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小話『もっと話をしてみました』[3]
しおりを挟む『成長には愛情が必要です』
「なんというか……ちょっと昔のアル様を知りたくなってきました」
「…何を藪から棒に」
「どういう成長過程を経たら、こんなアル様が出来上がるのかな? っていう、ちょっとした興味本位です」
それをキッパリ言ってみたところ即、あからさまにアルフォンス様が、驚いたような怒る寸前のような困ったような、何とも言い難い表情を浮かべ、タメ息を吐いた。
「人のことを料理みたいに……なんで失敗しちゃったんだろう? みたいなテンションで言わないでほしいな……」
「そんなこと言ってないじゃないですか。アル様の残念な人格が形成過程で失敗した結果だなんて、そこまでは思ってないですよ?」
「残念……」
「はい! アル様の性格は非常に残念ですけど、まだ人として破綻はしてないですから、決して失敗じゃないです! そこは安心してください!」
「…………」
「それで、昔のアル様って? 今のご両親に引き取られたのが十二歳の時だっておっしゃってましたよね? その時から今みたいだったんですか?」
知りたい知りたい教えて教えて~と、無言の圧力でにこにこ詰め寄った私の目の前で、おもむろに諦めたかのようなタメ息を吐いてから。
「…別に、知ったところで大して面白くもないよ」
ようやくアルフォンス様が、どこまでも渋々ながらといった体ではあったが、そう口を開いてくれた。
「引き取られる以前から、僕は良くも悪くも普通の子供だった。多少、周囲の子供に比べれば気性は大人しくて口数も少ない方だったけど……とはいえ、外で遊ぶより室内で本を読んでいる方が好きだとか、大勢に囲まれているよりは一人でいる方が好きだとか、そういう子供にそんな傾向があっても、それはまだ“普通”の範疇だと思うし」
「まあ、そうですね。――それが猫を被っているワケじゃなければ」
「――は……? 猫……?」
「たまにいるんですよね、なんだか子供らしくなくミョーに冷めてる子って。私がよく行く孤児院にもいましてね。いつも一人でいるから、引っ込み思案な大人しい子なのかな? って、ちょっと気に掛けて見ていたんですけど、どうも他の子の中に交じりたいのに声が掛けられないとか、そういうわけでもないようで。つまりこの子は好んで一人でいたいんだな、っていうのは、見ているうちにわかりました。とはいえ、そうすることで他の子たちの反感を買うことがないように、決して仲が悪いとかイジメられているなんて周囲の大人たちに思われたりもしないように、つきつめれば自分に面倒事が降りかかってきたりしないよう上手いこと計算した上で、そういう振る舞いをしているんですよね。『猫を被っている』という言い方が適切なのかどうかはわかりませんが、本当の自分を周囲から隠す、ということについては、その子の振る舞いは本当に子供とは思えませんでした。というか、大人にだって難しいと思うわ、あそこまで上手に他人との距離感を操るなんて。だから、それに気付いた時ようやく、ああナルホドこの子は頭が良すぎるんだなあ、ってわかったんです。同時に、その子の将来が、ちょっとだけ心配にもなっちゃった。良い人に引き取ってもらうとか、良い職場に恵まれるとか、そういう明るい道を歩めれば心配はないけど……そこを外れたら途端、あっという間に後世に名を残すような犯罪者にでもなっちゃいそうですもん」
「…………」
「アル様も、そういう意味では頭の回転がよさそうだから……『大人しくて口数も少ない』子だった、なんて聞いちゃったら尚更、その子のことが思い出されちゃいました」
「…………」
「もし子供の頃のアル様が、そんなふうだったなら……」
「――だったなら……何?」
「えっ、ホントにそうだったんですか?」
「は!?? ――イヤ違うよ!! そんなんじゃなかったよ!! どこまでも普通だったよ!!」
なんだかその否定の言葉と表情には、普段の淡々としたアルフォンス様らしからぬ狼狽らしきものが見え隠れしているような気もしたけど……自身の精神安定上、あまり深くはツッ込まないことにした。
「…なら、安心しましたけど。――でも、もしアル様が、そんな子供だったとしても……」
「だったとしても……?」
「アル様なら、明るい道を踏み外すことは無さそうですよね」
「え……?」
「だって、優しくしてくれるご家族がいらっしゃったんでしょう? 大事にされて育ったら、そうそう悪いことなんて出来ないものです」
「…………」
当然でしょ? とでも言わんばかりに自信満々で放った私の言葉に、どことなく面食らったような表情で、ちょっとだけ目を瞠って。
次には、おもむろにクスッと、アルフォンス様は吹き出す。
「そうだね…そうかもしれないね。――僕も知りたくなってきたよ。どういうふうに愛情を受けて育ったら、君みたいな強くて優しい女性が出来上がるのか」
「あら、私はまだまだ成長途中ですよー。これからは、家族に代わってアル様が愛情くれなきゃ、私、スネてスネてスネまくって、最終的には対アル様専用イジワル女が出来上がっちゃいますからね! 充分に気を付けて育ててください?」
「心得た。どこまでもとことん君のことは大事にするから……だから僕へのイジワルは、ほどほどに願いたいね」
「まあヤダわ、アル様、私にイジワルされてるなんて思ってたの? それは心外だなあ~……」
「あ、いや、そんなことは……! あくまで、もののたとえというヤツで……!」
慌てたような素振りのアルフォンス様をチロリと流した横目で見やりつつ、殊更に「私って大事にされてなぁい」なんて嘯いてみる。
「ごめん……そんなつもりで言ったわけじゃなかったんだけど……」
そうやって困って、どうしたらいいのか戸惑っている風なアルフォンス様を、こっそり眺めているのも楽しいんだけどね……けど、これ以上やったら本気でイジワル女だと思われちゃうなと、改まって居住まいを正し、「仕方ないなあ」と微笑んでみせる。
そして、軽く上目遣いで覗き込むようにアルフォンス様を正面から見つめて、それを告げた。
「じゃあ今回はトクベツ。――キスしてくれたら、許してあげます」
そしてアルフォンス様が、ちゃんとキスをくれたかどうかは……ご想像にお任せしますっ♪
【終】
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