【完結】転生して妖狐の『嫁』になった話

那菜カナナ

文字の大きさ
上 下
2 / 27

02.契約成立(☆)

しおりを挟む
 どれぐらいの時間が経っただろう。

 気付けば妖狐は座ってた。胡坐あぐらをかいて、その輪の中にすっぽりと俺が収まっているような感じだ。

 本当にいつの間にやらって感じで。まさか……俺、寝てたのか?

「落ち着いたみたいだね」

「あっ、はい。その……お陰様で」

 気恥ずかしくなってきた。顔が熱い。とにかく離れよう。足場になってる枝の太さは少なく見積もっても5メートルはある。はいはいで移動すれば危険度は大分下がるはずだ。

「君、やっぱり人間だね」

「えっ……?」

「妖力があるだけで、だ」

 俺の開きかけた口が閉じていく。あごが震える。バカみたいにぷるぷると。

「本当ですか……?」

「うん。肉体がね、その……物凄く繊細だから。生きて100年ってところでしょう?」

 やっぱり妖怪って長生きなんだな。この妖狐も100年、いや1000年ぐらい生きてたりするのかな? 見た目は20代後半って感じだけど。

「嬉しそうだね」

 言われてはっとした。頬が緩んでる。妖狐は悪戯いたずらが成功した子供みたいに無邪気に笑った。不意打ちだ。ますます顔が熱くなる。

あやかしは嫌い?」

「っ!? いっ、いえ、ただその……ビックリして。妖怪だとか何だとか言われたんで」

「急に……ねぇ。やっぱり君は異界から?」

「っ!? なっ、何で!?」

「ふふっ、やっぱりね」

「もしかして……多いんですか? 俺みたいなの」

「どうだろう? 少なくとも私は初めてだよ。長生きしてみるものだね」

 異世界転生は相当に珍しい部類。下手したら初めてのケースってことか。先人なり仲間を宛てにするのは止めておいた方が良いのかもしれない。

「実を言うとね、私もちょっとした世界を創造しているんだ」

「っ! もしかしてあなたも神様だったり……?」

「いやいや、私はただの妖だよ」

 違いが分からない。俺は曖昧あいまいに笑って誤魔化す。

「その……良かったら来ないか? 私の里に」

 ………ん?

 理解出来なかった。俺、誘われたのか? この人の里に?

「すまない。気ばかりが急いてしまって。何処から話すべきかな……」

 正直なところありがたい。まさに渡りに船。けど、それだけに慎重にならないと。

 うまい話には裏がある。それはきっとこの世界においても変わりないだろうから。

「あ゛~! ダメだ。単刀直入に言おう。君に協力をしてほしいんだ」

「きょっ、協力?」

「妖力を分けてほしいんだ。君のその妖力をほんの少しだけ」

 膨大? そんなに? 何で??? 能力スキルの影響か?

「先程少し触れた通り、私も世界を創造している。ちっぽけだけど、それでもそれなりに大変でね。ハッキリ言ってしんどい。だけど……それでも私は守りたいと思ってるんだ。里の者には他に行く当てがないから」

「どうして?」

「あぶれ者なんだ。どうにも馴染めなくてね」

 御手洗みたらいの姿が頭を過る。ダメだ。止めろ。首を左右に振る。

「だから、維持しなければならない。守り続けていかなければならないんだ。でも……」

 妖狐は目を伏せた。顎に力がこもる。

 叶わないんだろう。もしかしたらもう終わりが見えているのかもしれない。

 御手洗

 妖達と重ねてしまったからかな。心が揺れる。ここで目を逸らしたら俺はまた――俺はずっとこのままなんじゃないか?

「あっ、あの……っ」

 バカか。何乗せられてんだ。冷静になれ。

 この妖狐はたぶん見えてるんだ。所謂『鑑定スキル』持ち。だから、俺が人間だって言い切れた。妖力を求めてきた。きっと御手洗のことだって。それで情に訴えてきたんだ。

 里は欠片も存在していなくて。了承した瞬間に吸いつくされたり、あるいは一生涯家畜同然の扱いを受けることになったり……。きっとそんなオチだ。――けど。

「もう……それでもいいや」

 妖狐は俺のことを『妖力を持っているだけの普通の人間』だと言ってくれた。

 しかしながら人間は……少なくともさっき遭遇した侍や忍者はそうは思っていないようだった。

 人間からすれば妖力を持っている=妖怪。妖力を持ってる人間なんているはずがない。たぶんそれが人間側の常識。

 隠れて暮らすにしても、退治屋の影に怯え続けることになるだろう。そんなんだったら。

「分かりました」

 ほんの一瞬でも夢を見させてもらおう。

 逃げずに守ろうとした。

 この決断だけでも前世まえの俺から見れば大進歩だ。

「妖力は胸からしか出ませんけど、それでもいいんですよね?」

 言わずもがなだろう。妖狐はもう把握してる。恥とメリットを天秤にかけた上で求めて来ているんだろうから。

「ん……?」 

「えっ……?」

 妖狐の目が点になる。まさか知らないのか? 全部見通せるわけじゃない……とか?

「……なるほど。神の仕業か。何とも腹立たしい限りだね」

 妖狐の眉間にしわが寄る。本心かどうかは分からないけど、お陰でほんの少しだけ心が軽くなったような気がした。

「君は立派な守り手だ。そう思ってもらえるよう私なりに励ませてもらうよ。……本当にありがとう」

 妖狐が頭を下げてきた。途端に頬が緩み出す。呆れてしまうぐらい単純だ。本当にバカだな。

「では、向かおうか……と言いたいところなのだけれど」

 妖狐の大きな耳がぺちゃんこに。物欲しげに見つめてくる。

「なっ、何ですか……?」

「妖力がちょっと足りそうになくて……。早速で悪いんだが、ご協力願えるかな?」

 たぶん俺を助けたせいだ。

 思えば侍達の気配はないし、空から落ちてくる時もこんなデカい木は見えなかった。

 あの一瞬で相当遠くまで来たんだろう。それで消耗してしまったんだ。

「はっ、はい! ちょっと待ってくださいね」

 ブレザーを脱いで木の上に。ネクタイを外してYシャツのボタンを外していく。

「どっ、どうぞ」

 白いインナーをたくし上げた。インナーでそれとなく顔を隠す。せめてこれぐらいは許して欲しい。

「失礼」

「んっ……」

 妖狐の手が胸に触れる。体が小さく跳ねた。間違っても変な声が出ないよう口に拳を押し当てる。

「とても強力だけど……すごく繊細だね。ふわりと溶けていく」

 ~~っ、そういうのいいから!!

 出かけた言葉をぐっと呑み込む。

「手でいただくのは……ダメか。これも……ダメみたいだな」

 試行錯誤してくれてるみたいだ。俺の方からは見えない。ただ、吐息は感じる。乳首を撫でて抜けていく。ヤバイ。背中がムズムズする。

 これから舐められるんだよな? 唇で食まれて。吸われて。

 耐えられるのか? この体たらくで。吐息だけで感じてんのに。

 太股を寄せる。勃起したらどうしよう。抜いてくれんのかな?

「……………」

 インナーを下げて妖狐の顔を見る。どうしよう。アリだ。全然アリ。まであるぞ。

 細くて眩い銀色の髪。切れ長の目に金色の瞳。白くて長いふさふさな睫毛。すっと通った鼻筋。薄くて形のいい唇。まさにケチの付けようのない顔だ。

 ケモミミも尻尾もどこか荘厳そうごんで、ギャグにも萌えにも寄らない。それだけに背徳感もヤバイけど。

「……っ」

 やっぱ勃起はなし。我慢だ。自分で自分に言い聞かせてインナーをぐっと持ち上げる。

「すまない。やはり口に含むしかないようだ」

「っ!?」

 顔を覗き込んできた。心臓が飛び出るかと思った。辛々頷いて応える。何度も何度も。

「ありがとう。ちょっと体勢がキツいから横たえさせてもらうね」

「はっ、はい!」

 妖狐は紺色の上着を脱ぐなり俺の頭の下に敷いてくれた。簡易枕だ。いい匂いがする。これは……花の匂い? 変な話、全然獣臭くない。

「ごめんね。直ぐに済ませるから」

 申し訳なさそうに。でも、ほんのり頬を赤らめて妖狐は言った。

 照れてるのかな? そりゃそうだよな。男の乳首を吸って妖力を摂取するなんて、恥以外の何ものでもないよな。

「触れるね」

「はい」

 俺はインナーで顔を隠した。鼻で大きく息を吸って控えめにつく。

「っ、ぁ……」

 妖狐の舌が左側の乳首に触れた。温かい。湿ってる。背中がムズムズする。さっきの比じゃない。ヤバイ。ヤバイ……! ヤバイ!!!

「う゛ぐぁ……あっ! ンンっ……」

 早く終わらせよう。そう思ったんだろう。溶けかけのアイスを食べるみたいにペロペロと忙しなく舐め始めた。

 乳首ってこんなに気持ちいいのか? まさか能力の影響……? ~~っ、マジで誰得だよ!!!

「っ!?」

 神様を呪った刹那せつな、胸の先が包み込まれた。薄くてやわらかい唇に。

 吸われる。

 背中に力をこめる――よりも前に吸い付かれた。脱力感と甘いしびれが全身を駆け巡る。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎
BL
 倭の国には三つの世界が存在している。  一番下に地上界。その上には天界。そして、一番上には神界。  僕達Ωの獣人は、天界で巫子になる為の勉強に励んでいる。そして、その中から【八乙女】の称号を貰った者だけが神界へと行くことが出来るのだ。  神界には、この世で最も位の高い【銀狼七柱大神α】と呼ばれる七人の狼神様がいて、八乙女はこの狼神様に仕えることが出来る。  そうして一年の任期を終える時、それぞれの狼神様に身を捧げるのだ。  もしも"運命の番”だった場合、巫子から神子へと進化し、そのまま神界で狼神様に添い遂げる。  そうではなかった場合は地上界へ降りて、βの神様に仕えるというわけだ。  今まで一人たりとも狼神様の運命の番になった者はいない。  リス獣人の如月(きさら)は今年【八乙女】に選ばれた内の一人だ。憧れである光の神、輝惺(きせい)様にお仕えできる事となったハズなのに……。  神界へ着き、輝惺様に顔を見られるや否や「闇の神に仕えよ」と命じられる。理由は分からない。  しかも闇の神、亜玖留(あくる)様がそれを了承してしまった。  そのまま亜玖瑠様に仕えることとなってしまったが、どうも亜玖瑠様の様子がおかしい。噂に聞いていた性格と違う気がする。違和感を抱えたまま日々を過ごしていた。  すると様子がおかしいのは亜玖瑠様だけではなかったと知る。なんと、光の神様である輝惺様も噂で聞いていた人柄と全く違うと判明したのだ。  亜玖瑠様に問い正したところ、実は輝惺様と亜玖瑠様の中身が入れ替わってしまったと言うではないか。  元に戻るには地上界へ行って、それぞれの勾玉の石を取ってこなくてはいけない。  みんなで力を合わせ、どうにか勾玉を見つけ出し無事二人は一命を取り留めた。  そして元通りになった輝惺様に仕えた如月だったが、他の八乙女は狼神様との信頼関係が既に結ばれていることに気付いてしまった。  自分は輝惺様から信頼されていないような気がしてならない。  そんな時、水神・天袮(あまね)様から輝惺様が実は忘れられない巫子がいたことを聞いてしまう。周りから見ても“運命の番”にしか見えなかったその巫子は、輝惺様の運命の番ではなかった。  そしてその巫子は任期を終え、地上界へと旅立ってしまったと……。  フッとした時に物思いに耽っている輝惺様は、もしかするとまだその巫子を想っているのかも知れない。  胸が締め付けられる如月。輝惺様の心は掴めるのか、そして“運命の番”になれるのか……。 ⭐︎全て作者のオリジナルの設定です。史実に基づいた設定ではありません。 ⭐︎ご都合主義の世界です。こういう世界観だと認識して頂けると幸いです。 ⭐︎オメガバースの設定も独自のものになります。 ⭐︎BL小説大賞応募作品です。応援よろしくお願いします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

【完結】黒兎は、狼くんから逃げられない。

N2O
BL
狼の獣人(異世界転移者)×兎の獣人(童顔の魔法士団団長) お互いのことが出会ってすぐ大好きになっちゃう話。 待てが出来ない狼くんです。 ※独自設定、ご都合主義です ※予告なくいちゃいちゃシーン入ります 主人公イラストを『しき』様(https://twitter.com/a20wa2fu12ji)に描いていただき、表紙にさせていただきました。 美しい・・・!

つまりそれは運命

える
BL
別サイトで公開した作品です。 以下登場人物 レオル 狼獣人 α 体長(獣型) 210cm 〃 (人型) 197cm 鼻の効く警察官。番は匿ってドロドロに溺愛するタイプ。めっちゃ酒豪 セラ 人間 Ω 身長176cm カフェ店員。気が強く喧嘩っ早い。番限定で鼻が良くなり、番の匂いが着いているものを身につけるのが趣味。(帽子やシャツ等)

処理中です...