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第三章。

秘めたる思いを知る。

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「国民への報せはつつがなくー!問題ございませんー!」

僕から距離をおいたソルベが声を張った。
ファジュル国王に熱烈歓迎を受けることになった問題解消のために、僕はオアシスの前に1人立っている。

ファジュル国王をはじめ国の政に携わる人達も、かなり距離をとって事の成行きを見守りに集まったようだ。

僕が片腕をあげるのを合図に、少しざわついていた周辺は静寂に包まれた。

念の為、万が一のために、まずは完全障壁を彼らに向けて唱える。

「アブソルートバリア」

シャボン玉のように艶めく、透明なガラスにも似た膜が一体を覆う。
これで飛沫が飛び散ったところで、雫一滴すら彼らには届かない。

ひと呼吸おいて、僕なりに練に練ったイメージを浮かべる。

「アイス…」

雲1つなかった晴れ渡る空に、雷鳴が轟き、雷雲が発達しはじめる。

「メテオ…ストライク!!」

やはり氷メテオを唱えると、このエフェクトは避けられないらしい。
相変わらず魔王降臨的な禍々しさを含んでいる。
他の魔法はどうなんだろう…と、いかん、集中だ。

1個目の氷塊がオアシスを目掛けゆっくりと降らせる。
それでも衝撃は完全に抑えるのは難しい。
着地の際に少なくはない地鳴りと、波のような飛沫をあげた。

それを基点に、3個の氷塊を並べ、最後にそれらより大きな氷塊をさらにゆっくりと降らせ、4個並ぶ氷塊の中心に乗せた。
割れることなく出来上がったのは、氷塊ピラミッドだ。

僕の干渉が可能な限り氷塊の温度を下げたから、かなりの時間は溶けずに残るのでは?と思う。

振り返ると、ワッと場が湧いた。
手を取り合い喜ぶ人や、小躍りする人、と賑やかだ。

「砂漠に氷塊か…。砂漠入りを思い出すな」
「はは、だな!」
「しかし…アキラの魔法は本当に凄いな…」

ロイは氷塊ピラミッドを眩しそうに見上げた。
一足遅れて国王とソルベもやってきた。

「神子様、このような奇跡を…心より感謝致します。騙し討ちのような手段を取りましたこと、謝罪致します」
「神子様!言葉では尽くせないほどの感動でございます!」
「まぁ、歓迎のお礼と言うことで!」

これだけ喜んでもらえれば、十分だろ!
その夜は、国をあげて祝杯の祭が催された。

「大仕事も終えたし、明日にでも立つか」
「疲労は平気なのか?」
「ロイから吸えば魔力は問題ないぞ」
「なら、今夜だな」
「ま…、そうだな?」

改めて言葉にすると、誘ってるだけのように聞こえてしまう。

明日の朝に出立することを国王に伝えた。

「なんと、まだ早いではないか!」
「もっとゆるりと過ごされても…」

引き留める国王とソルベを宥めると、次は功績に対する褒美の話に変わり、やんわりと辞退した。
結果、旅の物資の補給を頼むことにした。
何だかんだそれが1番助かるんだ。

国王は最後まで引き留めるのも、褒美の件も粘ったけれど…。


国王から国民まで国中の人達が賑やかに過ごす中、ロイと僕は王宮にあてがわれた部屋に戻っていた。
おセックス…、魔力供給のお時間だ。

明日の朝旅立つため、早めに終わらせて早めに就寝する予定だったのに。
結局はロイにヘロヘロになるまで抱かれてしまった。

水を飲ませてもらって身体を丁寧に拭かれるのも、すっかり通常営業だ。
心地良くてうとうととしてしまうけど、抱き潰されなかったからぼんやりと意識が残っていた。

どんな表情でこの後始末をしているのかと興味が湧いて、気付かれないように薄っすらと瞼をひらいたんだ。
ロイは想像もつかないほど優しい顔をしていた。
まただ…たまらない気持ちになってしまった僕は慌てて寝たふりをした。

僕に服を着せてからロイも隣で横になり、僕は腕の中にすっぽりと閉じ込められた。

いつも、こんな感じなのだろうか。
大抵は意識を飛ばしているから知らなかったことだ。

額に口付けられて、耳元に唇が寄せられた。

「…好きだ、アキラ。おやすみ」

そしてまた額に口付けられた。


は…?
何だ今のは!


何気なく呟かれた言葉はあまりにも自然で、これも僕が知らないだけで何度も告げられていたのだろうか。

ロイに気付かれてしまうんじゃないかってくらい心臓は高鳴ってしまうし、きっと顔も耳も真赤になってるはずだ。

これじゃ、これじゃ、僕もロイを好きみたいじゃないか!
確かに僕はチョロいし、一度だけそんな思いも疑ったことはあった。

でも…。

そうだ、これは!
きっと吊橋効果に違いない!
ロイとは少からず色々経験したし!

そうだろ?
だって僕は女の子が好きなはずなんだ…。

でも、ロイのことは嫌いじゃない。
抱かれても嫌じゃない。

むしろ抱かれたい。

ああ、くそ…ロイのヤツめ。
僕を作り変えやがって。

応えてなんかやるもんか。
このまま寝たふりだ…。

まだ認めきれない僕は、やっぱり思考に蓋をするしかなかった。

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