完璧なまでの美しい僕は僕であり、あの世界の僕ではなかった。

あしやおでこ。

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第三章。

敵意の神子。

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少女を古城れ連れて行くために僕が手を差し伸べると、美しい僕は完璧なまでに華麗にスルーをされた。

「…ん?」

呆然とする僕を尻目に、少女はロイの袖をくいくいっと引く。

「私、この人がいい」

小柄な少女は頬を染めてロイを見上げた。

何だ、何だ何だ、ちょっとばかり苛立ってしまいそうだぞ。
それにその男は僕のだ、気安く触れるな!とは言えずに、ぐぬぬ、と堪えてやり過ごす。
相手は少女だし、雰囲気から見るにきっと実年齢も幼いのかもしれない。
僕は余裕のある大人で、寛容な態度で美しく笑んでみせた。

「そうか。ロイ、運んであげてくれ」
「あぁ、わかった」

少女はロイに身体を預けようと両腕を伸ばした。
しかし少女の期待を裏切り、ロイは米俵を担ぐようにひょいっと抱き上げた。

「えっ…」
「なっ!なんでこの抱え方なのっ!お姫様抱っこじゃないのっ!?」
「楽だからだが…」
「ぶふっ…」
「笑うな!おとこおんな!!」

少女はさっきまでとは異なる意味で顔を真赤にさせ、足をバタつかせている。
ロイに抗議をむけて、この美しい僕に暴言をはいた。

「お…おとこおんな…」

ロイは少女を面倒くさそうに眺めてから、「行くぞ」と声をかけてさっさと飛び立った。
きっと厄介な神子が現れたと思っているだろう…、僕も同じ気分だぞロイ。

ひとまず古城に連れ帰ったものの、少女の振る舞いは神子以前に人としてどうかと…それはそれは僕らを疲弊させた。

「神子?なにそれ?美味しいの?」

イルネージュに全く興味を示さないばかりか、なぜかどうして、ロイの膝の上にちょこんと座り菓子を貪っている。
セスも少女へのもてなしに忙しそうだ。

「おや、神子様はお菓子が気に入られたようですね」
「うん、これ美味しいわ」
「そちらは私の手作りにございます」
「へぇ!やるわね!」

随分と僕のときと態度が違うじゃないかと、悪代官の口車にのったとは理解していても、どうしてもモヤっとしてしまう。

そしてこいつが少女なのかも、いささか雲行きが怪しい。
ロイにしなだれかかる様はとてもじゃないが少女のものには見えないし、僕は見た目に騙されているのでは…。

ああそうか、これは僕がイルネージュでしたことと変わりないのかもしれない。
僕に少女を責める資格はないのだ。

溜息をつき額に手をあてる僕に、少女は勝ち誇った表情を浮かべた。

「時に神子様、そろそろお名前をお教えいただけないでしょうか?」
「うーん。そうね、あなたは私の名前を知りたい?」

膝の上からロイを見上げて聞いている。

「どうでも、それに」

ロイは安定の塩対応だ。これぞロイだ、と僕は少しだけ安堵した。

「何よ、知りたくないの?それに?」
「俺は子守をするためにお前を迎えに行ったわけじゃない。あとは…見た目が実年齢と伴わないことも知っている。これ以上、神子に振り回されるのも御免だ」

バッサリと言い捨てて、呆然とする少女を膝からおろしロイは部屋を出た。

「お、おい。ロイ…」

セスも肩を竦めながらロイの後を追った。

部屋には素性の知れない神子と僕が残された…、勘弁して欲しい。
少女は特に気にした様子もなく紅茶を啜り、足を組んでから僕を凝視した。

「随分と塩対応なイケメンね」
「…やっぱり君は、見た目と反しているみたいだね」

少女は、ふん、と鼻を鳴らした。

「私の名前はリズベルで本名は佐伯理沙、前クラスはアーチャー、名前は……リサリエル」

凝視する大きな瞳は徐々に怒りを滲ませて、しだいに僕に敵意を向けたものに変わった。
名前を聞いても思い当たる節は全くないということは、イルネージュで知らずに恨みでも買ったのだろうか。

「覚えがないとは、言わせない!」
「と、言われても…、僕には何のことだか…」
「え…、覚えてないって言うの!?」
「リサリエル…さん?僕の知り合いなのかな…」
「はーーー!?」

リズベルはテーブルを両手で叩き、身を乗り出した。

「あんたおっぱいなくなってるけど、シシリでしょ!?その顔を見間違えるはずないわ!!あんたのせいで私のイルネージュは地獄に変わったのよ!!!」

僕はリズベルもといリサリエルに何をしでかしたのだろう…、相手をここまで怒らせるほどの何か…、何だろう。

困った、全く記憶にない。

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