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第一章。
失策は続くよ、どこまでも。
しおりを挟む不遜に笑い宣言した美しい僕に、失策があるとすれば。
記憶上のステータスと、実際の曖昧な感覚にズレが生じたことだ。
セスに頼んでいた魔法を試せる場所の提供を受けて、拓けた山で冷や汗をかいている。
失策は更に続き、僕は重要なことを見落としていたことに気が付いてしまった。
僕が驕慢の塔を単騎(1人)で攻略できていたのは、高額レアな装備と、課金による装備類の属性耐性効果と武器への属性効果付与と、ステータス底上げ紋様にポーション、そして…ガチャを回しまくった産物である超優秀なHPとMP回復ポーションのおかげだということを…。
魔術師はそんな事も露知らず、僕が様々な魔法を試す様子を興味深そうに眺めている。
きっと…おそらく……、すごく期待されている。
今更無理です、とは言えない…。
しかしアイテムイベントリが開けない事には、無理ゲーだ。
お話にならない。
そして…それらの補助を得られないために、MPも半分以下しかない僕はショボショボだ。
「メディテーション…」
MPも保たないし、MPR(魔力の自然回復)もほぼない。
「神子…、お前という存在を侮っていた…、すまない」
未来永劫侮っていてくれて構わない。
いっそのこと僕のことを忘れてくれても…。
「はぁ…」
ここが今現在僕の存在する現実である以上、現実逃避を重ねても何もはじまらない。
零れた溜息ついでに、魔術師に聞いてみよう。
「アイテムイベントリってどう出すの?できればステータス画面も」
これはゲーム内の用語だ。
伝わらないとわかっていても、聞いてしまうのも立派な現実逃避だろう。
「あぁ…そうか」
魔術師の反応は予想外のものだった。
「リガルースト大陸の首都カーマイルにあるカーマイル神殿で行える」
「…ずいぶん詳しいな」
「俺はそこから派遣されている」
「それなら…、ツェペシュ領で巫女を手に入れるのは矛盾してないか??」
カーマイルから派遣されているのであれば、神子の獲得後はすぐにでもカーマイル神殿に連れ帰るのが筋に思える。
「リガルーストの王族に知られないように、保護をする必要があった…。いくら神殿で召喚しようが…王族に持ってかれれば話にならない…」
「あぁ…、婚儀がどうたらってやつか…」
「現国王が…男女の神子を側室に迎え、さらに幼い男の神子を皇女の婿候補に………」
僕を合わせて5人と聞いた。
そのうち3人がリガルースト国の王族と婚儀を結び、更にもう1人は神殿で豪遊生活…。
「アホなのか…、ちなみに神殿にいるヤツはどこの神殿にいるんだ。なぜそいつは婚儀を結んでいない?」
「場所はカーマイル神殿…、自身の要求が通らないのであればリガルーストを滅ぼすと…、ただ迫りくる脅威からリガルーストを守っているのも事実だ。だから誰も何も言えん…」
魔術師がとても不憫に思えてくる。
初対面こそアレだし、魔力供給と称しては必要以上に濃ゆいおセックスをするし、同情しがたさもある。
でも、胃薬を手放せないやたら責任を押し付けられる中間管理職のように見えるのは…やはり。
「なるほど…、魔術師…お前もなかなか不憫だな…」
胃が病んでいないだろうかと、お腹あたりに手をかざして「ヒール」と唱えた。
「何を…」
「胃薬変わりだ」
魔術師はぽかぽかと温かみを感じるお腹をそっと撫でた。
「ちなみに…、僕以外の巫女達はどんな生活を送ってるんだ?」
興味本位で訪ねてみると、魔術師は心底嫌な顔をした。
「婚儀を結んだ召喚者達は、王族だからな好き勝手に遊び倒してるらしい…。国王に身体を委ねるのも楽しんでるそうだ…」
「あ…やっぱり国王とすんのか…」
魔術師は更に顔を歪めた。
「神殿の神子は美少年でハーレムをつくり、美酒に美味と贅沢三昧の限りを尽くしているな…」
「禄でもないな…」
「全くだ…」
美少年を囲い、国を滅ぼすとのたうった巫女。
なんという悪女だと、僕はその時思ったのだった。
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