9 / 37
【断章】―フラッシュバック―
しおりを挟む【断章】―フラッシュバック―
――怖くて怖くて動くことも出来なかった。
『どうせ、コイツ喋れないんだからバレやしねーよ』
そんなことを言いながら男たちは、逃げようとする自分を押さえ付け、引き倒し、拘束した。さも楽しげな笑みを浮かべながら、殴る蹴るの暴力を見舞った。
痛みにぐったりと動かなくなり、抵抗が弱まると……待ってましたとばかりに、この身体を蹂躙した。
尻の穴を暴き、そこが裂け血が流れるのも構わず、その凶悪な大きさのイチモツを突き入れてきた。同時に別のものを口の中にも突っ込まれて、舐めろと強要してきた。男たちのソレから吐き出される白濁液が、流れる血と交じりそこに潤いを与えては、中を突き上げられるたび泡立つようなぐじょぐじょとした音を立てるようになるまで……もう幾度となく、それは繰り返された。口の中に吐き出されたそれは、嚥下することを強要され、だが飲み込めずに嘔吐いてしまうと、なんで言われた通りにしないんだと怒鳴られ、そして何度も何度も殴られた。ああコッチの方がいいのか、なんていう馬鹿にしたような響きの言葉と共に、小便を無理やり飲まされたりもした。
その場に居る誰もが楽しそうな笑顔で自分を見ている。というのに、誰も恐怖に涙する自分を助けてなんてくれなかった。
ただただ、代わる代わる、この身体を甚振ることを楽しんでいた。
『――そうか……可哀相に……』
暴力を受けた自分の有様は、優しい大人たちにとって相当な衝撃だったようだ。もうこういう事態が起こらないように、と、仕事の担当を乱暴な男たちと遭遇することが少ないだろう場所に変えられた。
自分が部屋付きとして仕えることとなったのは、ぱりっとした上等な衣服に身を包んだ男。見るからに、島にいる誰よりも身分の高い人間だろう、ということがうかがえた。
初めて引き合わされた時、その男は幾度となく『可哀相』を繰り返し、もう安心していいんだよと、こちらの頭を撫でた。――その瞬間、ぞわりと鳥肌が立つ。
自分を見つめてくるその男の表情には、微笑があった。
だが、その笑みはどことなく、自分を犯して楽しんでいた、あの男たちと同じもののように見えて仕方なくて……確たる理由は見当たらなかったものの、それでも心の底から安心なんて、とてもじゃないが出来そうもなかった。
『もう大丈夫。君が痛い目を見るようなことなんて何も無いからね……』
以来、その男に夜ごと部屋へと呼び付けられるようになった。
確かに、言った言葉のとおり、暴力をもって痛めつけられ、無理やり捻じ伏せられるようなことは無かった。
でも、その男がやることも、前の男たちと同じだった。
口でイチモツへの奉仕をさせられ、痛みを感じ無いよう香油で慣らした尻の穴にソレを突き入れられ、抜き差しされ、突き上げられ、やがて中に白濁液を吐き出される。
男の機嫌が良ければ、それに加えて、せいぜい全身あちこちを舐られ弄られるくらいのことで済むが。そうでない時は、口を使われ嘔吐くほど喉の奥にそれを突き入れられ乱暴に揺さぶられたり、目の粗い縄で全身を雁字搦めに縛られたうえでの行為を強要されたり、…ほかにも色々と、こちらに恐怖や痛みを与えるような行為をしてきた。
少しでも嫌がる素振りを見せれば、容赦なく鞭を振るわれる。
夜ごとこの部屋に通って、服を脱いで尻を出し、そこに男を迎え入れる、その一連の行為が君のやるべき仕事なのだ、と。その仕事を放棄する者に罰が与えられるのは当然なのだ、と。そう、鞭を振るわれると共に何度も何度も言い聞かせられた。
これは仕事、だから、嫌がる素振りさえ見せなければ、男は痛いことをしない。
どこか心に蟠っている、男への恐ろしさと行為への気持ち悪さには蓋をして。
あくまでも仕事、なのだと思えば、やがて慣れた。
『君は何て淫乱なんだろうね、私を、こんなに美味しそうに飲み込んで……もうコレ無しでは君は―――』
―――やめろ……!! 違う、そんなはずない……!!!!!
全身がビクッと跳ね上がる衝撃で目が覚めた。
どくっどくっと、心臓が激しく暴れている。その音が、まるで酷い耳鳴りのように頭の中にまで伝い響いている。
知らず知らず胸を押さえながら、横たわっていた寝台から起き上がった。
荒い息を何とか静めようと、何度となく深い呼吸を繰り返した。
『前の総督がおまえにしたことは、本当はしてはいけないことなんだ。相手に対して大好きだと想う気持ちがないと、してはいけない』
かつて言われたご主人様の言葉が思い出され、それがぐるぐると頭の中を巡る。
今のご主人様は、以前の生活から自分を救ってくれた、いわば恩人。
そんな人のくれた言葉だからこそ、あのような“仕事”は間違ったことであったのだと、自分はようやく、それを理解した。
『コルトにも、好きなものがあるだろう? 今のその“好き”の気持ちよりも、もっとずっと大きな“好き”だと思える人が出来たら……それと同じくらいの大きな“好き”を自分も貰いたいと思える人が出来たら……その相手となら、してもいいことなんだ。本来なら、な。――おまえにああいうことを強要する者どもは、それがわかっていない愚か者だ』
言われた言葉の意味は難しくて、その時の自分に、全てを理解できたわけではない。だが、知らなかったとはいえ、それまで間違ったことをし続けてきた自分は、とてつもなく“悪い子”――本来ならば誰の目からも隠しておかなければならないほどに恥ずべき存在、なのだと……ご主人様が優しく接してくれればくれるほど、そう思ってしまう気持ちは、どこまでも拭い去れなかった。
だからこそ、あの男の言葉が忘れられず、耳の奥にこびりついて、いつまでも刺さり続ける。
『もうコレ無しでは君は、生きてなんていけないだろう? 男に可愛がられたくて仕方ないんだね、この雌穴は。こんなにも気持ちイイって、涎を垂らして誘っているんだものね―――』
『なんて恥ずかしい子なんだろうね、君は。こんな淫らな雌穴は、隠しておかないといけないよ。だから塞いであげないとね……ああ、なのに、それすらも君は悦んでしまうのか、なんて浅ましい―――』
『本当の君は、こんなにもふしだらではしたない、恥ずかしくて誰にも見せられない本性を持っているのだよ……尻で善がり狂う、なんていう子は、とてもとても悪い子なんだから―――』
―――違う…違う違う違う、そんなんじゃない……!! あんなこと全然好きじゃない、喜んでなんかない、僕は“悪い子”なんかじゃない……!!!!!
「――どうした? 眠れないのか?」
ふいに傍らから聞こえてきたその声に、思わずビクッとして肩が揺れる。
ハッとしてそちらを見やると、間をあけて並べられた隣の寝台から、寝ぼけ眼がこちらを見つめていた。
「なんだあ? オバケでも見たような顔して。さては怖い夢でも見たんだな?」
その寝ぼけ眼が、ふいに細められる。
「わかったわかった、こっち来い」
「え……?」
「俺が一緒に寝てやるから、もう怖くないぞ」
そして、その手が掛布をめくり上げて、自分の隣をぽんぽん叩く。――ほら来いよ、って……その仕草は、自分に言ってくれているようで。
ふらりと、その仕草に誘われるようにして我知らず身体が動き、気付いた時にはその隙間に潜り込んでいた。
そんな自分の身体を、掛布をめくり上げていた手がふんわりと包み込んできて。
「…ほら、怖くないだろ」
視線を上げたら、すぐ目の前に、にっかりとした悪戯っぽい笑顔があった。
「こうやって朝までくっついてたら、悪い夢なんて、もう、見ない、んだから、な……」
言葉尻が小さくなっていく――と思ったら、次にはすうすうとした寝息が聞こえてきた。本当に、ずっと寝ぼけていたのかもしれない。
それでも……健やかで規則正しい寝息と、そのあたたかなぬくもりは、遠い記憶の向こう側にいる母の手を思い出させた。
思わず泣きたくなって、傍らで眠るあたたかな身体に縋り付く。
――きっと、もう悪い夢は見ない。このぬくもりに包まれている限り。
それは、もはや忘れかけていた安らぎだった。
これは決して手放してはならないもの、絶対に失ってはならないもの、だと……その時、誰に教えられなくとも、はっきりと解った。
何よりも自分の心が、それを強く求めていたのだから―――。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした
桜井吏南
ファンタジー
え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?
私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。
お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。
仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。
そして明かされたお父さんの秘密。
え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?
だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。
私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。
心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。
そして私の秘められし力とは?
始まりの章は、現代ファンタジー
聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー
完結まで毎日更新中。
表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。


まるで生まれる前から決まっていたかのように【本編完結・12/21番外完結】
有泉
BL
【特殊能力・変身・人外・忠犬的苦労性攻 × 振り回し系我儘王子受】【溺愛・無自覚一目惚れ】
架空のファンタジー世界を舞台にした、わりとゆっくり関係が深まっていくタイプのラブストーリーです。そういうのがお好きな方に。ハッピーエンド&ラブH確約。
「きみよ奇跡の意味を知れ」(本編完結)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/887890860/321426272
と同世界観ですが、これ単体でも読めます。
☆ ☆ ☆
成望国が有する異形「騏驥」は、人であり馬でありそして兵器である。
そんな騏驥に乗ることを許されているのは、素質を持った選ばれし騎士だけだ。
ある日、護衛をまいて街歩きを楽しんでいた王子・シィンは、一人の騏驥と出会う。
彼の名はダンジァ。
身分を隠して彼に話しかけたシィンだったが、ダンジァの聡明さに興味を持つ。
親しくなる二人。
何事にも「一番」にこだわり、それゆえ「一番の騏驥」に乗りたいと望むシィンは、ダンジァに問う。
「お前たち騏驥の間で『一番』は誰だ?」
しかしその問いにダンジァは言葉を濁す。
それまでとは違う様子に、シィンはますます彼が気になり……。
☆直接的な行為及びそれなりの意図を持った性的シーンについては、タイトル横に*印がついています☆
【「ムーンライトノベルズ」にも同作を投稿しています】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる