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第三章。
復活の呪文。
しおりを挟むこんな現実を認めたくなくて、まだ温かさの残るロイを手放せないでいる。
現実で死んでしまった人間は生き返らない。
「…生き返ら…ない…?」
失念だ…、あるじゃないか、ロイを蘇らせることのできる魔法が。
「…生き返らせれば…いいじゃないか」
その魔法を使うことなんてほぼなかったから…僕はどこまで抜けてるんだ。
フルヒールでさえ、お伽噺の中の魔法だとロイは驚いていた。
空を飛ぶことだってそうだ。
人を生き返らせることなんて、僕が神子でウィザードであれば可能なはずだろう?
魔法一覧を開いた。
目当て魔法の概要までスクロールさせると、それは文字化けを起こしていて魔法名はおろか、説明すら文字や記号の羅列でしかなった。
「何だよ…これ」
人を生き返らせるなんて魔法は存在しないってことか?
この世界の禁忌にあたるのか。
僕は絶望する。
ロイを抱きしめる手が震えるし、背筋も凍りそうだ。
でも、もし生き変えれば?
試す価値はあるんじゃないか?
でも、もし生き返らなければ?
頭の中も心の中もグチャグチャになりそうだ。
"イルネージュは見たことのない俺の故郷だ…"
あの魔法が使えなかったら…。
"いつか…、自分のルーツを見てみたい…"
使えなかったら…。
そうだ…僕は…。
ロイの願いを叶えよう。
それで、全てか終わったら、イルネージュで共に眠りにつくのも悪くない…。
だから、ロイが生き返らなくても、僕は絶望したりしない。
「お前のルーツを見に行こう…、だから、ひとつだけ試させてくれよ」
ロイを横たわらせてから、僕は息を整えた。
負の感情を全て取り払う。
魔法を成功させるなら、迷いはマイナスでしかない。
僕は神子で、意思は魔法に繋がる。
生き返らせる、生き返る、失敗しない。
心臓に再び鼓動をはずませて、血液を全身にかけ巡らせてみせる。
失われたロイを、必ず取り戻す。
僕はありったけの思いを込めて、ロイの胸に、両手をおいた。
「リザレクション!!!」
床からふわりとした白いヴェールが浮かび上がり、ロイの身体を包んだ。
シャラン…シャラン…シャラン…優しい音色に、青白い微粒子が降り注ぐ。
「頼む…、頼むから…、生き還れよ、ロイ!!!」
ロイを包んでいたエフェクトはうっすらと消え去り、音も鳴りやんだ。
ロイの心臓あたりに耳をあてて、呼吸するのも忘れて、五感を研ぎ澄ませる。
それなのに、涙は零れるし、嗚咽は漏れてしまう。
これじゃ心臓が動き出しても、自分の発する音がうるさくて聞こえないじゃないか。
「ロイ…、ロイ…、僕は、お前を引き摺ってイルネージュに行けばいいのか…?」
「……」
「腐らないように氷漬けにすればいいのか?」
「……」
「砂漠は暑いから氷なんてすぐに溶けちゃうぞ…」
「……」
「なんで…生き返らないんだ…、僕は神子で、ウィザードなんだぞ…」
ロイは息を吹き返さない。
魔法は失敗したと悟る。
文字化けしたこの魔法は…この世界では…。
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