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05.ざまあ宣言

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「おい! お前ッ! ちょっ、何考えて……っ」

 見る見るうちに赤くなっていく。照れているんだろう。揶揄からかいたいところではあるけれど、今の僕には余裕がない。

 記憶を掘り返しているから。徹底的に。隅から隅まで。どこかに彼との接点が。彼の名前がないかって。

「~~っ!! おいっ!! 厳巳いずみ――」

「………………………ごめん」

「あ゛?」

「思い出せない」

「っ!」

 その人は眉を寄せて静かに目を伏せた。凄く寂しそうだ。胸が苦しい。

「名前、教えてもらえないかな? もう二度と、絶対に忘れたりしないから」

「別に――」

 その人は言いかけて口をつぐんだ。迷っているみたいだ。交渉の余地はある。

「教えて」

 一層顔を近付ける。一音も聞き逃さないように。

「っ!!? ちけーよバカ!!!!」

「いいから」

「~~っ、誤解されたらどーすんだ!!」

「話、そらさないで」

「ぐっ……」

 彼も彼でかなり頑固だ。けど、僕も引けない。諦めたくない。

「お願い。もう僕には君しか……っ」

 懇願した。酷く弱弱しい声だ。我ながら情けない。

「俺……が……?」

 驚いてる? 呆れてる? 口を開けたままじーっとこっちを見てくる。居た堪れない。どうしよう。すごく、すごく恥ずかしい。

「……っ」

 僕は堪らず目を逸らした。顔が熱い。こんなの初めてだ。

「ぬっ! ……、くっ、くそ……っ。~~っ、ぐあぁあ~~~~っ、もうッ!!!」

「……大声出さないでよ」

「うっせーな!! 気合ぐらい入れさせろやっ!」

「……えっ?」

 その人は深く息をついた。視線を戻すとバチリと目が合う。

 その目はギラリと輝いていて。

「ナガラサトユキ。15。中3。村山SS所属だ」

「漢字は? どう書くの?」

「永遠の『永』に良い悪いの『良』、下は悟るの『悟』に行動するの『行』だ」

永良ながら 悟行さとゆきね。うん。覚えた」

「おっ、おう! 覚えとけ!! 何せ俺はテメエを『ざまあ』? する男なんだからな!!」

 永良は歯を出して笑った。でも、その笑顔はどうにもぎこちなくて。

「っふ、……ははっ!」

 つい笑ってしまった。……………………笑ってしまった?

 永良から手を離して自分の頬に触れる。ほんのり口角が上がっているのが分かった。

「……笑ってる」

「~~っ、笑うなバカ!!」

「あっ、ごめん」

「っ!? やっ、やっぱ笑え!!」

「ふふっ、どっち?」

 また笑みが零れた。止まらない。

「………マブ」

「何?」

「なっ、ななななっ!!! 何でもねえーよ!!!」

 メダルが戻って来た。半ば強引に握らされた形だ。触れた手はとても小さくて温かだった。

「はぁ~あっ、たく……」

 永良が僕から離れていく。わずらわし気に頭を掻きながら。

「メダル、もう捨てんなよ」

「君次第かな」

「…………はいはいはいはい」

 永良は顔面を覆うと静かに天を仰いだ。意図は不明だけど、まぁ問題はないだろう。

「じゃ、またな」

 一緒に帰ろうよ。言いかけた時には既に彼は駆け出していた。追うことも考えたけど、結局控えた。これ以上欲張るとばちが当たるような気がして。

「永良悟行、ね」

 メダルを箱にしまう。温かかった。メダルも。僕の心も。


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