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第二章。
現実は想像を越える。
しおりを挟む砂漠の夜が極寒ならば、昼は灼熱だ。
「まじで…死ぬほどあちぃ…ここは地獄か…」
ドーム内はまるでサウナだ。
キャンピングカーじゃないから、さすがに冷房は着いていない。
超ラクダ達もしんどそうだ。
「言っただろう、神官達も逃げ出すと…」
「あぁ…、そうだったな」
しかし汗をダラダラと流す僕に対して、ロイは薄っすらと汗を滲ませる程度だ。
なにか俺には秘密にしている、冷却道具でも使ってるんじゃないか…。
僕は丸型の小窓から砂漠を眺めた。
時折現れる岩壁は、絶好の休憩スポットだ。
少し先にそれを見つけた。
「ロイ!岩壁があるぞ!超ラクダを休憩させよう」
「あ、あぁ、そうだな」
岩壁の影にソリを停車させた。
僕は外套をしっかりと被り外へ出た。
超ラクダ達も岩陰に身を潜めている。
「アキラ、どうしたんだ?」
「ちょっと…試したいことが…」
以前思いついた生活に使えそうな魔法だ。
攻撃魔法である"氷流星 アイスメテオストライク"、通称・氷メテオだ!
流星と表記されているけれど、実際には大きな氷塊をドカンと地上へ落とすものだ。
"焔流星 メテオストライク"通称・メテオは灼熱の塊で、氷メテオはメテオの色違いで属性違いでしかない。
そこで僕の感じた曖昧な感覚だ。
おそらくイルネージュとは少し異なる仕様に思えた。
本来なら同じ魔法は、威力の差はあれどゲーム内のエフェクトは一律だ。
誰が使っても、ピクチャーとエフェクトに変化はない。
でもこの世界は違う。
イメージに多少なりとも左右されている、気がする。
それを操作ないし使い分けができれば、僕の魔法だって攻撃以外にも役に立つはずなんだ。
「アイス…メテオ…!」
通常のメテオよりもピクチャーを抑える、氷塊の球体を縮小させて、隕石が地上へ落ちる速度、衝撃が与えるダメージを最大限軽減させるイメージを…こねっこねに、こねる!!
雲ひとつない澄み渡る空が、雷鳴を響かせ一定の領域を雷雲が覆った。
「お…おい、……アキラ」
あれ…ちょっぴり想像と違うぞ。
さすがのロイも焦ってるぞ。
セスの領地でこの規模の魔法を試すことは、さすがにはばかられたから知らなかったんだ。
こんな派手な、まるで魔王降臨のようなエフェクトがかかるとは思ってもみなかった。
でもでも今更ヒッコミもつかない!
必死に確実にイメージをこねりこねり…練り上げて…
「ストライク!!!」
詠唱を終えた。
休む暇はない、僕は次の詠唱にとりかかる。
ここは砂漠だ。いくら衝突の衝撃を軽減したところで、爆風に乗り舞い上がる砂は僕の制御外だ。
「"完全障壁 アブソルートバリア"」
僕を中心にロイと、超ラクダ達とドーム型ソリを、シャボン玉カラーのガラスのような半円型の障壁で包んだ。
ほぼ想像通りの氷塊が、雷雲を掻き分けて重量感たっぷりに砂漠に衝突した。
衝撃に乗り叩きつける大量の砂は、ひと粒もバリアを侵すことはない。
立ち込めた砂埃が霧散しはじめる。
「やった!成功した!」
見渡す限りの砂漠にそこそこ大きな氷塊は、とても異質だ。
でも成功した喜びは大きい!
「ロイ!これ使って…」
ロイは僕の腕を強く握り歩きだす、どこか焦りを滲ませている。
「説明していなかった…、俺に落ち度がある。とにかくすぐに出立する」
「え…、なに?なんで??」
「いいから来い…!」
腕を引かれるままソリに戻り、言葉通りすぐにその場を離れた。
「アキラ…、お前達召喚者の使う魔法は、この世界で使える者はいないんだ。アキラは軽く言ったが、…フルヒールなんて、お伽噺で使われるような存在だ」
「え…」
「ごく稀に、生まれながらに魔力に恵まれた人間は現れる。だが、それも下級の魔物を倒すか、神殿でも上級神官でさえ軽い傷を癒やす程度の回復魔法と、結界を張り巡らせるのがやっとだ。それも広大な国ならば、その域に見合う人数が集まって、だ…」
「それじゃ…」
「召喚者とは…そういう存在だ…。神子であることも、機密事項だ」
それなら僕のしたことは、召喚者ここにいますと、高らかに宣言したようなものじゃないか。
「わ…、悪い。氷塊でもあれば涼しくなるしって、深く考えていなかった、ごめん」
王族に娶られるような存在なんだ、考えなくても置かれている立場は理解できたはずなのに。
浅慮な自分自身が恥ずかしい。
「違う…、俺が…少し浮かれていた。全て説明すべきだったんだ。アキラの常識と、この世界のものはきっと呆れられるほど違うものだと…。とにかく、ただでさえ目立つんだ、魔法を使っては駄目だ…、もちろん背中の紋様も知られるわけにはいかない」
「ロイのせいじゃない!僕が悪かった、から。今後気をつける」
「あぁ…、しかし…アキラの魔法は…本当に規格外だな…」
褒められるのは嬉しい。
けれど、魔法を使えないとなると、僕はただの人にってしまう。
何かあってもロイを守れるように、対策を練らないと…。
相当難しい表情を浮かべていたんだろう。
ロイの指が頬をつついた。
「大丈夫だ、何があっても、俺がどうにかする」
フードに隠れているけれど口元を見れば、安心感を覚えるほど……、悪い形に口角が攣り上がっていた。
「ははっ、頼んだぞロイ!」
たぶんこの男が言い切るなら大丈夫だろう!
と、このときの僕は、砂漠に残してきた氷メテオがのちの自分の首をギュッギュと締めることになるとは思ってもいなかった。
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