初恋

藍沢咲良

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蝉鳴く頃 6

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一ノ瀬が美和を連れて行ったのは『本郷亭』だった。


そう、香織とよく行くラーメン屋だ。


「ここの醤油豚骨が美味いんだよ。」
このラーメン屋がよっぽど好きなのか、ずっと笑顔で券売機のシステムについて教えてくれる。


うん、知ってる。
って言わない方が良いんだろうなぁ…。


勧められるがままに醤油豚骨の普通盛りを注文した。


…うん、安定の美味しさだ。
しみじみと味わっていると、一ノ瀬が美和をじっと見ていた。

「…どう?美味しいでしょ?」

「うん、美味しい。一ノ瀬くん、よく来るの?」

「たまにね。」


『本郷亭』はランチタイムだとご飯がおかわり自由らしい。キムチも付いてくる。

「すごいね。もう何杯目?」

一ノ瀬はご飯のおかわりをまた盛ってきた。

「たぶん、3杯目…かな?」


いつも香織と来るときはカウンターに座る。

今日はテーブル席に案内された。


香織との時は気にならなかった。

美和は一ノ瀬と向かい合うと自分の食べ方が綺麗かどうか、気になってしまっていた。

麺を啜る音、スープのはね、私は綺麗に食べられているだろうか…?
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