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第一章。

僕の魔法。

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寝起きは悪い方ではない。

脳の覚醒とともに、ガバッと上体を起こした。

僕はすやすやと寝こけてしまえる自分の神経を疑った。
力尽きて寝落ちしてしまったのは不可抗力だけど、どう考えても図太すぎる神経に呆れた。

周囲に人の気配はない。

身体は多少の気怠さは残るものの、お尻と腰が痛いけど思ったよりもダメージは少ないようで胸をなでおろした。

身体もキレイに拭かれたようで、ベタつきもないし、新しい"服"も着せられていた。
長ったらしいシャツワンピースのようなもので、服未満でないことを心から安堵した。

手足の拘束もないし、若干拍子抜け感も否めない。
しかしハンドカフで擦れた手首は少しだけヒリヒリとしていて、赤みを帯びている。
桃色だったこぶりな乳首も、赤く腫れている。
衣擦れが痛くて、なぜかマイサンが頭をもたげかけた。

「僕は…ドMじゃない。痛みに反応して起き上がるなマイサン!」

悪代官の身体を思い出せ。
ぷるぷると震える脂肪に埋もれた醜いあのイチモツを!!
素直なマイサンはシュンとナリを潜めた。

回復さえできれば、こんな忌々しい傷なんて治せるのに…。
無意味とわかりつつも、ぽつりと呟いてしまった。

「ヒール…」

チロリン…と、懐かしい音がした。
これはイルネージュのゲーム内で使われるヒールの効果音だ。

「へ…」

手首と乳首の痛みが引いていた。
赤く擦れたあとも、腫れも消えている。
お尻と腰もスッキリだ。

魔法が使えた、ということだろうか。
それもイルネージュのものだ。

「メディテーション…」

蒼白い光がふんわりと僕を包んだ。

「気のせいでも何でもない…魔法…使えるんだ…」

嬉しくて懐かしくて、涙がぽろぽろと零れだした。

「でも…何で使えるようになった…」

痛いことと気持ち良いことをされただけだ。
これを"だけ"で片付けてしまう僕もどうかと思うけれど。

「まさか…魔力…供給か?」

僕は目元を拭った。 

なぜだか搾り取られる気分でいたけれど、あれは僕に対して与えられる行為だったのだろうか。

それなら最初から「あなたに魔力を分け与えますので、オセックスしましょう」と説明してくれれば良いだけの話なのではないだろうか。
受け入れる入れないは別の話として。
結果的に、死ぬほど気持ちよかったのは事実だ。

「変な扉が開かれた気が…」

いやいや、それは駄目だ。
僕はシシリのようなペロペロボディーの美人さんが好きなんだ。
同性との性交渉は望まない…、望まないんだ。

犬に噛まれたと思い忘れよう。
ひとまず現状の整理だ。

もしも魔力がゼロなら、メディテーションも使えなかったかもしれない。
あれもちょぴっとMPを消費したはずだ。

魔力供給を受けたことで枯渇していたものが復活したのか、ヒールもメディテーションも使えた。
そして、ヒールで消費されたMPは、メディテーションにより元の数値まで回復するはずだ。

それと、魔法も効果音もエフェクトも、イルネージュそのものだということは、やはりここはイルネージュで間違いない。

「空を飛べる…はず…」

この部屋から出よう。
天蓋付きのベッドから抜け出ると、真白な大理石を思わせるローテーブルに、あの服が丁寧に畳まれて置いてある。

「おお…僕の服!!課金注ぎ込んでコンプリートさせたお気に入り…無事で良かったよ…」

さっそくいそいそと着替える、が、下着類はないのだろうか。
初々しくて頼りないマイサンがぷるぷると、定まらないポジションに迷子状態だ。

「せめてアイテムイベントリを出せれば…ちくしょう…」

方法はきっと…どこかに必ずあるはずだ。
ここがイルネージュであれば。
いずれ探る方向で。

扉の前に立ち、ドアノブに手を触れた。
バチッと軽く弾かれた。

「痛くも痒くもない」

このフル課金装備は、"魔法抵抗 レジストマジック"の効果(その他は追々が)などが付与されている。

扉に意識を集中させた。

「"解呪 ディスペル・マジック"」

パキリっとガラスの割れるような音がする。
これもイルネージュの効果音だ。

「はは…、ふはは!ここからは、僕のターンだ!!!」

僕はそっと…とても慎重に…金庫のダイヤルを探る勢いでドアノブをまわし、キィーと少し錆びついた音とともにゆーーーっくりと扉を開いた。

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