完璧なまでの美しい僕は僕であり、あの世界の僕ではなかった。

あしやおでこ。

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第三章。

ずれゆく感覚。

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僕が落ち着きを取り戻した頃、ロイの身体もようやく動けるようになった。
しかし、生き返るというのは一筋縄ではいかない。

「生き返るってのは…反動が凄いな…」
「倦怠感と発熱と…身体の軋み…?」
「だな…、五感はなんとか戻った」

リザレクションの副作用に、回復魔法の効果はなかった。
あぐらをかきながら、ロイは気怠げにしている。
左手をぐーぱー握ったり開いたりを繰り返している。

「左手も…問題なく動くな。ペンデュラムは…?」

僕はロイの腕からペンデュラムを外そうとすると、ピクリとも動かない。

「ロイ、外せないよこれ」
「あぁ…、本人以外は取り外しできないんだ」

仕方がないから左腕ごとロイに渡した。

「まさかな…、自分の千切れた腕を見るハメになるとは…」

苦笑いだ。
左腕からペンデュラムを外して、手首に巻き直した。

「不思議な気分だな…」
「ん?」
「生き返るってのがさ」
「……」

何と答えれば良いのかわからない。
僕は僕のエゴでロイを生き返らせたのかもしれない。
俯く僕の髪を大きな手がわしゃわしゃと撫でた。

「生き返られてくれて、ありがとな」
「ううん、僕がロイを失いたくなかったんだ」
「俺もだよ」

そうか、良かった。
不安に思う必要はなかったのか。

「氷漬けとか物騒なこと言ってたな…」
「聞こえてたのか?」
「引き摺って行くあたりから聞こえてた、けど身体は動かないし、声も出なかった」
「心臓が動き出すより前に…意識が戻ってたってことか…?」
「さぁな…どうだろうな」

やはり不確定要素が多すぎる。
不安にかられるのをロイに知られるわけにはいかない。
きっと本人が1番不安を抱えているはずだ。

「なぁ、アキラ」
「なに?」
「引き摺るのも氷漬けも簡便な、俺は自分の足でイルネージュに行きたい」
「うん、わかったよ」

僕は悟られないように、笑顔で答えた。

「にしても…アキラの服…」
「言うな…」

僕の最高火力を持つ衣装は全身がマットで真黒だ。

仲間達いわく"魔王女帝降臨"なんだそうな…。
頭にはヤギのような角が生えていて真青な宝石を散りばめた髪飾りついている、
身体にピッタリとフィットしたロングドレスは、背中がパックリと露出されていて、両サイドにはがっつりとスリットがはいっている。
右足はニーハイブーツで、左足は差し色が鮮やかな真青のハイヒールだ。
そして…衣装に合わせた濃ゆいメイクが保存してある。

唯一ゲームと違うとすれば、女性用の衣装のはずが胸元はぺたんこに処理がしてあった。

僕の今の体型にジャストフィットしているのだ。

「すげえやらしい服だな…」
「やめろ…その話に触れるな…」

僕は中二病衣装にいたたまれなくなってアイテムイベントリを開き着替えようとした。
しかし…、砂漠の民の服は保存されないらしく消失してしまったようだ。

「あ…、いい服があった」

僕の衣装はほぼ、美しい僕を更に美しく着飾るためのものだ。
けれどひとつだけネタ衣装がある。
干物女の休日セットだ。

小豆色の3本ラインのジャージ上下と、つっかけサンダルだ。
素早くそれに着替えた。

「便利…だな…」

ロイは驚いている。
目の前でいきなり服が変わったんだ、無理もない。

「ほらつかまれ、ソリに戻るぞ」
「あぁ…っと…」

足をもつれさせたロイをしっかりと抱えながらソリに戻った。
超ラクダ達とソリが無事で良かった。

ロイを寝かせてから船首に出て、水の張った桶に氷をいくつか浮かばせる。

「アイシクルロック…」

攻撃魔法のイメージコントロールはすっかり上手くなったし、氷に関しては生活で使うには問題ないレベルだ。

その氷水に布を浸して絞り、ロイの額にのせた。
発熱で辛そうなロイの眉間からシワがスッと消える。

「…気持ちいい…な……」
「だろ?他にして欲しいことはあるか?」

答えは返ってこなかった。
眠りについたみたいだ。

僕は再び魔王女帝降臨衣装に身を包んで外に出た。
ここはすでに魔物が闊歩するエリアだ。
カーマイル神殿まで、ロイの様子を見ながらソリを守るんだ。

アイテムイベントリを解放してから、気付いたことがある。
暑さを感じなくなって、突き刺すような陽射しも感じないし、疲れる感覚もない。
まるでゲームだ。

「魔物だ」

サソリの姿は消えて違う魔物が現れるようになった。
どれもイルネージュで似たのを見たことがある。
きっとイルネージュに近づくにつれ、魔物も強くなっているんだろう。

遠くに見える魔物を、気づかれる前に次々と倒していく。
周囲に魔物が見えなくなれば、ロイの看病をする。
その繰り返しだ。

ロイの熱が治まるまで、5日かかった。
その間、僕は一睡もしていない。
眠くならないし、腹も減らないし…疲れない。
僕の変化をロイには悟られたくなくて、食事は一緒にとった。

「ロイ、体調はどうだ?」
「大丈夫だ、不具合はない」
「そっか、良かった!」

ロイは僕をまじまじと眺めている。
おそらく衣装だ。
不測の事態に備えて、女帝服のままなんだ。

ロイの瞳が滲んでいる。
これは欲情を浮かべているんだ。
ロイの性欲にはちょっと呆れるぞ。

でもいつ魔物が襲ってくるかわからない今、爛れているわけにはいかない。

「駄目だぞ…、ここは魔物がでるからな」
「わかってる」

と、言いながらも、ロイは唇を重ねてきた。
それくらいならと、僕も応える。
でもそこまでだ。
そっと身体を離した。

「まだ病み上がりだから、良い子に寝ててくれよ」

僕はロイを寝かしつけてから外へ出た。
予定ではあと2日後には国境にたどり着き、そこから更に3日ほどでカーマイル神殿に到着する。

ロイとはそこで、しばしのお別れだ。

国境付近は砂漠地帯よりも魔物が少なかった。
カーマイル神殿の神子が魔物を倒しているからだろうか、タイミングが良かったのか、少し拍子抜けだ。

「この調子なら早く到着できそうだな…」
「…サールジオから船で渡るはずじゃなかったのか」
「あぁ…、そうだよ」
「アキラ、俺を誤魔化せると思ったか?」

ロイは静かに怒りを滲ませている。
騙せるわけがなかった。

「ロイ…」

僕はロイの唇に触れるだけのキスをした。

「ごめんな…」
「アキラ…お前…」
「スリーピングライト…」
「くっ………」

眠らせるための魔法を唱える。

本当はもう少し先へ進んでから眠らせるつもりだった。
ロイを眠りに落としたまま、カーマイル神殿には難無くたどり着いた。

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