完璧なまでの美しい僕は僕であり、あの世界の僕ではなかった。

あしやおでこ。

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第二章。

望まぬ再会のアラビアンナイト。

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僕達の目の前には、カルナヴァル王国の国王が、偉そうな椅子に座りこちらを見下ろしていた。
なぜこんな面倒な事態が起こっているのかと言うと…。

カルナヴァル到着時に、ラクダを預けに厩舎へ訪れた。
その厩舎を利用するのは、他国から訪れる要人なり王侯貴族が多数で、入国時の手続きに身分証の提示が義務付けられている。
その情報は王城へと届けられ、ツェペシュ公爵の由縁であるとことから王城への招待状が厩舎に届けられた次第だ。

そしてジャストナウだ!!!

僕はロイより数歩前に出て、床に片膝を付き国王へ頭を垂れている。

「我が国へよくぞ参られた、今宵はゆるりと寛いでいかれよ」

謁見の間のようなこの場所は、国王以外の発言は不敬に当たるのは不幸中の幸いだ、ツイてた。

王様の鎮座する椅子の前には大きな階段があり、その階段手前1メートルあたりで片膝を付き頭を垂れる、それだけで良い!
この世界の礼節がサッパリな僕でも切り抜けられる!
何せ喋らなくて良いのだ。

王様の一言があれば、頭を上げて去る、それで謁見は終わりになる。
その後は、王様の好意に預り一夜をこの城で過ごせば良いだけだ。

3食ご馳走付きな上に、何と、とてつもなく豪華で広いお風呂にまで入れるという贅沢だ!
セスの城では豪華だったけれど部屋付きの風呂を使っていたからあまり広くはなかった。
温泉のようなこの浴場は、日本人にとっては格別な幸せに思える。

「そういや、セスって凄いんだな。王様に招待を受ける身分なのか」

人の咥内に無遠慮にイチモツつっこんだセスのことを思い出した。

「シフォーリアでも歴史の古い家柄だからな、特にセスは外交にも余念がない。できる男だぞ」
「そうなのか。執事のような風貌なのにな」
「あれは…掃除やらなんやらが好きな変わり者でもあるからな…」
「そんな理由が…」

豪華な風呂を堪能したあとは、サールジオ名物のマッサージを進められたが…背中を見せることができない僕は先に部屋に戻ることにした。
ロイも戻ると言い出したけど、せっかくだからとセラピストのお姉さんに預けてきた。

お風呂あがりなのに、素裸になれないのはツライ。
しかも顔をヴェールで隠しているから余計に熱がこもる。
夜風に当たりたくて、通路に面した半円形に張り出したバルコニーで少し涼むことにしよう。

縁に腰をかけた。

サールジオ城は高台にあり、バルコニーから一望できる景色は圧巻だった。
現実世界はそろそろ寝静まる頃合いだと言うのに、街並みは今も煌々と灯りがともっていて、白や金や青と色とりどりの建物が鮮やに浮き出て見える。
音楽も遠くから聴こえていて、これぞ本物の、アラビアンナイトだ。

感嘆のため息を「ほぅ…」と洩らすと、背後から足音が近付いてくる。
ロイのマッサージが終わるにしては、早いな?

暗闇から近付く足音は、夜灯に照らされ姿を現した。
思わず声が洩れた。

「げ」
「おや…俺はそんなに嫌われてしまったかな?」
「何であんたがここに?」

男は肩を竦めた。
昨日僕の美しい手の甲に唇をあててきた、話の通じない美丈夫だ。

「ここは僕のおうちだよ?」
「ここが家って…、あんたもしかして…」
「王位継承権第一位だよ、これでもね?」
「な…」
「カラム・カルナヴァル・サルジオ、だよ」

名前・国名・大陸名ってとてつもなく高い身分ってことか?
この世界の名前の表記なんて知るわけがない。

呆然と眺める僕に、カラムはあっという間に距離を詰めた。
腰を掛けた縁に両手をついて、気づけばまた閉じ込めスタイルだ。
しかし今回は僕の背後には壁がない。
カラムが上半身を僕に傾けるたびに、僕はわずかに背をのけぞらせる。
これ以上近づかれると、僕はバルコニーから落ちてしまうんだが…。

「ちょ…、落ちる。近づくな…」
「大丈夫だよ、君は落ちない」

相変わらず話の通じない男だな、イライラするぞ。
カラムはやはり僕の言うことなど聞きもせずに、近寄り、またもや腰を抱き寄せた。

「君はどうしてここにいるの?」
「招待…されたんだよ。いいから離せって」
「そうもいかない…、君のような美しい人は、この世界にはいない。言っただろう?」
「な、なに…」
「性別は瑣末なものでしかない、それに出生地もね?」

出生地…、勘繰ってしまいそうだけど、単純に身分とかって話だよな?
まさか、気づかれてはいないかと不安が募った。

カラムは僕の腰を抱き寄せたたまま、上半身を更に押し付ける。
まるで僕の命はカラムに握られている錯覚に陥る。
背中を支える腕を失えば、バルコニーから落下だ。

条件反射のように、カラムの首元にしがみついてしまった。

「おや、情熱的だね?」
「違うぞ!断じて!!落ちそうで怖いんだよ!」
「そのまま捕まっていてね…」

カラムは僕の背中から腕を引いた。

「おいっ!」

僕はカラムの首元に必死にしがみつく体勢になった。
なんなんだこいつ、本当に嫌いだ。

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