完璧なまでの美しい僕は僕であり、あの世界の僕ではなかった。

あしやおでこ。

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第二章。

巧妙な光明。

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僕は久しぶりにフル課金装備を身にまとった。

「とても良く似合うね、白もとても似合っていたけれど、黒い華美なそれは…」
「ストップだ!イエローカード出すぞ、カラム!」
「イエローカード?」
「気にするな」

火花がバチバチする前に場を収める。
面倒くさいことは、潰すに限る。

チュベローズの王宮も含めて。

「使用人達は時間になれば避難させる手筈だからね。安心して王宮を潰してくれて構わない。穢れたモノは跡形もなく消すに限るよ?」

でも、とカラムは表情を曇らせて続けた。

「神子の力には興味がないと伝えたにも関わらず、結局は君の力を利用する形になったね。自ら口にしたことを違えるのは僕の生き方に反するよ…」

王子のアンニュイだ。
カラムはカラムなりの美学があるんだろう、とても嘘を吐いているようには見えない。

美しいものが好きだと言っていたのも彼なりのコダワリで、軽薄なところ以外は信用に値する人物なのかもしれない。
そもそも軽薄なのは駄目だけどな!

それにカラムは王子なのだから欲しいものが手に入るのは当たり前で、僕はイレギュラーな存在だから余計に執着めいたものがあったんだろう。
不遜な態度が気に入ったとか…言ってたしな。
ロイに対しても結局は不敬を罰さなかった。

美しい僕を差し出すことはできないけれど、カラムの望みをひとつくらいは叶えることに協力しよう。
これは条件とか以前に、僕自身がそうしたいと思うし、賛同もできたからだ。

「この国はリセットした方がいい。穢れた王宮なんて跡形もなく、消し去ってやるよ」
「頼もしいね?僕の国になれば奴隷も解放するし、もちろんその後も国へ帰るなり働き口なり、王としての責務を果たすと約束する。産業ももっと華やかに美しく発展させてみせるよ?」
「カラムがすげえ王様っぽいな…。それに産業の発展か…、吉原のように、かな…」
「ヨシワラ?」
「僕のいた世界の、古い色街の呼び名だ。古いといっても健在してるけど…」
「ほう…、ヨシワラ、ね?」
「そろそろ時間か?俺はアキラに着いていいんだな?」

ロイの服装も戦闘用なのか、いつもと雰囲気が違う。
腰には短剣やら、両腕には少し大きめのペンデュラムが巻かれている。

「そうだね?だいたいロイはアキラの側を離れたくないのだろう?せいぜい騎士様として守ってあげればいいよ?」
「そうさせてもらう」
「まぁ…ロイは騎士じゃなくて魔術師だけどな…」

こうしてひょんなことから、国潰しに加担することになった。
そして、僕を探しているという男がアイツだとすれば、ここらで完膚なきまでの引導を渡してくれよう。

「さぁ、はじめようか?」
「おう」
「後でな、カラム」

大通りから真正面に聳え立つ王宮からは、続々と人々が流れ出している。
王宮を潰すということは、物理的に崩すということだ。
人を殺すことになる。
血塗られた土地と判別できないほど、跡形もなく消す。

しかしその前に、チュベローズ国王とやらと話がしてみたい。
どのような人物なのか、それくらいは確認しなくてはいけない。
自らの手で葬るのだから。

「ロイ、僕に抱きついて」

ロイは情熱的に抱きしめてきた。
ちょっと違う。

「ロイ、ちょ…、おい!そうじゃない!」
「なんだ?」
「首に腕を巻きつけるくらいでいい!チュベローズ国王の顔を拝みに行くぞ」

首に両腕がからまり腰を両手で支えて、僕は飛び立った。
ト、トンだ。軽い、ロイを抱えているのに、羽のように軽い。
そう言えば、魔法を取り戻してから飛ぶのははじめてだ。
ゲームとは違って、僕は現実に飛んでいて、全身で風を感じている。

「気持ちいいな、ロイ…」
「凄いな…、よもや俺が空を飛ぶことになるとは…」
「でもこれ地味にMPもってかれるからな、長距離はむいてないんだ」
「枯渇すれば、どうなる?」
「地上に真っ逆さま、叩きつけられて終わりだ」

首に回されたロイの腕が更に絡まった。

「大丈夫だ、これくらいの距離ならMPも減らない」
「そうか…」

大通りへ逃げてきた使用人や衛兵達は、空を飛ぶ僕達を見上げている。
その人達の頭上を駆けて、王宮の天辺に降り立った。
開放的なバルコニーから侵入する。

豪奢で立派なベッドに男が1人寝ている。

「バカと煙はって言うけど、本当に天辺にいるとは…」

先制を仕掛けたのはロイだった、
チュベローズ国王へ文字通り冷水をぶっかけた。
国王は飛び起きた。
きっと心臓はバクバクしているだろう。

「はじめまして、国王様」
「な、な!何だ!?誰だ無礼者!!衛兵はどうした!来い!!」
「残念ながら、すでに誰もおりませんよ」

しかし国王の声に答える者がいた。

「チュベローズ国王様!いかがなさいましたかっ!」

ドタドタと床を踏みしめながら、暗闇がら月明かりに照らされたシルエットが浮かぶ。

「やはりお前か、悪代官」
「おお、これはこれは神子様から私の元へ来ていただけるとは!忘れられませんか?私の指が」

すごい瞬発力で気持ちが悪い。
カラムには幽閉を望んだけれど、シフォーリアを追放されてもなおこの調子だ。
女性を鞭で打ち、数多の陵辱に拷問に処刑、クズに情けは必要ない。

「おい元司祭、また頭を燃やされたいのか」
「魔術師…、あれはお前の仕業かっっ!!」

ロイの一言で元司祭は激昂した。
喚きながら口から唾液を飛ばしている。

しかし、腐っても司祭の位を持っていた者だ。
ブツブツと何かを呟くと、手には淡い光が灯り、白く浮かび上がると僕達へ放たれた。
聖魔法の衝撃波だ、と思う。

「アブソルートバリア」

完全障壁に衝撃波は打ち消された。

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