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第一章。

僕の肌は…なめらかでしっとりと…キメがこまか…うえっぷ。

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舗装のされていないのどかな畦道に揺られながら、馬車はゆっくりと進んでいる。

時折小石に車輪がとられ、ガタガタとダイレクトに伝わる振動は、なかなかにケツが痛い。
日常の移動手段といえば電車が常だった僕には、豪奢な馬車ですら比べ物にならない乗り心地の悪さだ。

それもこれも…魔法さえ使えるようになれば、馬車の世話にならずにすむのだ。
だって、空を飛べるのだから。

そして同じ馬車に相席している悪代官は…、相席させてもらっているのは僕だけれど。
僕の正面に腰を掛けて、馬車の揺れは自らの脂肪が全て吸収しているようだ。
肉がぷるぷると…それはもうどこもかしくもぷるんぷるんしている。

その悪代官の視線は、痛いほどに突き刺さっている。
頬を紅潮させてうっとりと粘着質なものだ。

いたたまれなさに俯くと、悪代官はそれを緊張と勘違いしたようで、ゆるりと口を開いた。

「神子様、ご安心ください。これより向うは、私がお仕えしているツェペシュ公爵家にございます」

どこかで耳にしたことのある名前に、記憶をたどってみると歴史上の人物と一致した。

別名は串刺し公。

まぁ…、遇に同じ名前なのだろうと、悪代官の話に耳を傾けた。

「私どもの領へ神子様が現れるのは、文献に残されているものを見ても300年も昔でございます」
「300年…僕が巫女かはわかりませんが…」
「先程もお伝えした通り、背中に浮かぶ紋様が全てでございます」

そっと自分の背中に指を添わせても、特に何も確認はできなかった。

「こちらですよ…」

正面に腰を掛けている悪代官がのそりと動いた。
服装の神聖さとは真逆の、ごてごてしい指輪がたくさんはめられた肥えた指先が僕の背中に伸ばされた。
ねっとりとゆっくりと、円を描くように指先は背中を滑る。

「ひっ……!」

あまりの気持ち悪さに、身体はピクりと跳ね、短い悲鳴めいたものが口をついた。
そんな僕の様子を窺うように、悪代官はなおも撫で続ける。

「あ…、あの…」
「神子様は敏感でいらっしゃる。…なめらかでいてしっとりと、きめの細い触り心地に我を忘れるところでございましたよ」

人生初だ。
ゾゾゾゾゾと産毛も逆立つほど、悪寒がかけめぐる。
申し訳ないが、心底、気持ち悪い。

「そこに浮いているのです。神子様の紋様が…」
「…そうですか。口頭で説明いただければ十分です」

引きつった笑顔を向け、触れるなと言外に伝えた。
悪代官は悪びれる様子も、気にするでもなく、小さく何かを呟いた。

「今は、そのように」
「…え?」

馬車が小石を小さく跳ねる音にかき消され、その言葉は僕の耳には届かなかった。

「神子様、そろそろツェペシュ領に到着いたしますよ」

その声かけに車窓を眺めると、高い外壁が広大な大地をぐるりと囲む様が確認できた。
外壁の奥には、さらに高い尖塔が覗いていた。

「まるでお城みたいだ…」

現代人で庶民の自分とは縁もゆかりもない、外壁から覗く尖塔を眺め呟いた。





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