初恋

藍沢咲良

文字の大きさ
上 下
24 / 142

風薫る 8

しおりを挟む
美和は迷っていた。



弓を返却する為、朝練の最中、弓道場を訪れた。


市大会は終わった。
自分達が県大会に進むことはなかった。

それはイコール、引退を意味する。

いつもの様に朝練をしようかどうか…?

試合はもう無い。

でも、多少練習しても良いのでは…?



ぐずぐずと矢立に自分の矢を戻していると、千紗が寄ってくる。

「おはようございます!…美和先輩、先輩の矢、私にください!」


そうだった。
引退する際、仲の良い先輩から矢を貰うというのはこの部の伝統だ。


「…いいよ。大事に使ってやってね。」
エメラルドグリーンに白羽が映える、美和が好きだった色合い。

美和は千紗に手渡した。



弓道場を振り返る。

我が物顔で道場内を取り仕切っているのは2年生だ。

3年部長の鈴木くんは遠慮がちに道具の整頓をしていた。

そうか、そうだよね。

去年の今頃もそうだった。

先輩達の試合が終わったら、もう弓道場は自分達のもの、そう錯覚したかのように皆動いていた。
美和も例外ではなかった。


引退とは、そういうものだ。

その場所に行ったって、そこに私の居場所はもう無い。


居心地は快適ではなかった。
でも、私の居場所ではあった。


過去の居場所となった弓道場。

踵を返し、美和は教室へ向かった。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不運な王子と勘違い令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:158

婚約破棄撤回作戦

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:676

結婚はするけれど想い人は他にいます、あなたも?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:85

初恋を拗らせた結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:35

婚約破棄されましたが、幼馴染の彼は諦めませんでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:639pt お気に入り:286

処理中です...