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【拾壱】
しおりを挟む――なぜ……?
問おうとした言葉が、まさに喉の奥に貼り付いたまま、唇にまでのぼってこない。
めいっぱい見開いた眼で目の前の彼を見つめているしか出来ずにいる私を、どことなく困ったようにもうかがえる微笑みで、良政が見下ろしている。
ひととき、こうして見つめ合ったそのままで、時が止まってしまったような感覚を覚える。
しかし、それは瞬く間のことでしかなかったようだった。
ふいに目の前の彼の身体の向こうから、響いてきた父上の声に、私はびくりと身体を震わせていた。
「――よくやった、三位中将!」
―――いま……何、て……?
その言葉を認識したと同時、頭の中が真っ白になる。
もしや、でしかなかった予感が……瞬時にして確信へと変わる―――。
「そのまま姫を逃がさないように、しっかり掴まえておい…て……」
こちらへと近づいてくる足音と共に聞こえていた、そんな父上の言葉が、やおら不自然に途切れる。
その瞬間、誰もが息を飲み、言葉を失った。――見えていなくても、私には、それが、わかった。
―――パンッ……!!
その場にいた皆の動きを止めたのは、そんな高く乾いて響いた音。
音の発生源は、この私。
真っ白になった頭では何を考えることなど出来なかったというのに……なのに、咄嗟に私の身体は、動いていたのだ。
目の前の彼の頬を、渾身の力でもって平手打ちしていた―――。
目に映るすべてが、やけにゆっくりとした動きでもって、起こったことを的確に私へと伝えてくる。
頬を張られた衝撃で、ひととき顔を背けた彼が、ほんの一瞬だけ、その横顔に逡巡の色を現したようにも見えた。
しかし、やおらきゅっと唇を引き結ぶと、ゆっくりとした動きで首を動かし、再びこちらへと視線を戻す。
改めて正面から真っ直ぐな視線を私に注ぎ……なのに次には、なぜだろう、泣き笑いのような表情で微笑んだ。
その微笑みを向けられた途端。
私の中で抑え付けられていた何かが堰を切って溢れ出た――そんな気がした。
「―――会いたかった……!!」
ここへきてやっと出てきたその言葉と共に、両の瞳から涙までもが溢れ出てくる。
そして、知らず知らず握り締めていた両の拳を、眼前を塞ぐ逞しい胸板に、ただただ力任せに振り下ろした。ガシガシと、何度も何度も。
「もう会えないと思った……!! 会っちゃいけないって、思ってた……!!」
「はい……申し訳ありませんでした」
自分でも知らぬ間に洩れていた言葉に、どこまでも穏やかな声で、そんな相槌のような謝罪が挟まれる。
彼は私の拳を避けようとする素振りすら見せず、ただ黙って、甘んじて受け止めてくれた。そのうえで、まさにこちらの気を宥めるかのように、優しく…一切の力を籠めずに背へと回した両腕でどこまでも優しくそっと触れるようにして、私のことを抱きしめてくれていた。
「怖かったの……!! 本当に本当に、怖かったんだからあっ……!!」
そうしているうちに……叩く拳が、次第に力を失くしていく。出てくる言葉が、嗚咽に飲み込まれては、言葉としての音を為さなくなっていく。
いつの間にか、気付けば私は彼の身体に縋るようにしがみ付きながら、人目も憚らず泣きじゃくってしまっていた。
「本当に、申し訳ありませんでした。―――雪姫さま」
背中から布越しに伝わってくる彼の掌のぬくもりが、耳もと近くから流れ込んでくる彼の低くて優しい声が、きっと私を安堵させてしまったのだろう。
まるで、親鳥の翼に包まれた雛鳥のような心もちで、このまま彼の腕に包まれていたいと……この心地よい場所でなら、私は自分をさらけ出しても大丈夫なのだと、そう、安心して―――。
*
「―――で? とりあえずまず私に言いたいことは?」
帳台の上、一段高い場所で脇息に凭れ掛かりながら斜めに座した私は、どこまでもふてぶてしい態度で、かつ、イヤミなくらい投げやりな口調でもって、そんな問いを投げかける。
目の前の真正面、一段低い場所には、見ていて可哀相なくらい恐縮しまくった様子で平伏する、一人の男性の姿。
そんな彼に向かって、私は殊のほかニーッコリとした笑みを顔に貼り付けたうえで、また更にたっぷりとイヤミをまぶした言葉を投げつけてやった。
「ねえ、良政――じゃなかったんだっけ? そうよね、三位中将サマ?」
あのあと――彼に縋って泣きじゃくりまくったあと、嗚咽が落ち着いてきた頃合いを見計らって、『姫さま…』と、そっと近寄ってきた奈津が、背後から袿で包み込むようにして私の身体を抱きしめてくれた。
『もう、ご寝所に戻りましょう? ね?』
こんな簀子なんていう端近でわーわー泣き喚いたり何だりしていたのだから、きっと何事かと人が集まってきてしまったのだろう。おそらく衆目からの目隠しのため頭から被せられた袿の中、こくこくと私が素直に首を振った、それと同時。
ふわりと膝裏を掬われた感触とともに、おもむろに抱き上げられた。
『寝所まで私がお運びいたしましょう。案内を、小命婦どの』
『では、お願いいたします、三位中将さま。――どうぞ、こちらへ』
きっと、未だ布でぐるぐる巻きにされている私の足の怪我のことを、知っている彼の気遣いなのだろう。――何やかんやで夢中になっていてすっかり忘れ果てていたけれど、今更ながら思い出してみれば、いきなり走ったりした所為で巻いた布に擦れてしまったのか、傷が再びじくじくとした痛みを訴えてきている。だから私も文句も言わず、大人しくされるがままに従った。
そうやって、抱き上げられたまま寝所へと運ばれて、帳台の上へと下ろされると……そこですかさず、こちらから離れようとする手の、その袖を、がっちりと捕まえ握り込む。
『――このまま逃がすハズないでしょ?』
驚いたようにこちらを見降ろした、その視線を至近距離から見返して、おもむろにニッコリ微笑んでやった。
途端にぱっきり固まった、そんな彼を横目に、続いて奈津を振り返る。
『少しの間、中将さまと二人だけにしてくれる?』
『は……?』
案の定、何を言われたのかワカリマセン! って表情に書いて絶句された。
『彼と話したいの。ただ話をするだけ。他に何もしないわ。――だから……面倒でしょうけど、父上たちを上手いこと言いくるめてきてくれる?』
なおも言い募ると、『な…なりませんっ!!』と、そこでハッと我に返ったように、慌てて奈津が反駁してくる。
『いくら夫君となるお方とはいえ、未婚の姫君が、よりにもよって寝所で殿方と二人きりになるなど……!!』
『うん、はしたない真似だってことは重々承知のうえよ。そこを何とか見逃して?』
『なりませんっ……!! 姫さまとて、主上に何とお叱りを受けるか……!!』
『だから、そこを何とか』
『なりませんっっ!!』
『――まあまあ小命婦、そう目くじらを立てずに』
激昂する奈津を、そんな言葉で宥めてくれたのは、源尚侍だった。寝所だからとその場の男性陣は立ち入りを遠慮していたのだが、彼女だけはここまで付き添ってきてくれていたのだ。
『姫宮さまが、それほどまでにお望みであれば、叶えてさしあげてもよいのではなくて?』
『なれど、尚侍さま……!』
『代わりに…と言うのもおかしいですが、わたくしがこの場に残りますわ。殿方と二人きり、ではなくて、わたくしの同席のもとの対面、ということであれば、主上もお許しくださるのでは?』
『ですが……』
『いかがでしょう、姫宮さま? わたくしに聞かれて、何か困るお話は?』
『…いいえ、問題ございませんわ』
出来ることなら二人きりがよかったけど……せっかく提示していただいた妥協点だ、これ以上に最良な説得材料も無いと、私は素直にそれを受け入れる。――誰かが同席しなければいけないのなら、信用できる源尚侍であるに越したことは無い。彼女なら、聞いた話の内容を、そうみだりに口外したりもしないだろうしね。
そこでやっと、いかにも渋々ながらといった体ではあったが、奈津が『わかりましたわ』と引き下がってくれた。
そうして、奈津が父上を追い返――もとい、お引き取りいただくために、その場を去り。続いて、『わたくしは隅に控えておりますわ』と源尚侍が几帳の陰へと姿を消してから。
その場に二人きりとなって、ようやく私はドスをきかせた重い口を開いたのだった。
『…まあ、とにかく、――そこに直りやがれ?』
途端、ずざっとばかりに後退って即座に平伏した、まがりなりにも三位にあらせられる中将サマを、そうやって一段高い場所から見下ろして……で、今に至るワケである。
「――まずは姫宮さまへ、心よりのお詫びを……」
「『お詫び』? そう、『お詫び』ね……まあいいわ、聞いてあげる」
「過日のことで、姫宮さまには多大なご心痛をおかけしてしまいましたこと、まことに申し訳なく……」
「ヤだわ、そうざっくり纏めてヒトコトで終わらせる気? そんな『お詫び』で私が納得するとでも思っているの? ちゃんと、何について悪いと思っているから詫びるのか、明確に言ってちょうだい」
「…失礼いたしました。偽名を名乗り自身の正体を伏せていたこと、挙句、姫宮さまをお一人にしお命を危険に晒してしまったこと、そのうえで、いかにお救いするためとはいえ姫宮さまの目前にて惨状に及んでしまったこと。これらすべて、わたくしの不徳の致すところにて、まことに申し訳なく思っている次第でございます」
「そう、よくわかったわ。あなたの謝罪は受け取っておきましょう。そのうえで私が返答するとすれば……そうね、『おととい来やがれ』ってとこかしら」
「…………」
「別に、謝罪して欲しくて、わざわざあなたを引き止めたわけじゃないもの」
――やっぱり、泣くのって大事ね。
ひとしきり泣くだけ泣いたおかげなのか、瞼は腫れぼったいけれど、頭はミョーにスッキリしている。こう流れるようにスラスラ出てくるイヤミ節には、我ながら感心してしまうじゃないの。
「姫宮さまのお怒りはご尤もかと……」
「『お怒り』ですって? そうね、確かに怒ってはいるかもしれないわね。――本当に……思い返すだに、あなたの目に映る私は、さぞかし滑稽でしたでしょうね。よりにもよって当人の前で陰口を叩いて、それを当人に慰められて、弱音まで吐き出して。我ながら馬鹿みたい。思い出すだけでも腹が立つわ。それもこれも、あなたが名を偽っていた所為だものね」
「そこは本当に、申し訳なく……」
「だから、謝罪が欲しいわけじゃないと言ったでしょう? 怒ってはいるけど……忍んでいたのは、お互い様だもの。私だって最初は女房だと嘘を吐いたわ。あなたもあなたの事情があって正体を明かせなかったのでしょうし、明かせる状況でなかったことも理解しているつもりだし。騙されたとは思ったけど、仕方ないことだとも思ってる。だから謝罪も必要ない」
「なれど……」
「あと、私を一人にしたことも、足の怪我を心配してくれたうえで必要だったのでしょう? であれば、あなたが謝ることじゃない。そのあとに起こってしまったことも、あなたの所為じゃない。たまたま行き合ってしまった出来事だったのよ。言うなれば、私の運が悪かっただけのことだわ。だから、これも仕方ないことだった。それに、私の目の前で惨状に及んだ、ということだって……」
――言葉に出した途端、脳裏に閃く緋の残像。
瞬時に背筋に怖気が走り、我知らずぶるりと身体が震えた。
それを、ぎゅっと握りしめた拳に何とか抑え込んで、甦ってきた映像を振り払うかのようにして、私は言葉を絞り出す。
「あのことも……やっぱり仕方ないことだったのよ。確かに怖ろしい想いは味わったけど……でも、ああやってあなたが助けてくれたからこそ、私は今、こうして生きてる。こうしてあなたと話もしていられる。こちらが感謝こそすれ、あなたが謝る必要は無いわ」
「ですが……」
「ねえ、本当にわからないの? ――私が、何を聞きたいのか」
言いかけた彼の言葉を遮るようにして、そう畳み掛けると。
そこで、ようやく平伏していた顔を上げて、彼が――三位中将が、こちらを見た。
「私の欲しい言葉が――あなたの口から聞きたい言葉が、本当に、わからない?」
その双眸を見つめ返して、そう尚も問いかける。
「じゃあ、訊くけど。――どうして、あなたは麗景殿に来たの?」
「姫宮さま……」
「父上からのお声掛けだか何だか知らないけど、父上と一緒に来れば尚更、否応も無く私と顔を合わせることになると、わかっているのに……あなたは、どうして、ここに、来たの……?」
「…………」
「私をまんまと騙しおおせたまま、真実を知らせずに済ませようとは、考えなかったの……?」
「…………」
「こうして、わざわざ自分から正体を明かしに来た、その真意は、何……?」
「―――私も……もう一度、あなたにお会いしたかった」
どくん…と、ひときわ大きく、心臓が鳴いた―――。
思わず息を飲んでしまっていた。
彼を追い詰める言葉なんて、もう出せなかった。
こちらを見つめてくる、その真剣なまなざしに、まさに射竦められたように動けず、ただただ、その視線を受け止めていることしか出来なかった。
「私から主上に目通りを願い出ました。――あなたを妻として貰い受けたいと、そのお許しをいただくために」
どくん、どくん、と……うるさいくらいに心臓が喚いている。
跳ねる鼓動を確かめるかのように、知らず知らず私の手が、胸の上を押さえる。
「あなたに直接お会いする勇気は、まだ持てなかった。私は、よりにもよってあなたの目の前で刃傷沙汰に及び、気を失わせるほどの恐怖をあなたに与えてしまった。こんな私など、思い出すのもおぞましいと、きっとあなたに嫌悪されているに違いない。そう考えると、目通りを願う気持ちすら湧いてこなかった。――でも……あなたを手に入れることだけは、どうしても諦めきれなかった」
そこで一旦言葉を切った彼が、やおら表情を歪める。
その表情は……まるで泣き笑いのように見えた。――さきほど目の当たりにしたそれと、そっくり同じ微笑みを浮かべて。
「私は、卑怯者です。あなたに嫌われているとわかっていて……そのうえで主上にお縋りしました。お父上のためならと、あなたが断れないことを、わかっていながら……あなたを妻にと、私から望んでしまった。この話を断ることで、あなたが他の誰かのものになると考えたら、それがどうしても耐えられなかったのです」
「中将さま……」
「このたびは、畏れ多くも主上の方からお気を回していただき、あなたとの対面を取り計らっていただけることとなり……躊躇わなかったといえば、嘘になります。あの時の『良政』が私であったと知れて、さらなる嫌悪の眼差しを向けられるかと思うと、震えが走るほどの怖ろしさがありました。ですが……それ以上に、あなたに会いたいという気持ちの方が、勝ってしまった」
何故? と問う気持ちは、どうしても言葉にできなかった。
高鳴る鼓動の隙間に、少しずつ期待が膨らむ。
「姫宮さま――いえ、雪姫さま」
――ねえ、お願い……! あなたの口から、私の欲しい言葉を、どうか、聞かせて……!
「あなたが好きになりました、と……今の私が申し上げたら、今度はどんな返事をいただけますでしょうか―――」
その瞬間、視界が滲んだ。
さんざん流してすっからかんにしたはずなのに……再び溢れ出てきた涙の所為で、目の前の彼が今どんな表情をしているのか、よく見えない。
それでも私は、精一杯の笑顔を浮かべた。
「もちろん、あなたにそう言ってもらえたことを誇るわ! 心の支えとして生涯抱き続けるわ! ――だから……」
あの時、自分が言った言葉を思い出しながら、それを返す。
そこにもうひとつ、付け加えた。
「これ以上の幸せが欲しいって、ワガママ言っても、許してくれる……?」
溢れた涙を拭ってハッキリした視界に映る、目の前の彼の表情を――その、やわらかに美しい、どこまでも晴れやかな笑顔を。
この先ずっと、決して忘れることの無いように、私は心に焼き付ける―――。
――そうよ……私の気持ちなんて、もうとっくに決まっていたんだわ。
彼に会うことを――真実を知ることを、躊躇っていたのは、私も同じだ。
どうしたって拭い去れない、あの緋に染まった光景が思い出されてしまうたび、あんな惨状の中にあってさえ、えもいわれぬ美しさを感じさせる彼の姿が、心の底から恐ろしかった。
こんな想いを抱えたまま彼に会ってしまったら、自分がどうなってしまうのかと、わからないことにさえ怯えていた。
でも……実際に、顔を合わせてしまったら。
怖ろしいよりも何よりも、まず真っ先に驚きがきて……あとは“嬉しい”という気持ち以外、ほかに無かった。
そのとき初めて、自分がどんなに彼に会いたがっていたのかと、どんなに彼に恋焦がれていたのかと、否応も無くそれが解ってしまった。
あの時に感じた恐怖は、まだ根深く残っていて、決して消え去ることは無いけれど……それでも私の心は、彼を、彼だけを、こんなにも求めてやまなかったのか、と―――。
「あなたのワガママを叶えることが出来るのは、私だけの特権と、お許しいただけるなら幾らでも」
そんな冗談めかした彼の言葉に、思わずふふふと私の口から笑いが漏れる。
「私だって……あなたでなくっちゃ、叶えて欲しいだなんて思わないわ」
そこで脇息を脇に追いやり改めて居住まいを正すと、「不束者ですが」と、三つ指ついて頭を下げた。
「こんなわたくしでよろしければ是非、あなた様の妻にしていただきたく存じます」
「こちらこそ……末永くあなたの良き夫となれるよう、努めさせていただきます」
「…じゃあ、夜歩きは、どうかほどほどになさってくださいね?」
「――そうきたか……」
そこで唐突にブッ込んだ当て擦りには、少しだけバツの悪そうな表情を覗かせつつ彼が、「敵わないなあ…」などと呟きながら苦笑する。
「今ここで約束しますよ。妻をないがしろにするような行いは、今後一切いたしません。そこは信用してください」
「信用…していいの?」
「勿論です。私の妻は、あなた一人だけだ。――二世の契りを結ぶなら、あなたとがいい」
「…………!!」
まさに、それこそ私への当て擦りかと思うくらい、そんな小っ恥ずかしいことまで、よりにもよってものすごく真剣な表情で、言われちゃったら……!
絶句して赤面する以外、私にほかに、どうしろと……?
「いい機会です、こんな話になったついでに、こちらも言わせていただきますが……」
そんな絶句した私の隙を突くかのように、どこまでも真剣な表情を崩さずに、かつ、どこまでも慇懃な口調にもなって、彼の方が言葉を続ける。
「姫宮さまの方こそ、少しは自身の行いを省みられたほうがよろしいのでは?」
「へ……?」
「どうやらあなたは、男への警戒心が薄すぎるようだ。そこは、もっと姫宮さまらしく、淑やかにしていただかないと」
「な…なによ、そんな言い方って、私が不貞を働くとでも……?」
「――あの頭中将を、寝所へ招き入れたとか……」
「ハア!? んなハズないじゃん!! あいつが勝手に押しかけてきただけ……!!」
「つまりは、寝所への立ち入りを許したことは間違いない、と……」
「うっ……まあ、そう言われればそうだけど……」
「おまけに、弾正宮さまには、あろうことか単姿で抱き付いてまで、おられましたよね……」
「あ…ああああああれは、そのっ……!!」
「抱き付いた、のみならず、『大好き』とまで……」
「だだだだだから、あれはっっ……!!」
「妻の不貞を疑うような狭量な夫にはなりたくありませんが……あのようなお振る舞いを見てしまうと、やはり心配になりますね。あなたに近しい男ども全てに、疑いの眼差しを向けてしまいたくなる」
「…………」
――いや、まあ、言わんとしてることはご尤もでございますが……。
およそ姫宮として相応しくない言動だよねー…という自覚がなまじある所為で、コレッポッチも言い返す言葉も気力も湧いてこない。
挙句、先刻までの自分のことは棚に上げ、なんでこんなにイヤミ言われなきゃならないのかと、軽くイラッとまでしてきた。――当然ながら、表情には出しませんがー。
とりあえず顔にだけはしおらしく見える表情を取り繕って、でも内心では渋々ながら、そこで私も観念して頭を下げた。
「わかったわよ……もうこんな姫宮として相応しくない軽はずみな言動はいたしません。今ここで約束します」
「本当に、約束ですよ。――あなたの美しさを知っているのは、私だけでいい」
即、イラッとがブッ飛んだ。…ええもう、これでもか! ってくらいに遥か彼方にまでブッ飛ばされた。
その臆面もなく発された小っ恥ずかしい殺し文句の威力に、やさぐれ気分がフッ飛ばされた挙句、カーッと頬に血が集まってくる。
――そうだった……相手は当代一のスケコマシ、なんだったよ……!
どんだけ言い慣れているのかは知らないが……所詮、恋愛初心者の私が、そもそも太刀打ちできるハズもないと尻尾を巻いて逃げ出したくなるほどの、その堂に入った言いっぷり。
――かゆい……かゆ過ぎる……!
もはや正面きって向き合っていることにすら耐え切れなくなり、再び脇息を引き寄せると、その上に突っ伏した。
「姫宮さま……?」
「うん、ちょっと待て……いま気を落ち着けてるから……!」
気遣わしげにかけられた、そんな言葉を一方的に遮って振り切って、突っ伏したまま何度も深呼吸を繰り返す。
そんな私の耳に……やおら、人のざわめきと足音らしきものが飛び込んできた。
それは、次第にこちらへと近づいてくるようだった。
「――何かしら? なんか騒がしい……」
訝しく思って突っ伏していた脇息から顔を上げ、音の聞こえてきた方へ耳を欹てると……聞こえてきたのは、もはや馴染みのありすぎる声。
『――姫さまは今お休みになっておられますから……』
『だから、容体はどうなのだと訊いているではないか! つべこべ言わずに通せ!』
『おやめください、東宮さま! 姫さまは……』
『ただ姉上のご様子を見に来ただけだ、いいからそこをどけ奈津!』
『ですから旭さま、それは出来ぬと……!』
『姉上がご乱心なされたなどと、聞いた以上はこの目で確かめるまでは信じるものか!』
認識した途端、くらりとした眩暈を覚える。
――あのシスコンがー……!
言い争う声がここまで聞こえるくらいだ、さぞかし奈津と激しい攻防戦を繰り広げているだろうことが推察される。あの奈津が、よりにもよって『東宮さま』を、呼び慣れた幼名の『旭さま』と口に出してしまうくらいなのだから、これは余程のことだろう。
しかも、何だその『ご乱心』ってのは。私が簀子に出て泣き喚いていたことが、人の口を伝って弟の耳に『ご乱心』として届いてしまったのだろうか。――よりにもよって、なんて伝わり方を。
お目付け役の源尚侍が居なかったもんだから、誰にも止められないのをいいことに、それで麗景殿まで来ちゃったのね……ああもう、東宮付きの皆様の狼狽えようが目に浮かぶじゃない。
仕方ない……こちらにしても、寝所なんかで殿方と対面している、などと弟に知られるのは具合が悪いし、まかり間違って踏み込まれる前に、宥めておいたほうがいいだろう。となれば、ここは私が出ていくしかないか、と。
一つ深々とタメ息を吐いて立ち上がろうと脇息に手を突いた、――まさにそれと同時だった。
「―――姉上っっ!!」
なんかすごく近くから聞こえた? と思ったら、バタンと音も荒く、寝所の妻戸が開かれる。――どうやら攻防戦は奈津の敗北に終わってしまったらしい。思いのほか早く決着が付いてしまったようね……何てこったい。
開かれた扉のもと、そこに立っていたのは、案の定、弟である東宮――旭の姿。
その場で旭は、帳台の上に座した私の姿を認めた――と同時、そのすぐ傍にいた彼の姿にも気付いてしまったようだった。
驚きでか、咄嗟に大きく目を見開くや、ぽかんと口を開いた表情になり。
その後、じわじわとその表情が、眉を吊り上げて怒りの形相へと変わってゆく。
「――何故……!」
そして吠えた。私の傍らの彼へと、剣呑な色を宿した視線をひたと据えて。
「どうして貴様がここに居るんだ、三位中将―――!!」
「――これは東宮さま」
こういう場面で、何の動揺も見せず淡々と礼を取る三位中将の姿に……コイツどんだけ修羅場慣れしてるのかと、思ってしまう私は少々穿ち過ぎなのだろうか……?
「そのように取り乱されて、いかがなされました?」
「『いかが』も何も……!!」
余裕タップリにニコリと微笑む三位中将とは対照的に、怒りの形相で顔を紅潮させた旭は、唇をわなわなと戦慄かせ、言葉を発するのもやっと、という有様。
――どちらに軍配が上がるか、なんて、これは決まったようなものね……。
この中将の様子からして、こちらの援護など無用だろう。
にわかに面倒くささを覚えた私は、この場は傍観に徹することに決め込むと、対峙する二人をナナメに見やりながら改めて脇息に凭れ掛かった。
案の定、目の前の敵に一杯一杯であろう旭は、そんな私の様子なんざ気付きもしていない。
それをいいことに、旭の背後から顔を覗かせた奈津を手招きし、白湯を持ってきてもらうようにお願いした。――いい加減、泣いたり喚いたり動いたりしていたので、喉が渇いてしまったのだ。
「…あ、ついでに目もとを冷やす布と冷たい水も用意してもらえると嬉しいな。さっきから、ほっぺたのあたりまで、もうパンパンで」
「姫さま……あの、よいのですか、こんな時に」
「いいのいいの、放っときなさいな。暴れるだけ暴れたら勝手に帰るでしょ」
「はあ……姫さまが、そうおっしゃるなら……」
どうにも釈然としない表情の奈津を見送って、再びげんなりとしたタメ息ひとつ。
――どうでもいいけど……ウルサイから、喧嘩すんなら、どっか余所へ行ってやってくれないかな……。
「いかに東宮さまとはいえ、招かれもせず姉君の寝所に踏み入ってくるなどというお振る舞い、無礼にも過ぎるのでは?」
「この場に居る貴様が、それを言うか!! こんな…よりにもよって姉上の寝所で、一体なにをしていたのだ!! まさか姉上に不埒な真似でも……!!」
「わたくしは、姫宮さまのお招きを受けて、ここに居るまでのこと。楽しくお話をしていただけですよ」
「話だと!? 姉上が貴様のような者に、どんな話があるというのだ!! わざわざ招き入れる道理も無いではないか!!」
「おや、これは異なことを。いずれ夫婦となるわたくしどもが、互いに招きを受けて語らい合うことがあっても、何もおかしくはございますまい」
「夫婦だと!? 聞いていないぞ、そんなこと!!」
――うん……それはきっと父上が、旭には特に念入りに伏せておいたんだろうね……こうなることを見越していたとまでは思わないけど、コイツのことだ、相手が誰であれ何だかんだと難癖付けて騒ぐだろうことは確実だしな……。
「戯言を申すな!! 貴様のような者を姉上の夫になどと、父上が許すはずもない!!」
「畏れながら、結婚のお話は、主上のお声がかりによるものですよ。こたびの姫宮さまとの対面も、主上もご了承のうえ、取り計らっていただいたものでございます」
「何だと!? 言い逃れにしても馬鹿馬鹿しい、こんな二人きりでの対面など、それこそ父上が許すはずもない……!!」
「――ですから、『二人きり』ではございませんのよ、東宮さま」
そこで唐突に差し挟まれた涼やかな声に、旭がビクッと弾かれたような反応を見せ、勢いよくそちらを振り返る。
その視線の先には、その声の主――いつの間にやら几帳の陰から姿を現していた、源尚侍の姿があった。
「尚侍……!! いつから居た……」
「最初から、ですわ。ただいま申し上げましたでしょう? こたびの姫宮さまと三位中将さまのご対面は、わたくしの同席のもと、ということで、主上には特別にお許しをいただきましたの」
「そんな、馬鹿な……!!」
「馬鹿はあなた様の方ですわ、東宮さま。黙って様子を見ていれば、なんと情けないお振る舞い。いずれ人臣の上に立つ者のすることでは到底ございませんね。こんなことが知れたら、さぞ主上も悲しまれましょう」
「う……!!」
さすがお目付け役。やはり東宮であろうと源尚侍には頭が上がらないらしい。…ま、そらそーだ。上司とはいえ旭は所詮、元服したてホヤホヤのヒヨッコだもの、宮中にて海千山千の経験値を積んでいる彼女に手綱を握られては、そうそう好き勝手が出来るはずもない。――そこまで見通していらっしゃるのだろう父上の差配には、毎度のことながらオソロシイくらい感心しきりだよホントにな。
「そもそもこの時間は、東宮学士より教えを受けているはずではございませんの?」
「そ…それは、そのっ……!!」
「私事に取り乱した挙句、勤めをおろそかにするなど、もってのほか。そのような体たらくでは、姉君のご結婚をとやかく言える資格もございませんよ」
「…………っ!!」
源尚侍にグゥの音も出せずにやりこめられた――と思ったら、途端にくるりと踵を返し、まるで喧嘩で私に負けた幼い頃のように背中で泣きながら、旭が一目散に逃げ去ってゆく。
「まったく……毎度のことながら、逃げ足が早いのは姫宮さま仕込みでございますわね」
どこまでもお上品な仕草を崩さず可笑しそうにころころと笑う、そんな源尚侍に視線を向けられた私は、もはや「面目もございません」と苦笑しながらも謝るしか出来ない。――うん……ヒット&アウェイは、子供の悪ふざけには必要不可欠なんだよね……そういや昔っから旭と二人、よくイタズラしては逃げ回っていたっけなあ……。
「とにかく、こうして東宮さまが出てきてしまった以上、わたくしもお役目に戻りますわ。それに……これ以上の出歯亀は気が引けてしまいますし?」
私たち二人の会話を几帳の陰からずっと聞いていたのであろう、そんな源尚侍の多分にからかいを含んだ言葉に、即座にかーっと顔に血が集まった。――うっわ、改めて考えると、あの会話を他人様に聞かれていたというのは、ものっそい恥ずかしいー……!!
「主上へのご報告も、こちらでいたしておきますわ。あとはお二人で、ごゆるりと」
「――それでは、私も同行いたします」
言いながらその場を辞そうとした源尚侍の後を追うようにして、そう三位中将も立ち上がる。
「さすがに主上も、尚侍どのが席を外したと知れば、御心安くはいられないでしょう。それに私の方からも、本日のこと、主上へお礼を申し上げたい」
「わかりました。では共に参りましょうか、三位中将さま」
そして一つ頷いた彼は、そこでおもむろに、まだ赤面まっ只中だった私を振り返った。
「それでは姫宮さま。また後日、改めて」
「また後日……来てくれるの?」
「お呼びいただければ、何を置いても駆け付けますよ」
また唐突にそんなキザったらしいセリフを投げ込まれ、更に頬が熱くなる。――その言い慣れてる感、に加えて、そんなセリフも似合っちゃってる色男っぷりが、何かもうホント小憎らしいったら……!!
更には、「まあまあ、お熱いこと」なんて、あからさまにからかってくる源尚侍まで正視できなくなる。なんだこの居心地の悪さったらハンパない。
「では、わたくしもこれで失礼いたしますわ。一応は病み上がりなのですから、しっかり養生なさいませね、姫宮さま」
「そうでした。お身体、どうぞお大事に」
そう一礼して辞そうとした二人の姿を見送って……そこで、はっと思い出し、三位中将を呼び止めた。
「もし藤壺の女御さまにお会いになる機会があれば、後日あらためてご挨拶に伺いたいと、そう私が言っていた旨をお伝えしておいてくれる?」
「え……?」
「だって、藤壺さまが、あなたのお姉さまなのでしょう? 私からも結婚のご報告をさせていただきたいわ。私にとっても義姉上となるお方ですもの」
少しの間、彼は驚いたように目を瞠って。
やおら、ふわりと微笑んだ。
「伝えておきます。――姫宮さまのお心遣い、きっと姉も喜びましょう」
その後―――。
麗景殿から逃げ出した勢いのまま大層な剣幕で清涼殿へと駆け込んだあのシスコン弟が、よりにもよって衆目も憚らぬ大声で『姉上を三位中将と妻合わせるとは、一体どういうことですか!!』と父上に直訴し食ってかかり、挙句、また間の悪いことに当の三位中将までが居合わせることともなって、大いに場が紛糾し混乱を極めた結果、おかげでまだ“内々”でしかなかった私たちの結婚話が瞬く間に宮中中へと大々的に知れ渡ることとなってしまったのだが……そんな事情を私が知ったのは、翌日になってからのこと。
その場に姉上がいて止めてくださらなかったら間違いなく私は、頭に血を上らせた挙句に周囲の制止を振り切って東宮御所まで旭をブン殴りに押しかけていたことだろう。――心配してわざわざ参内までしてくれた…のみならず麗景殿で一晩お泊りになってくださってまで私をダダ甘えさせてくれた姉上には、本当に感謝しきりである。あやうく、付いてしまった『ご乱心』なんていう悪評を自ら上塗りしてしまうところだったわ。あぶないあぶない。
そして当然ながら……そう間も置かずやってくることになる怒涛の結婚お祝い攻撃に私が再びウンザリさせられるハメになるのは、――もはや言うに及ぶまい。
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