完璧なまでの美しい僕は僕であり、あの世界の僕ではなかった。

あしやおでこ。

文字の大きさ
上 下
9 / 79
第一章。

魔力供給…とは?

しおりを挟む


「おや、お早いお目覚めですね、神子様」
「お目覚めには少し早かったのでは?」
「そのようですね。やはり抵抗力が…」

背後で開かれた扉から、この世界で1番聞き慣れてしまった声がした。
しかし、聞こえる足音は悪代官1人のものではなく、衣擦れやひそひそと話す声は複数名を思わせる。

「お前…悪代官…、謀ったな…」

ついて出たのは、時代劇さながらな常套文句だった。

「はて…悪代官とは?」

1番最初に視界に現われたのは、小首を傾げ、ぶよぶよの贅肉を惜しみなく晒している一糸まとわぬ悪代官だった。
あまりのおぞましさに最早ちびりそうだ。

「悪代官てのは、あんたみたいな下衆い人間のことだよ…」
「ほほぅ。作用でございますか」

悪びれる様のない悪代官の対面側には、これまた一糸まとわぬ、お茶を給仕した老執事。
悪代官とは真逆にある、細身の筋肉質だ。
全く無駄のないそれは、老執事らしからぬ異質さを感じる。

「あんた…紅茶に何を盛りやがった…。そもそも何なんだよお前ら…、なんの目的があって…」
「まずはその質問からお答えいたしましょうか」

老執事が告げると、悪代官と老執事をはじめわらわらとベッドを囲むように人の気配がある。
きらびやかな鎖に繋がれた美しい僕、それを囲む者はおそらく全員がスッパダカだと思われる。

想像すると…、シュールだ…。

と、…現状把握からの現実逃避はそろそろ終わりだ。

老執事はベッドにあがり、僕の前にゆったりと腰を掛けた。
視線をカッチリと合わせ口を開いた

「ツェペシュ領主、ツェペシュ公爵家の当主。私がセス・ツェペシュでございます、神子様」
「…は?……執事じゃないのかよ」

その問いかけにセスは口角だけを上げて笑った。

「次の質問は目的でございましたね。神子様を我がツェペシュ領での獲得。ならび、魔力供給のために一肌脱いでいただきたく…ふふ…、すでに一肌も二肌も脱いでいただいておりますがね」

何が面白いのか、「ははは」「ふふふ」とせせら笑う声が静かな部屋に響いた。

「魔力供給って…なんだ…。僕は何をすればいい…。あとこれ、外してくれよ」

カチャリとハンドカフの音をあげると、悪代官とセスは困ったようにうんうんと頷いた。

「神子様…それはなりません」
「神子様、我らにその御身を委ねていただければ良いのですよ。それにしても…、神子様がここまでお美しいとは。我らには二重にも三重にも喜ばしいことです」
「そもそも僕は巫女なんかじゃ…」
「おい、お喋りはそのへんでいいだろう」

背後から少し苛立たしげな、いくらか若い声がする。

「それもそうですね、では、神子様、はじめましょうか」

セスはやはり、口角だけをあげ笑った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

僕のダーリンがパーティーから追放宣言されて飼い猫の僕の奪い合いに発展

ミクリ21 (新)
BL
パスカルの飼い猫の僕をパーティーリーダーのモーリスが奪おうとしたけど………?

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

処理中です...