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第三章。
悪夢の果の悲しみ。
しおりを挟む僕の身体は、信じられないほど軽かった。
グリムが薙ぎ払う前に、一気に距離を詰めた。
ロイを巻き添えにしないために、こいつを後退させなきゃいけない。
薙ぎ払う鎌を杖で打ち返す。
杖からはガインッと鎌からはキィィンと打ち合う音が神殿に鳴り響く。
グリムが仰け反るのに対して、僕は反動すら感じない。
「なんだよ…、弱いじゃないか」
更に杖を振るい、グリムを叩きつけるたびにジリジリと後退させて行く。
「何で、お前ごときが、ロイを……?」
僕の打撃を、鎌の柄で防ぐのがやっとだ。
そのまま神殿の外まで押しやった。
「答えてみろよ…」
神殿の中だと魔法は使えない。
崩れてしまえば、ロイが瓦礫に埋まってしまうから。
だからグリムを神殿から追い出すまで我慢したんだ。
グリムは、数歩下がり、自ら距離を取った。
「お前でも恐怖を感じたりするのか…?」
それは明らかに、僕に怯えた行動だ。
「ディスインテグレイト」
装備によってステータスが上昇した僕の魔法。
この世界の意思による魔法効果の変動は、もはや自分でもどれほどの威力になるのか不明だ。
淡く鈍く白光る剣が、グリムの頭蓋に突き刺さり貫いた。
オォォォ…と、腹に響く呻き声をあげながら、あまりにも呆気なくサラサラと風化して辺りの砂漠に沈んだ。
僕は最奥にある石台へ走り出した。
「ロイ、ロイ…」
グリムに追われていた時はとても長く感じた距離が、信じられないほどに短い…あっという間だ。
「ロイ…」
石台にもたれていたロイは、横たわっている。
きっとグリムの地響きで倒れ込んでしまったんだ。
「大丈夫か…?」
だらりとした身体を抱き寄せると、何の抵抗もなく体重は僕に傾く。
「いま治すからな」
フルヒールを一度唱えただけで、ロイの腕は復元されて、少しだけ皮膚の引攣れを残して傷も癒えた。
でもロイは動かないし、声もあげない。
「なんでだよ…」
本当は、わかってた。
ヒールをかけても無駄なんだ。
ロイの身体が重くなって動かなくなった時には…。
だから怯んでしまいそうになった。
あの時にはもう…、ロイの心臓は時をとめてたんだ。
「わかってたよ…でも…認められるわけないだろ…」
僕は動かなくなったロイを腕の中にとじこめたまま泣いた。
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