完璧なまでの美しい僕は僕であり、あの世界の僕ではなかった。

あしやおでこ。

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第三章。

すげ替え職人、僕。

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「そなたは今までの神子のどれとも違う。神々しいまでに美しい、私の元で華麗な華を咲かせるが良い」
「ぶっふ!!頼む…勘弁してくれコクオウサマ…ぶふっ」

田中の言葉には耳もかさないのか、国王は顔色ひとつ崩さない。
強靭な精神だ。厚顔無恥とはこのことだ。

相も変わらず笑い転げる勢いの田中に、押し黙ったまま怒りに震えるロイ。
悪代官に匹敵する速度で気持ち悪さを全面に押し出す国王に、ドン引きな僕。

この国王はこの国にとって諸悪の根源でしかなさそうだ、この場において1番いらないキャラクターだ。
そうか、ただのミスキャストだ。
配置ミスされたNPCだと思えばいいのか、簡単じゃないか。

「リガルースト国王。僕がサールジオ国の庇護下にあることはご存知か?」
「存じておる」
「いかなる理由があろうと、僕の進退が脅かされるのであれば…」

国王はそれまで崩すことのなかった表情を変え、片眉をあげた。

「余の意に背くと申すか」
「国王…神子の話の意図がおわかりか…?」
「無理無理、無理だって」

チャキリと、近衛兵達の切っ先が更に鋭さを増した。
近衛兵達もアホな国王の元で剣を振わなくてはならないとは…。

できれば騒ぎは避けたかったし、和やかムードの中で穏便にこの場を去ることができれば良かった。

だけど、やっぱこいつは駄目だ。

サールジオ大陸とは権力が全てであり、それに背く行為は許されないのだ。
例え戦争が起ころうとも、このアホ王は椅子にふんぞり返って迎え撃つだろう。
となれば、被害を被るのは兵士達と国民達だ。
こんなアホが1人でもいるせいで、世界から戦争はなくならないんだ。

やはり配置ミスでしかない。

「はい」

右手を挙手する僕に、答えたのは田中だった。

「アキラ君、答え給え」

そうだろう、この意図を汲んでくれるのは田中だけだ。
お前もなかなか役に立つじゃないか。

「はい。僕は国を潰すとまでは言いません。国民には何の落ち度もない。唯一この場において不必要な役割を担うものがいるとすれば、頭に王冠のせただけのそこのオッサンだと思うんです」
「な、貴様!何を申すか!!余を愚弄するか!神子と言えどそのようなっ!!」

田中が国潰しを宣言したときもこんな感じで怒り狂ったのだろう、めっちゃぷんすこしている。

「僕は優しいのですよ。国潰しなんて滅多なことは口にしません。ですが…王をすげ替えるだけなら、一瞬のうちに、瞬く間に終わらせることができます」

右手を首元にそえてクイックイッと、首チョンパをジェスチャーで伝えてみた。

その一部始終に、目を瞠らせている男性がいる。
王の背後に控える右側、身なりは豪華だけれど国王とは違い随分と品がある。
年齢的に王の弟かそこいらだろう。
僕の勝手な推測だけれど。

僕はその人物を指差した。

「彼へ王位の継承を。即刻に。さもなくば貴方の身体は、魂の微粒子ひとつ残さずに僕が風化させます」
「ふは!そりゃいい!配役を降りろだとよ、オッサン。この神子は俺でも敵わない圧倒的強者だぜ」
「クソがどれほど怒り狂おうが無駄だと言うことだ」

散々な言われように、国王はワナワナと震えながら顔を真赤にさせている。

指名を受けた男性は数歩前に出ると、膝をつき頭を垂れた。

「兄ディビシャ・ノイド・リガルーストに代わり、アルフォンス・ジィル・リガルースト、神子様よりの拝命を承りました」
「貴様もか!!謀反か!!認めぬ、妾腹の卑しい出生に王位などっっ」

おおう、弟は当っていたが、歴史ファンタジーにありがちなドロドロな血の確執もあったのか。
それなら都合が良い、クーデターだ!
レヴォリューションだっ!

田中が国王へ足を向けると、謁見の間の扉が勢いよく開け放たれた。

「ディビシャ様っ!」
「ディビシャ様、ご無事ですかっ!」

身なりの良い2人の男女だ。

「あぁ、お前らか」

田中は冷ややかな視線を浴びせた。

彼らはもしやまさか?

僕が振り返ると、その2人は手に取るように固まった。
いくらなんでも魔王女帝降臨衣装を着ているからと言って僕は魔王ではないぞ、と言いたくなるほどに怯えている。

「あなたは…、シシリ…さん…?性別が違うけれど…」
「…シシリさんだ…!間違いないよノット!」

僕は彼らのことは知らないけれど、彼らは知っているようだ。
勢い良く登場したのものの、どうして良いのか分からずにオロオロとしはじめた。
害はないだろう、放置しておこう。

「おい!お前達!この謀反者を処刑するのだ!!」

元国王は声を張り上げて2人に命じた。
それに2人は異を唱えた。

「いやいや…無理ですってディビシャ様。シシリさんに牙を向けるとか死刑宣告ですやん!」
「私も無理ですぅ!死んでこの世界に来れたのに、また死にたくないですよぉ!!」
「オッサンにツッコまれてヒイヒイ善がって贅沢三昧だったんじゃねえのか?すげえ手の裏返し」

2人の言い分に、さすがの田中も呆れ返っている。
田中は2人から冷ややかに視線を反らし、元国王の前へピョンと飛んだ。

2人の神子に見捨てられた元国王は打ちひしがれたように体勢を崩している。
その頭から王冠を取り上げて「ピュアリフィケーション」と唱えると、王冠を淡く灯る結晶が包み込んだ。

「きたねーから浄化な」

やるじゃないか田中!心の中で賛辞を送った。
その浄化された王冠を僕に向けてきたから、僕もピョンと一飛びでアルフォンスの前に立った。
田中から王冠を受取り、跪いたままのアルフォンスの頭に載せた。

その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が湧いた。
同時に仄暗い影も浮き彫りになった。
元国王は言わずもがな、嫌われていたんだろう。
そしてその国王を増長させた者達もまた然りだ。

「神子様、私は腐敗しきったこの国をゼロから立直してご覧にいれましょう。貴方様の拝命に背く愚かな行為は致しません」

元国王をすげ替えるのが目的だったのに、結果オオアタリを引いたようだ。
ロイもピョンと飛び、僕の隣に立つ。

「また国の立役者になったな」
「僕はそこのオッサンが気に入らなかっただけだ」
「田中…、お前みたいなクズも役に立つもんだな」
「お前…本当に口の減らないヤツだな!」

田中はロイの肩に腕を掛けている。
それを振り払う素振りもない気安い雰囲気だ…、やはりこの2人の間に何かあったのか?…いがみ合うよりはマシかと僕は気にしないことにした。

そんな僕らの背後に彼らはやってきた。
例の2人だ。

元国王は彼らににじりより縋りついた。

「ノットにリーシャ…まさか余を見捨てるつもりじゃあるまいな…」

その元国王を2人は冷めた目で見つめた。

「ルゥトを人質に取ったのはお前だろう…」
「あの子はまだ小学生なのに!」

話の矛先は、僕の想像を超えた斜め上に向かった。

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