完璧なまでの美しい僕は僕であり、あの世界の僕ではなかった。

あしやおでこ。

文字の大きさ
上 下
61 / 79
第三章。

復活の呪文。

しおりを挟む


こんな現実を認めたくなくて、まだ温かさの残るロイを手放せないでいる。

現実で死んでしまった人間は生き返らない。

「…生き返ら…ない…?」

失念だ…、あるじゃないか、ロイを蘇らせることのできる魔法が。

「…生き返らせれば…いいじゃないか」

その魔法を使うことなんてほぼなかったから…僕はどこまで抜けてるんだ。

フルヒールでさえ、お伽噺の中の魔法だとロイは驚いていた。
空を飛ぶことだってそうだ。
人を生き返らせることなんて、僕が神子でウィザードであれば可能なはずだろう?

魔法一覧を開いた。

目当て魔法の概要までスクロールさせると、それは文字化けを起こしていて魔法名はおろか、説明すら文字や記号の羅列でしかなった。

「何だよ…これ」

人を生き返らせるなんて魔法は存在しないってことか?
この世界の禁忌にあたるのか。

僕は絶望する。

ロイを抱きしめる手が震えるし、背筋も凍りそうだ。

でも、もし生き変えれば?
試す価値はあるんじゃないか?

でも、もし生き返らなければ?

頭の中も心の中もグチャグチャになりそうだ。


"イルネージュは見たことのない俺の故郷だ…"

あの魔法が使えなかったら…。

"いつか…、自分のルーツを見てみたい…"

使えなかったら…。

そうだ…僕は…。

ロイの願いを叶えよう。
それで、全てか終わったら、イルネージュで共に眠りにつくのも悪くない…。

だから、ロイが生き返らなくても、僕は絶望したりしない。

「お前のルーツを見に行こう…、だから、ひとつだけ試させてくれよ」

ロイを横たわらせてから、僕は息を整えた。

負の感情を全て取り払う。
魔法を成功させるなら、迷いはマイナスでしかない。

僕は神子で、意思は魔法に繋がる。

生き返らせる、生き返る、失敗しない。
心臓に再び鼓動をはずませて、血液を全身にかけ巡らせてみせる。

失われたロイを、必ず取り戻す。

僕はありったけの思いを込めて、ロイの胸に、両手をおいた。

「リザレクション!!!」

床からふわりとした白いヴェールが浮かび上がり、ロイの身体を包んだ。
シャラン…シャラン…シャラン…優しい音色に、青白い微粒子が降り注ぐ。

「頼む…、頼むから…、生き還れよ、ロイ!!!」

ロイを包んでいたエフェクトはうっすらと消え去り、音も鳴りやんだ。

ロイの心臓あたりに耳をあてて、呼吸するのも忘れて、五感を研ぎ澄ませる。
それなのに、涙は零れるし、嗚咽は漏れてしまう。
これじゃ心臓が動き出しても、自分の発する音がうるさくて聞こえないじゃないか。

「ロイ…、ロイ…、僕は、お前を引き摺ってイルネージュに行けばいいのか…?」
「……」
「腐らないように氷漬けにすればいいのか?」
「……」
「砂漠は暑いから氷なんてすぐに溶けちゃうぞ…」
「……」
「なんで…生き返らないんだ…、僕は神子で、ウィザードなんだぞ…」

ロイは息を吹き返さない。

魔法は失敗したと悟る。

文字化けしたこの魔法は…この世界では…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

ある国の皇太子と侯爵家令息の秘め事

きよひ
BL
皇太子×侯爵家令息。 幼い頃、仲良く遊び友情を確かめ合った二人。 成長して貴族の子女が通う学園で再会し、体の関係を持つようになった。 そんな二人のある日の秘め事。 前後編、4000字ほどで完結。 Rシーンは後編。

処理中です...