては」
「おぉ……!」
桂さん! ナイスアシスト! で、薫さんはどう出る……?
期待感と不安感とで、俺のやわらかなウィスカーパッド(鼻の下の『ω』みたいな形のところ)がぷるぷると震える。
「……お前、人間であるのにもかかわらず妖力を有しているそうだな」
「えっ? あっ、……はい!! でも、俺は戦うことが出来ないから、力をリカさんに分けることで、微力ながら諸々お手伝いをさせてもらっています」
「微力だなんてとんでもない。優太の協力がなければこの里は維持出来ない。この里にとって必要不可欠な存在だよ」
「っ! それほどの妖力をこの者が……?」
「うん。まさに無尽蔵。頼もしい限りだよ」
「いっ、いや! そんな大層なものじゃ――」
「なるほど。それで娶られたのですね」
「違うよ。私達は恋愛結婚。互いに魅かれ合って夫婦になったんだ」
「っ!!!」
リカさんがさらりと答えた。嬉しいけど、~~っ、嬉しいけど死ぬほど恥ずかしい……!!!
「って……!? うわっ!?」
俺の全身が白く輝き出した。背がぐんぐん伸びて、薫さんよりもほんの少し下の辺りで止まる。元の姿に戻ったんだ。
裸!? かと思ったけど、ちゃんと服は着てた。でも、着物じゃない。制服姿だ。空色のブレザーに赤いネクタイ、そして紺色のズボン。袖を通したのは数カ月ぶり。この世界に来て以来だ。
やっぱ着物よりもずっとしっくりくるな、何てついつい思ってしまう。それが何だかちょっぴり寂しいというか、複雑な思いがした。
「カァー!?」
「異国人……?」
「いや、違う。優太は異界の生まれなんだ」
「異界!?」
「へぇ~、新種ってのはそういうわけですか」
「そう。優太は……確かに表の人間に近い種族ではあるけれど、厳密に言えば別もの。血塗られた歴史とは一切関係がないんだ。そのことも……難しいとは思うけど考慮してあげてほしい」
「リカさん……っ!」
はらりと何かが落ちていく。紐だ。今の今まで俺の妖力を封じ込めてくれていた。リカさんが切ったのかな?
「クァッ!?」
「っ! 何という凄まじい妖力……」
「はっはっは! 能力だけ見れば合格ってところですかね?」
「…………」
薫さんの眉間にしわが寄る。肯定の声は聞こえてきそうにない。
まだまだなのか。それとも100パー望みはないのか。俺にはどうにも測りかねる。
「……おや? ほほ~う?」
「桂、下世話な真似は止せ」
「?」
桂さんの顔がニタニタでとろとろな感じになっていく。樹月さんが注意した通り、エロいことを考えているような顔だ。
俺、何か刺激するようなこと言ったか? ダメだ。まるで見当もつかない。
「六花様。奥方様のこと……随分とまぁ、深く情熱的に愛しておいでなのですね」
「あ~……ははっ……まぁ――」
「なっ!? すっ、すみません! 何かお見苦しいものでも――」
「匂いですよ」
「にっ、におい?」
「ええ。優太様のお体から、六花様の匂いがむんむんと致しますので」
まっ、マジか!? 自分じゃ全然分からない。やっぱ妖狐さん達って鼻がいいのかな?
樹月さんの方に目を向けると、気まずそうに咳払いをしていた。いっ、居た堪れない……。
「見れば随分とまぁ可愛らしいお顔立ちをしていらっしゃる。六花様が夢中になられるのも無理は――」
「桂、いい加減にしろ」
「っは、これはとんだ失礼を」
流石(?)の桂さんも、薫さんにガチめに叱られると大人しくなるみたいだ。ほっと胸を撫でおろして深く息をつく。
「たっ、立ち話もなんだ! 良かったら、私の家に来ないか? お茶でも飲みながらゆっくりと話しをしようじゃないか」
リカさんのその物言いはかなりぎこちなかった。気まずかったんだろうな。実の弟の薫さんの前なんだ。まぁ、当然だよな。
「若、いかが致しましょう?」
樹月さんが薫さんに意見を求めた。途端に緊張が走る。この問いには俺の嘆願を受けるか否かも含まれてる。そう直感したから。
さぁ、どう出る? 息を呑んで薫さんの返答を待っていると――意外なほどすんなりと沈黙は破られた。
「人間」
「はっ、はい!」
「お前の目的は何だ?」
返って来たのは警戒混じりの疑問だった。納得だ。リカさんは俺が異界の生まれだってことは伝えた。だけど、それ以上のことは何も明かさなかったから。
胸がバクバクする。それでも、不思議と冷静で自然と言葉が口をついた。
「目的は……日和見で、主体性のない自分を変えることです」
「っふ、兄上に取り入っておいてか?」
「ぶっちゃけると、この里には死ぬ覚悟で来たんです」
「何……?」
「文字通り食べられちゃうかもって。だけど、それでも良かったんです。虐げられている人達、妖達を助けようとした。その決断が出来ただけでも、俺としては十分だったんで」
「バカな」
「ははっ、ですよね~。自分でもそう思います。もしかしたら、一度死んだことである種無敵に。ネジがぶっ飛んじゃったのかもしれませんね」
「…………っ、意味が分からない」
薫さんは首を左右に振った。何度も、何度も。
やっぱりこの人は、リカさんの弟だ。
唇を引き結んで、顎に力を込めて。俺なんかのために心を痛めてくれてる。
「優しいんですね」
「……は?」
「兄弟なんだなって、めっちゃ思います」
「なっ……」
薫さんの綺麗な顔がみるみる内に歪んでく。喉に何かを詰まらせたようなそんな顔に。照れてるんだよな……? たぶん。
「へへへ~っ♪ どうだい? 私のお嫁さん、中々でしょ?」
「阿呆なだけですよ。途方もない程に」
辛辣だ。でも、その言葉の棘は思いの外鋭利ではない……ような気がした。プラスに捉えすぎか?
「で、どうかな? 付き合ってくれる……よね?」
リカさんが薫さんに問いかける。小首を傾げながら。耳もぺたーと横に伏せて。
う゛!!? あっ、あざとい!!! 俺にはクリティカルだけど薫さんには通じるのか……!?
「何なんですか? その薄ら寒い態度は」
げっ!? すっ、すごい! まるで効いてない。兄弟だからか。それともあざとさが透けて見えるから? 或いはその両方か。
「ダメ……?」
「止してください。気色悪い」
「か~お~る……」
「だぁ!! もう!! やかましい!!!」
何か……リカさんの方が弟っぽくなってないか?
器がデカいのはむしろ薫さんの方?
って、思えば……うん。そうだよな。200年も音信不通だった兄貴の世話を焼くぐらいのお方なんだもんな。
「おい、人間。何だその目は?」
「あっ! いやそのっ……薫さんはその、度量が深くてカッコイイな~と!」
「薫……さん?」
「はえ?」
薫さんの目が点になってる。何だ? 俺、何かマズっ――。
「無礼者!!」
「ひっ!!?」
樹月さんが凄まじい剣幕で吠えてきた。無礼って……そうだ! この人らは地球でいうところの武士。もっと言うと、リカさんの実家は武士のトップ。将軍家みたいなもんなんだった!!!
「はははっ、別に構わないだろう。優太は薫の義弟なんだから」
「恐れながら、若様はまだお認めには――」
「薫さん。悪くない響きだろ?」
「受け入れろと?」
「無理強いはしないよ」
リカさんはキラッキラの笑顔で返した。このまま押し切るつもりなんだろう。
ついさっきまで劣勢だったのに。それこそ俺がしゃしゃり出るぐらい追い込まれてたのにな。
リカさんのこういう瞬発力の高さ、順応性の高さには心底恐れ入る。
「……分かりました」
「やったー! じゃあ、薫さんで♪」
「常盤様! いくら何でもそれは――」
「よし。樹月も、桂も『さん付け』でいこう」
「おっ! いいっすね~♪」
「あっ、俺は呼び捨てでいいですよ! うんっっと年下だと思うので」
「そうだね。じゃあ、優太で」
「おっ、お待ちください! 私共のことはなんとお呼びいただいても構いません。しかしながら、若様は――」
「樹月」
「…………っは。承知致しました」
樹月さんが折れた。薫さんが一言、名前を呼んだだけで。凄まじいまでの忠誠心。まさに武士だな。
ん? 待てよ。それなら何でこの里に? 薫さんに仕えられなくなるのに。樹月さんはそれでいいのか?
「あの! きっ、樹月さん」
「……はい。何でございましょう?」
「樹月さんはどうしてこの里に?」
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樹月さんのその受け答えはどこか淡々として見えた。薫さんに傾ける情熱と比べてあまりにも淡泊であるような気がして。考えすぎ……か……?
「カッカーー♡♡♡」
「わっ!?」
件の烏・紅君が襲い掛かって来た。狙いはもしかしなくても俺の唇か!?
「ははははっ、案の定だね」
「ややっ! ちょっ! 君、面食いなんでしょ!? 何で俺!?」
「ヤダな~。紅丸が見ているのは内面だよ」
「わわわっ!? リカさん!!! 紅君のこと何とかしてくださいよ!!!」
「まぁ、減るもんじゃないし」
「はぁ!? 俺はアンタの嫁です――んぅ!!?」
あっさりと奪われてしまった。リカさんの目の前で。
なのに、とうのリカさんはへらへらしてて。俺、本当に愛されてるのかな? 何か泣けてきた。
「節操ナシめ」
「おやおや? 薫様、妬いておいでなのですか?」
「軽蔑しているんだ。桂、お前と同様にな」
「はっはっは! こいつは手厳しい」
「ふふふっ。さてさて、それじゃ私の家に向かおうか」
「お言葉ですが、そちらの件についてはまだ――」
「ん~~?」
「はぁ……分かりましたよ」
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