ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。

藍沢咲良

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縁 8

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その日の時緒のリクエストは冷やし中華だった。これを食べると夏が来たって思える。

「──時緒」
「ん?」
「匠さん、ぱっと見ポーカーフェイスだったけど、どんどん表情崩れていったね」
思い出すとおかしくて。くすくす笑いながら冷やし中華を口に運ぶ。

冷やし中華を見つめて少し考え込んでいた彼は顔を上げて放った。
「ポーカーフェイスは…あいつの鎧というか、何というか…」
「鎧?」
「母1人子1人だった影響なのか、わかんないけど。初めて会った頃も俺と父に対しての警戒心が強くてさ。表情が崩れるだなんて、滅多に無かった」
「それじゃ…表情が崩れるようになった今は」
「そう、だいぶ警戒心が解けてきたんじゃないかな。相当気を張って生きてたみたいだからな」
それをくすくす笑ってしまうだなんて。ああ、私、反省。


「気にしなくていい。俺もちょっと笑っちまったからな。しかし──俺らの前でも彼女を口説くとかなあ…。以前の匠では考えられないな」
「匠さんじゃなくてもなかなか無いよね」
「ありゃよっぽどぞっこんだな」
「ぞっこん……。時緒は?」
「ん?」
「時緒は、私にぞっこんでいてくれてるの?」
「んー」
「即答、しないの?」
「言わない」

聞いた私が悪いんだけど。聞いた時点で私の負けなんだけど。ああ、聞かなければ良かった。

「──英は?」
「え?」
「ぞっこん、なの?俺に」
「……言わない」
「英だって即答しねえじゃん」
時緒と同じ台詞言ってやっただけなんですけど。お互いの咀嚼音だけがやけに響く。


「ご馳走様」
居た堪れなくて席を立つ。時緒のお皿も手にしようとすると制された。

「それ、後でいい」
顔を上げると、後頭部を固定された。唇を奪われたと気付いたのは、多分数秒経ってから。
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