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第一章。

魔物の存在する世界のようだ。

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聳え立つ外壁は、それはそれは圧巻だった。

「凄い…」

思わず声に出ていたようで、悪代官が口を開いた。

「魔物よけでございます」
「魔物…?モンスターがいるのですか?」
「ええ、もちろんでございます。ごく稀ですが、魔物の襲撃があったとしても、外壁に結界を張り巡らせますから領民達が傷つくことはございません。しかと守られておりますよ」
「結界…ですか」

イルネージュでは結界魔法など耳にしたことはない。
やはりここは違う世界なのだろうか。

そして、私腹を肥やしたような悪代官も、良い印象は1ミリすらないけれど、領民のことを考えたりするのだろうかと。
見直すまでもなく、背中を撫でられた気持ち悪さを思い出し、背筋はゾゾゾと震えた。

外壁をくぐった先には、城下街が広がっていた。
まるで中世にタイムトリップしたような気分に陥る。
テレビ番組で見たことのあるペルン旧市街のような美しい街並を食い入るように眺めていた。

「公爵家の納める領地ではありますが、歴史は深く長いのです。小国と言っても過言ではございません」
「なるほど…素晴らしいですね。僕はこのような街並みを見るのははじめてです」
「お気に召されましたかな?」
「ええ、とても」
「それはよろしゅうございました」

壁門から直線上に、城を囲む城壁が見えた。
広い通りに面した居住地を抜ければ、活気溢れるマーケットや緑豊かな公園などもあった。

そして、ところどころに技術ではなく、魔術としか説明のつけられないものも垣間見えた。
何せ噴水ひとつとっても、何もない空間から水が吹き出している。
全てがファンタジーだ。

周りの景色に目移りしているうちに、すでに城を囲む低い城壁前にたどり着いていた。
綺麗な街並みに活気溢れる領民を見れば、領主様とは随分と立派な人なのだろうと、少しだけ胸が踊った。

城門をくぐれば、外壁から覗かせていた尖塔を備える、有形文化財のような立派な古城が建っていた。
玄関ホールまでたどり着くと、馬車から降りる。
あれよあれよと特に城内を案内される間もなく、豪華な客室に通された。

「しばしこちらでお待ちくださいませ」

一言残し、悪代官は部屋を出ていった。

入れ替わるように、初老の執事のような人がお茶を給仕しはじめる。
目の前のテーブルにセッティングされると、柔らかい声が耳に届いた。

「お召し上がりください」

僕はその言葉に従い、カップに手にかけた。

「ありがとうございます、いただきます」

ふーっと息をかけて、それを口に含んだ。
紅茶色の甘い香りの飲み物は、とても…美味しくて…。

身体も意識も…なんだか虚ろに変わり…。


僕の意識は、ゆっくりと幕が降りた。

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